5 幽体離脱
すんごい奇麗だ。こんなに間近で見れるなんて…。
「奇麗って言われてもな~~」
昴くんが、ちょっと鼻の横を掻いた。あ、照れてるのかな…。そんな表情は可愛い…。
「……」
昴くんにみとれてしまった。やばい。きっと私の目、うっとりしてる。
「あはは…。そうだね。ハート型してるよ」
「うそ!」
「あはは…」
昴くんが、目を細めて笑った。あ~~~~。やばすぎる。その笑顔、大好きなんだよね。
「……」
昴くんがしばらくうつむいた。思い切り照れてる…。昴くんが感じてることが、伝わってきた。
「あのさ…」
「え?」
「いや、いいんだけど、そりゃ、嬉しいんだけど…」
「?」
「うん。みとれても、俺を見て喜んでくれても、いいんだけど…」
昴くんは、まだ下をむいたまま、頭を掻きながらそう言った。
「あ、でもやっぱり、照れくさいな…」
そう言うと、ぼりぼりって頭を掻いて、髪をかきあげた。
「俺の髪はいいや。適当に乾くから。ひかりの髪、乾かすよ」
昴くんはドライヤーを持ち、私の髪を手ですくいながら、優しく乾かし始めてくれた。
う~~わ~~~。たまに昴くんの指が、首や耳に当たる。胸が高鳴って、どくんどくんいってる。
昴くんは私の髪が乾くとドライヤーを止めて、後ろから私のことを抱きしめてきた。
「す、昴くん?!」
抱きしめられて、思い切り戸惑っていると
、
『ひかり、愛してるよ』
と心の中で言ってきた。
うわ~~~~~!!!愛してる?!!!ど、どうしたらいいの?私!!!
「どうしたらって…。ひかりは?」
「え?」
「俺のこと愛してる?」
え?え?え~~?そんなこといきなり聞かれても…。
「わ、私は…」
好きだけど、でも昨日まで私、昴くんのことファンでいたけど。
『ファン?』
だって、本当の昴くんのことは知らないし。
「本当の俺?」
こうやって目の前にいても、ときめいてる。昴くんに抱きしめられて、ドキドキしてる。だけどどこかで、安心してる。あったかくって優しい昴くんのぬくもりに…。
体中が反応してる…。キスされたときみたいに、とけちゃいそうだ。
「なんだ…」
「え?!」
「やっぱり、俺のこと愛してくれてるんじゃん」
「え?」
「わかるよ。ひかりの感じてること伝わってくるから」
「……」
うわ~~。とけちゃいそうになってるのも?
「だから、俺も同じだよ」
「え?」
『ひかりといると、あったかくって、気持ちよくって、嬉しくって…』
昴くんの心の声が聞こえた。
『あ、限界…』
げ、限界?
『抱いたりしたら、駄目かな?』
「ええ?!」
私は思い切り、驚いて慌ててしまった。
だ、だ、だ…、抱く…?
『駄目か~~』
駄目かって言われても、ど、どうしたらいいの?
『ひかり、もういい加減、思い出して?俺らのこと』
『え~~~?そう言われても…』
思い出そうとしてみた。うすぼんやりした何かが、頭の中にあるんだけど、いきなり頭痛がしてそれ以上は思い出せない。
「ごめん。無理しないで。そっか、思い出そうとすると、頭痛するのか」
昴くんは優しくそう言ってくれた。
「ま、いいや。これも宇宙に任せてみよう。そのうち思い出すよね?」
「ごめんね」
「あやまることないって。なんか、うん。こういうのも、新鮮でいいし。あ。いいんだ。今日はこうやってくっついてるだけでも、俺…」
昴くんって、優しいんだな…。優しくて、あったかくて、照れ屋で、可愛くて…。あのドラマの昴くんとは大違いなんだ。
「がっかりした?俺、てんでクールじゃなくって」
「ううん。もっと好きになったかも…」
「え?」
ああ。すごいこと言っちゃった。私…。
「嬉しいよ」
昴くんがまた、後ろからぎゅって抱きしめてきた。そして首にキスをしてくる。う~~わ~~~。それだけでも、心臓がばくばくして体が熱くなる。
「え?」
昴くんが私の心の声を聞いて、ちょっと驚いてた。
「な、何?」
私また、変なこと思ってた?
昴くんがいきなり、ぐるって私のことを振り向かせた。
「ひかり、いいの?」
「な、何が?」
「だから、その…」
「な、何?」
「抱いても、いいの?俺…」
私そんなこと思ってないよ。
「思ってたよ?」
「うそだ」
「だって、首にキスをしたときに…」
「思ってないってば」
「え?でも、このまま昴くんに、抱かれてもいいかなって声、聞こえたよ」
「うそだ!」
「あ。また自分で思ったこと、蓋しようとしてる?自分で感じないようにする癖あるよね?」
「え?」
「そんなこと思っちゃいけない…みたいにそう自分で思いこんでて、感じたこと自分で、蓋してしまいこむよね」
「私?」
「うん。素直に思ったことそのまま、受け止めてたらいいのに」
「私が、自分で…?」
「うん」
でも、変なこと思ったら、昴くんに聞こえちゃうし、嫌がられたりしないのかな。
「俺が?嫌がるわけないじゃん。どんなひかりも愛してるのに」
えええ?!!!
