表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

1 屑鉄の街で




重油と錆びの匂いが、夜の空気に混ざって漂っていた。

 下層区──都市の底。上層の輝く街並みとは隔絶されたこの区域では、街灯はほとんど機能せず、路地は薄闇に沈んでいる。足元には油水が溜まり、空気は重く、湿っていた。


 黒髪で深い灰色の瞳の少年──カイは、薄汚れたジャケットの襟を立て、黙々と歩く。背後からは視線が刺さるように感じられるが、振り返ることはない。ここでは、弱みを見せれば命取りだ。

 彼はこの街で生まれ、この街で育った。

 そして学んだ。人は信用するものではない──少なくとも、この下層では。


 目的地は廃工場の一角。そこに、ある“装置”が隠されていると聞いた。

 装置の名は〈バトルギア〉。軍用の外骨格で、今は開発中止となり、上層区の廃棄倉庫から流れてきたらしい。

 カイはそれを金に換えるつもりだった。食うためだ。それ以上でも、それ以下でもない。


 鉄扉を押し開けると、室内には誰もいない。埃と鉄の匂い、そして中央に鎮座する異様なシルエット──人型に近いが、装甲板とケーブルで覆われた黒い機械。

 近づくと、表面にかすかな発光パターンが走った。まるで呼吸をしているかのようだ。


「……これが、バトルギア?」


 試しに肩部分に手をかけた瞬間、金属が柔らかく形を変え、彼の腕を包み込む。

 カイは反射的に引き剥がそうとするが、逆に装甲が全身に走り、視界が黒いヘルムのHUDに覆われる。


 脳内に直接、機械的な声が響いた。


《ユーザー認証完了──パイロット、カイ・レイン。任務プロトコルを起動します》


「任務? ふざけるな、俺は──」


 言い終わる前に、工場の外から複数の足音。武装した集団が影から現れた。

 上層区の紋章が刻まれた防弾ベスト。銃口が、一斉にカイへと向けられる。


「おいおい……何の冗談だ」


 次の瞬間、HUDが真紅に染まり、視界右下に表示が現れる。


《脅威検知──排除を推奨》


 カイは息を呑んだ。

 機械が、彼に殺せと言っている──

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