24 死角を突け
眼前の巨大なスクラップ・ストーカーは、さながら神話の竜だ。正面から戦いを挑めば、一瞬で鉄屑に変えられるのが関の山。防護服のタイムリミットはじりじりと迫っている。
カイは焦りを押し殺し、まずは敵を徹底的に観察することに決めた。それは、下層区で生き抜くために、彼が最初に学んだ生存術だった。
彼は近くの残骸の影に身を潜め、巨大な番人の動きを追った。
巣の主は、巣の入り口である船体の穴の周囲を、ゆっくりと、しかし規則的に巡回している。その動きには、視覚で周囲を警戒している様子はなかった。代わりに、頭部から伸びた数本のアンテナのような器官が、微かに震え、周囲の空間を探っている。
(……目が見えない、あるいは極端に視力が弱いのか?)
カイの脳裏に、一つの仮説が浮かんだ。
その仮説を裏付けるように、番人は時折、遠くの残骸が崩れた音や、化学反応で発生した微弱な電磁パルスに、敏感に反応を示していた。
視覚の代わりに、聴覚と、おそらくはエネルギーを感知する特殊な感覚が、異常に発達している。そして、その主な目的は、捕食、すなわちエネルギー源の確保だ。
(……使える)
カイの口元に、ヘルメットの中で笑みが浮かんだ。
――獣の習性を利用する。それもまた、スカベンジャーの戦い方だ。
カイは慎重に、番人から気づかれないように後退すると、軍艦とは反対の方向にある、別の巨大な残骸の山へと向かった。そこには、半分腐食した、旧時代の大型車両の残骸があった。その動力部には、まだわずかにエネルギーが残っている可能性がある。
カイはその車両に近づくと、自身のパルスガンのエネルギーパックを取り外した。予備のパックはない。これを失えば、丸腰になる危険な賭けだった。
彼は、そのエネルギーパックを車両の動力ケーブルに無理やり接続し、短絡させて、数分後に過負荷を起こすように、簡易な時限装置を仕掛けた。
――あとは、待つだけだ。
カイは急いで軍艦の入り口が見える位置まで戻り、息を殺してその時を待った。
数分後。
カイが仕掛けたトラップが作動し、車両の残骸から、バチバチという激しい放電音と共に、強力なエネルギーパルスが迸った。
その瞬間、巣の主が、まるで雷に打たれたかのように動きを止めた。
そして、金属を擦り合わせるような甲高い咆哮を上げると、巣を守ることも忘れ、一直線にエネルギーの発生源へと突進していく。その動きは、飢えた獣そのものだった。
(……今だ!)
カイは、番人が巣から完全に離れたのを確認すると、残骸の影から飛び出した。
不安定な足場を駆け抜け、目的の軍艦の、黒く巨大な入り口へと飛び込む。
船内に着地した瞬間、外の喧騒が嘘のように、しんと静まり返った。
鼻を突くのは、時が化石になったかのような、濃密な埃と錆の匂い。そして、紛れもない死の匂いだった。
光は一切届かず、防護服のライトだけが、目の前の、どこまでも続く暗黒の回廊を照らし出していた。
HUDが、新たな警告を表示する。
《WARNING: AIR QUALITY LEVEL CRITICAL. FILTER DEGRADATION ACCELERATED.》
(大気の質が危険レベル……フィルターの劣化が早まる、か。クソっ、のんびりしている時間はないな)
番人を出し抜いた安堵も束の間、カイは新たな、そしてより確実な死のカウントダウンが始まったことを知る。
彼はスキャナーを強く握りしめ、古代の墓場と化した船の奥深くへと、一歩を踏み出していた。