「ひかりだって、どんな俺のことも愛してくれてたよ?」
私が?
ううん、それはなんとなくうなづける。どんな昴くんも好きでいるかもしれない…。
「で…。いいの?」
「え?」
「だから、俺、ひかりのこと、抱いてもいいの?」
「……」
言葉につまってしまった。なんて言ったらいいんだろう。ああ、そっか。私の感じてることを素直に感じてみたらいいのか…。
しばらく私は黙ってた。そんなこと言って、昴くん、変に思わないかな…って、思うわけないって言われたばかりだ。
じゃ、えっと…。ああ。かなり恥ずかしい。昴くんのこと大好きだし、触れられただけでもこんなにときめいてるし。でもすごく嬉しいし、もっと触れて欲しいって思ってるし。
だけどいいの?10歳も年離れてるし…。ああ、年齢は関係ないって言われたっけ…。
記憶がないだけで、もう、昴くんのところに泊まってるってことは、そういうこと経験してるんだよね?私。
「うん」
昴くんは、私が最後に思ったことに返事をした。
「……」
でも、なんて言ったらいいの?まさか、抱いてくださいなんて言えないし…。
「聞こえてるから、大丈夫!」
昴くんがにこって笑うと、いきなり私を押し倒してきた。
「ええ?」
「あ。もうそんなにびっくりされても、俺、強引に抱いちゃいます」
「え?」
「だって、ひかりもそれ、望んでるってわかったし」
あ~~。そうか、口にしなくても全部昴くんには、感じてることわかっちゃうのか。
「そういうことだから」
昴くんはそう言うと、キスしてきた。ものすごく優しいキスで、それだけで私はとろけてしまっていた。体が宙に浮きそうになるっていうか、すごく気持ちがいい。
「ひかり、魂抜けないでね」
「え?」
魂が、抜けるって?あ、今、そんな気持ちにはなってたけど。
「幽体離脱、キスだけでひかりしちゃうから」
「幽体離脱?」
「そ。体から魂抜けるんだよね。たまに…。あ、俺もたいてい一緒に…」
魂が、抜ける???
「ま、いいや。今はまだ抜けないでね。そのうち、魂抜けるかもしれないけど、そんときはそんときね」
えええ?
言ってることが理解できなかった。そ、それだけ気持ちがいいってことを言いたいのかな…。
えええええ?!
もっと私は、慌ててしまった。でも、そんなのおかまいなしに、昴くんは私が着てたパジャマをどんどん脱がせていく。
「で、電気…」
「消す?」
「うん…」
昴くんは立ち上がり電気を消した。電気を消しても、外の街灯で、部屋はうすぼんやりと明るかった。
その薄暗い中で昴くんの顔を見た。奇麗な輪郭と、優しいまなざし。
まだ、信じられない…。夢でも見てるみたいだ…。
『ひかり、愛してるよ』
時々、昴くんが心でささやく。体からその声が聞こえてきて、胸がきゅんってする。
いいのかな。いいんだよね…。私、昴くんの恋人なんだよね…。だから、いいんだよね?昴くんと結ばれても、いいんだよね…?
心で私は自分にそう言ってた。それを昴くんは聞いてて、
『うん、いいんだよ。ひかり、俺の恋人だもん』
と答えてきた。
そして、昴くんのあったかくて優しいぬくもりに包まれて、心からどんどん昴くんが愛しいって思いが溢れ出し、次の瞬間、ものすごい開放感を感じた。
ふわ~~~~。体が宙に浮く。軽くて、上にのってた昴くんの体重さえ感じない。
あ。あれ?嘘。私の下に昴くんと私がいる。
『ね?魂抜けちゃったでしょ?』
昴くんの声がした。
『今、同化してる』
『私と?』
『そう…』
ほんとだ。どこから私でどこから昴くんかが、わからなくなってる。
それからすごい光に包まれた。
大きな意識…。無限のそして、静寂に包まれる。地球も、宇宙も全部が一つになる。全部が私だ…。
ものすごい愛のエネルギーを感じる。こんこんと湧き出る愛のエネルギーは、耐えることなく永遠に続いてる。でも、それは今ここにある。
自分の意識に戻った時、宇宙船にいた。でも、私は光の人型になっていた。隣にはもう一人、光の人型がいた。
「ひかり、ここ覚えてる?」
昴くんだ。
「……」
宇宙船から青い地球が見えた。すごく奇麗だ。
「うん。思い出した」
この宇宙船から、あの地球へ私たちは行ったんだね。ミッションを遂行するために。
「そう…。地球を愛と光の星に次元上昇させるため、俺ら、行ったんだ」
「うん…」
しばらく黙って、地球を見ていた。私と昴くんから、ものすごい光が飛び出し地球を包み込むと、地球からも光が飛び出し、私たちを包み込んだ。
「さあ。戻ろうか?」
昴くんに言われて、私たちは体に戻ってきた。