16 鋼の心臓
ウィンチがカイの身体を地上へと引き上げ、彼は崩落現場の縁に倒れ込むように着地した。
荒い呼吸を繰り返すカイのそばに、リアがサルベージ機のコックピットから降り立つ。彼女はカイの傷ついた腕を一瞥したが、労いの言葉はおろか、何の感情も示さなかった。
代わりに、彼女は自身の腰のポーチから、黒いチューブ状の物体を放り投げた。
「軍用の医療シーラントだ。気休めにはなる。あたしの道具を使ったんだ、後で代金から引いておく」
言葉とは裏腹に、それはカイが普段使っている安物のバイオスプレーとは比較にならないほどの高性能な治療薬だった。カイは黙ってそれを受け取ると、傷口に押し当てて出血を止める。リアなりの、最低限の投資のつもりなのかもしれない。
工房への帰路は、行きとは対照的に、重々しい沈黙に満ちていた。
サルベージ機が、まるで宝物を運ぶかのように、大破したレクス7を慎重に吊り上げて運んでいく。カイは再びガンナーズシートに座り、リアは黙々とマシンを操縦していた。
二人の間に会話はなかったが、それはもはや以前のような緊張感だけではなく、危険な任務を共に乗り越えた者同士が共有する、不思議な一体感のようなものが混じっていた。
夜が再び明け始める頃、彼らは溶接横丁へと帰還した。
巨大なブラストドアが閉まり、外界から完全に遮断される。工房の中央に、ゆっくりとレクス7が降ろされた。
カイとリアは、その傷だらけの機体を前に、しばし無言で見つめていた。
「……さて、解体ショーの始まりだ」
それまでの沈黙を破り、リアが恍惚とした表情で呟いた。彼女の目は、もはやただのメカニックではなく、未知の文明を発掘する考古学者のように輝いていた。
彼女はすぐさま、おびただしい数のケーブルやスキャナーをレクス7に接続していく。モニターには、カイが見たこともない複雑な解析データが、滝のように流れ始めた。
「ドローンでのスキャン通り、フレームの合金は未知の素材。自己修復の痕跡もある。だが、問題はやはり……この心臓部だ」
リアは、レクス7の胸部、最も損傷の激しい部分の装甲を、慎重にこじ開けた。
その内部が露わになった瞬間、リアだけでなく、カイも息を呑んだ。
そこにあったのは、冷たい機械の塊ではなかった。
複雑なケーブルが、まるで血管や神経のように有機的な曲線を描いて絡み合い、その中央にある動力炉は、破壊されているにもかかわらず、まるで呼吸をするかのように、かすかな光を周期的に放っていた。
「……生きてるみたいだ」
カイが、思わず呟く。
「ああ……」
リアが、夢見るような声で応えた。
「こんな代物、あたしがいた上層区のどこにも存在しなかった。これは、ただのバトルギアじゃない。誰かが、禁忌を破って生み出した……全く新しい生命体だ」
リアは我に返ると、厳しい顔でカイに向き直った。
「ガキ。状況は最悪だ。この心臓部は、そこらの部品で修理できる代物じゃない。特殊なパーツが、それも複数必要になる」
彼女はモニターの一つをカイの方へ向けた。そこには、極めて複雑な構造を持つパーツの設計図が表示されている。
「手始めに、これが必要だ。『量子演算ユニット』。並の代物じゃない、軍の最新鋭機にすら試験的にしか搭載されていないパーツだ」
「どこでそんなものが手に入るんだ?」
「正規のルートじゃ絶対に無理だ。だが、下層区には、上層区から流れてきた『お宝』が集まる場所が一つだけある」
リアの目が、再び狩人のように光る。
「セクターJのブラックマーケット・オークションだ。お前に、これを競り落としてきてもらう」