6 記憶が戻る
「あ…」
体に戻ると、窮屈さを感じた。目を開けると、昴くんが私をじっと見ていた。その目は、優しくてあったかい。いつもの昴くんだ。
「昴くん…」
私は昴くんに抱きついた。
「昴くん、愛してるよ」
愛しさでいっぱいになり、そうつぶやいた。
「思い出したの?」
「うん」
「全部?」
「うん」
「本当に?」
「本当に、全部思い出したよ」
「ひかり~~!!」
昴くんが、思い切り私に抱きついてきた。
「ひかり、なんで俺のこと忘れるんだよ!ひでえよ!」
昴くんはそう言って、私の胸に顔をうずめた。
「ごめんね…。お風呂場で思い切りすべって頭打ったら、なんか忘れちゃったんだよね」
「う~~~」
昴くんは、まだ怒ってた。
「ま、いっけどさ~~。俺のこと忘れちゃってたひかりも、新鮮だったし」
「ふふ…」
「何?!」
「昴くん、思い切り照れてた」
「俺が?」
「うん」
「ふ、ふ~~んだ。照れてるふりをしてただけだよ」
なんで、そういうこと、自分で認めないのかな、まったく…。
「うっせえや」
昴くんはすねて顔をあげ、そっぽを向いてしまった。私は昴くんの顔を、私の方に引き寄せてキスをした。
「でも、記憶なくなっても、やっぱり私は昴くんに、恋してたよね?」
「……」
昴くんは黙った。でも心の中で、
『思いっきり、俺にくびったけになってたよ。俺、まじで、どうしようって思ってたもん』
と戸惑った感じで、そう言った。
「ええ?ずっと私は、昴くんにくびったけだよ?」
「え?」
「昴くんの全部が大好きだもん」
「……」
昴くんは、思い切り嬉しそうな顔をして、
「ひかり~~~!」
とまた、抱きついてきた。ああ、しっぽがはえてたら、絶対にぐるぐる振ってるだろうな~~。
「ひかり、もう一回いい?」
「え?」
「もう一回、抱いてもいい?」
「……」
「ええ~~?」
昴くんはすごいがっかりした声を出した。
「あれ?私今、なんて思ってた?」
「もう、駄目って…」
「あ、それ無意識だ」
「ええ?ひで~~!」
「あはは。ごめん。でも、明日早いんでしょ?もう寝たほうがいいよ。夢で会おうよ、ね?」
『なんだよ~~。ひかり、俺のこと忘れてたときの方が、俺に抱かれるのも喜んでたのに』
「え?そう?」
「もう一回、記憶なくさない?」
「なくさないよ!もう、いいから早く寝なさい!明日起きれなくても知らないからね!」
『ちぇ~~。いきなりお姉さんぶるのかよ。ああ、どうせ俺はガキですよ~~』
昴くんが心の中で、思いきりすねてた。そしてくるりと背中を向けて、
「おやすみ!」
と言って、寝てしまった。
ああ。すんごい寝つきのよさ…。すやすや寝てる昴くんの背中にキスをして、そっと抱きしめて私も眠りについた。
夢の中で、昴くんは私に抱きついてきて、
「続き、さ、続き!」
とわけのわからないことを言った。
「続き?」
「そう、もう一回。夢でならいいよね?」
しょうがないな~~。もう…。心でそう思うと、昴くんは、
「やった!」
と言って、抱きついてきた。あ…。しっぽがはえてる。そしてぐるぐると振りまわってた。
ほんと、昴くんって可愛いよね…。夢でも昴くんが思い切り愛しくて、私は昴くんのことを、ぎゅって抱きしめた。
昴くん、大好きだよ…。
「俺も、ひかりのこと、愛してるよ」
そして夢の中でも、昴くんのキスに私はとろけていた。
終わり