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レイン・リベリオン  作者: まくら
第一部 『鉄の胎動』
16/38

16 鋼の心臓



 ウィンチがカイの身体を地上へと引き上げ、彼は崩落現場の縁に倒れ込むように着地した。

 荒い呼吸を繰り返すカイのそばに、リアがサルベージ機のコックピットから降り立つ。彼女はカイの傷ついた腕を一瞥したが、労いの言葉はおろか、何の感情も示さなかった。


 代わりに、彼女は自身の腰のポーチから、黒いチューブ状の物体を放り投げた。


「軍用の医療シーラントだ。気休めにはなる。あたしの道具を使ったんだ、後で代金から引いておく」


 言葉とは裏腹に、それはカイが普段使っている安物のバイオスプレーとは比較にならないほどの高性能な治療薬だった。カイは黙ってそれを受け取ると、傷口に押し当てて出血を止める。リアなりの、最低限の投資のつもりなのかもしれない。


 工房への帰路は、行きとは対照的に、重々しい沈黙に満ちていた。

 サルベージ機が、まるで宝物を運ぶかのように、大破したレクス7を慎重に吊り上げて運んでいく。カイは再びガンナーズシートに座り、リアは黙々とマシンを操縦していた。

 二人の間に会話はなかったが、それはもはや以前のような緊張感だけではなく、危険な任務を共に乗り越えた者同士が共有する、不思議な一体感のようなものが混じっていた。


 夜が再び明け始める頃、彼らは溶接横丁へと帰還した。

 巨大なブラストドアが閉まり、外界から完全に遮断される。工房の中央に、ゆっくりとレクス7が降ろされた。

 カイとリアは、その傷だらけの機体を前に、しばし無言で見つめていた。


「……さて、解体ショーの始まりだ」


 それまでの沈黙を破り、リアが恍惚とした表情で呟いた。彼女の目は、もはやただのメカニックではなく、未知の文明を発掘する考古学者のように輝いていた。

 彼女はすぐさま、おびただしい数のケーブルやスキャナーをレクス7に接続していく。モニターには、カイが見たこともない複雑な解析データが、滝のように流れ始めた。


「ドローンでのスキャン通り、フレームの合金は未知の素材。自己修復の痕跡もある。だが、問題はやはり……この心臓部だ」


 リアは、レクス7の胸部、最も損傷の激しい部分の装甲を、慎重にこじ開けた。

 その内部が露わになった瞬間、リアだけでなく、カイも息を呑んだ。

 そこにあったのは、冷たい機械の塊ではなかった。

 複雑なケーブルが、まるで血管や神経のように有機的な曲線を描いて絡み合い、その中央にある動力炉は、破壊されているにもかかわらず、まるで呼吸をするかのように、かすかな光を周期的に放っていた。


「……生きてるみたいだ」


 カイが、思わず呟く。


「ああ……」


 リアが、夢見るような声で応えた。


「こんな代物、あたしがいた上層区(うえ)のどこにも存在しなかった。これは、ただのバトルギアじゃない。誰かが、禁忌を破って生み出した……全く新しい生命体だ」


 リアは我に返ると、厳しい顔でカイに向き直った。


「ガキ。状況は最悪だ。この心臓部は、そこらの部品で修理できる代物じゃない。特殊なパーツが、それも複数必要になる」


 彼女はモニターの一つをカイの方へ向けた。そこには、極めて複雑な構造を持つパーツの設計図が表示されている。


「手始めに、これが必要だ。『量子演算ユニット』。並の代物じゃない、軍の最新鋭機にすら試験的にしか搭載されていないパーツだ」


「どこでそんなものが手に入るんだ?」


「正規のルートじゃ絶対に無理だ。だが、下層区には、上層区から流れてきた『お宝』が集まる場所が一つだけある」


 リアの目が、再び狩人のように光る。


「セクターJのブラックマーケット・オークションだ。お前に、これを競り落としてきてもらう」

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