2 初めての咆哮
銃口が、暗闇の中で冷たく光っていた。
上層区の治安部隊──ここに現れる理由はひとつ。〈バトルギア〉を回収するためだ。
「その装備を降ろせ、少年!」
先頭の隊員が叫ぶ。
だが、カイは動けなかった。いや──動かすのは、もう彼自身ではない。
《脅威優先度・高。自動防衛モードへ移行します》
機械的な声と同時に、バトルギアの脚部が地面を踏み鳴らし、低い唸りを上げる。
カイの意思を無視して、体がわずかに前傾した。
「待て……俺は戦うつもりなんか──」
言い終えるより早く、右腕に組み込まれた装甲パネルが展開し、鋭い衝撃音と共に弾丸が弾き返された。
HUDには赤いマーカーが次々と浮かび、敵の位置・距離・心拍数までもが表示される。
視界の隅に、無意識のような感覚で“行動選択”が現れた。
──回避。
──制圧。
──殺傷。
「……クソが」
カイは唇を噛み、手を握った。選択肢の中で“制圧”を意識した瞬間、バトルギアは地を蹴り、瞬時に二人の隊員の背後へ回り込んだ。
振るわれた装甲の腕が、まるで大人が子供を払いのけるかのように彼らを吹き飛ばす。壁に叩きつけられた音が、廃工場に鈍く響く。
だが、他の隊員が即座に銃撃を再開する。
火花が弾け、油の匂いと硝煙が混ざり合う。
カイは反射的に左腕を前に出し、そこから金属質のシールドが展開された。
銃弾が雨のように弾かれ、地面に跳ねる。
《残存脅威:4。推奨行動──排除継続》
「……黙れ。俺は、お前の言いなりになる気はない」
そう吐き捨てながらも、カイの呼吸は速くなっていた。
恐怖と興奮──生まれて初めて、圧倒的な力を自分の手の中に感じていた。
一人が手榴弾を構える。
カイの体は反射的に跳躍し、破片と爆炎を背後に置き去りにする。
着地と同時に、膝から伸びた衝撃装置が地面を叩き割り、その振動で敵の足元を崩す。
隊員たちは次々と倒れ、呻き声を上げた。
静寂。
硝煙だけがゆらゆらと漂っている。
カイは深く息を吐き、視界から消えない赤い警告表示を睨んだ。
──この装備は、ただの機械じゃない。
──そして、自分の意思だけでは止められない。
《初期戦闘データ収集完了。次任務プロトコル、起動可能》
背後で、さらに重い足音が響いた。
カイは振り返る。
廃工場の入り口に、全身を機械兵装で覆った巨躯の影が立っていた──