4 昴くんが恋人?!
いきなり世界が変わってしまった。
遠い存在の芸能人で、手の届くわけない昴くんが、恋人?ちょっと近づけたらいいなとか、話せたらいいなとか、そんなこと思ってたのに、いきなり恋人…?
っていうか、マンションまで泊まったり、一緒にお風呂も入ってるの…?
『そうだよ。俺ら、めっちゃ仲が良くて』
昴くんの声がした。
ああ。それどころか、心で会話が出来ちゃうの?昴くん、ドラマだけじゃなく、本物も超能力者?
『違うって。ひかりとだけだよ。心で会話できるのは』
「え?そうなの?なんで?」
「だって、俺ら同じ魂だから」
「え?」
「分かれて、地球に来たけど、もともとは一つだったんだ」
「……」
何それ?えっと…。本で読んだ。ツインソウル…。
「なんて呼ぶのかは知らないけどさ」
昴くんと私が、同じ魂?わ~~~~。すんごいドラマチックと言うかロマンチックと言うか。じゃ、過去生でも恋人とかそういうのも…
「ないよ」
え?そうなの…?
「地球で会ったのは、今回の生が初めてだから」
そ、そうなんだ…。
「ひかりさ…。俺のファンってことは、俺のこと好きなんだよね?」
「え?うん…」
私はそう聞かれて、戸惑いながら返事をした。
「そうだよね。俺、嫌われてたりはしてないよね?」
「もちろん」
「そっか…」
『良かった』
昴くんのほっとした声がした。嫌うなんてとんでもない。昴くんと恋人だなんてもう、天にも昇るくらい嬉しい。
「え?そうなの?」
昴くんが少しにやけながら、聞いてきた。それから、
「ちょっとさ…。抱きしめてもいい?」
と聞いてくる。
「え?」
私は、ドキってして、躊躇してしまうと、
「駄目?」
と少し甘えた目で見ながら、言ってくる。
「い、いいけど…」
ドキドキしながらそう言うと、昴くんは私のことをそっと抱きしめた。それから、ちょっとだけ腕に力を入れて、
『ひかりは、ひかりだもんな。どんなひかりも好きだよ…』
と、心でささやいた。それを聞いて、私は思い切り照れてしまった。
『あ、照れてる。可愛いな~~。こういうところは、いつものひかりだ』
え?か、可愛い~~?もう、10歳も上なんだよ?私…。
『年齢なんて、関係ないって』
昴くんは心でそう言うと、
「キスもしていい?」
と聞いてきた。
してもいいかなんて聞かなくたって、さっきしたじゃない…。
『あ、そっか』
昴くんは心でそう言うと、私にキスをしてきた。わ~~~~~~~~。昴くんのキスはすんごく優しくて、本当に私はとろけそうになる。
『ひかりの反応、すんごい新鮮』
『え?』
『なんでもない』
「じゃ、ひかり。一緒にお風呂も入る?」
「入らないよ~~」
「なんで?キスもOKだったのに」
「それとこれとは、別だよ!」
『ちぇ~~~』
ちぇ~~~って…。
「じゃ、俺先に入っちゃうよ。そんで出たら寝ちゃうかもよ?」
「いいよ。明日早いんでしょ?」
「え?いいの?!」
「うん」
「本当に?あとで、先に寝て昴くんのばかばかばかって言っても、俺知らないからね」
「……」
ばかばかばかって…、なんじゃ、それ…。
昴くんはまた心の中で、ちぇ~~って言ってから、バスルームに向かっていた。
『あ~~あ。ひかりが泊まるって言うから、思い切りいちゃつける、抱き合えるって思ってたのにな』
部屋にいても、昴くんの心の声が聞こえてきた。思い切りいちゃつく?だ、抱き合える…?わ~~~。そんなこと私、してたの?昴くんと???
なんだか、テレビやドラマで見る昴くんと印象が違ってて、私は戸惑っていた。
『どんな印象だったの?』
わ。聞こえてるんだ。
『聞こえてるよ』
『えっと…。ドラマだとクールだし、大人っぽいから、年齢よりも大人で、しっかりとしてるのかなって』
『それから?』
『そ、それから?えっと…。あ、舞台観終わって会ったとき、丁寧にお辞儀してくれて、すごくまじめで、礼儀正しいのかなって…』
『ふうん…。でも、どんなふうに違ってたの?』
『それはその…』
意外と子供っぽくて、甘えん坊で、全然クールじゃないだなんて言えない。
『聞こえてるから』
『え?あ、そっか。丸聞こえか…』
『そういうこと』
『……』
『そう、何考えてても、俺にばれるから。隠しても無駄だよ』
『わ~~~~』
『恥ずかしがっても、無駄だよ。だから、恥ずかしがることなんてないよ』
昴くんは、少ししてお風呂からあがってきた。
「どうぞ。ひかり、入ってきていいよ。タオルは出しといたし、俺のパジャマも用意してるから、それ着て寝たらいいよ」
「うん。ありがとう」
昴くんは、片手に歯ブラシを持ち、頭にバスタオルを乗せたまま部屋に来てそう言った。
私はお風呂に入った。昴くんの匂いがして、ドキドキした。石鹸やシャンプーを見た。ああ、こういうの使ってるんだ。
さっき、濡れた髪、色っぽかったな…。それに、Tシャツから覗いてた鎖骨、めちゃ奇麗だった。腕、意外と筋肉あるんだな…。
目の前で見ても、昴くんは奇麗な肌をしてる。羨ましいくらいだ。それに色白だ…。あ~~~。もう、どこをとっても、奇麗でかっこよくってセクシーで…。
『セ、セクシー?俺…』
わあ!聞かれてた。
『聞こえちゃうんだもん。しょうがないじゃん。で…、俺ってセクシーなの?』
『う、うん。見た目ね』
『見た目?』
『中身は、わからないけど』
『あ、そう…。中身はガキだって言いたいんだね?』
『そ、そうじゃないけど!』
『ふ~~んだ。いいけどさ』
あ、すねた…。なんだか、可愛い。すねてる昴くん、めっちゃ可愛い…。
『ひかり!』
『え?』
『ちょい、俺恥ずかしくなってきた』
『何が…?』
『だって、ひかり、さっきから俺のこと、褒めすぎ…』
『駄目?』
『駄目じゃないけど、その…』
『じゃ、考えないようにする』
『う…、うん』
そっか…。昴くん、照れてるんだ。
『照れてないって!』
『照れてるじゃない?』
『て。照れてるわけじゃ…、ないと思うけど…。いや、照れてるのかな?俺』
『うん』
『ああ。そっか。照れくさいのか…。うん』
昴くんはそう言うと、
『わ~~~~っ照れてんのか、俺!』
て、心の中で叫んでいた。
お風呂から上がり部屋に行くと、昴くんはベッドの上で布団に抱きつきながら、すったもんだしていた。
「ど、どうしたの?」
「なんでもないよ…」
昴くんの髪が、まだぬれたままだ。
「ひかりだって、ちゃんと乾かしてないじゃん。ドライヤーあったでしょ?」
「どこに?」
「ああ。そっか、場所わからないか」
昴くんはバスルームに行き、ドライヤーを持って部屋に戻ってきた。
「乾かしてあげるよ」
「え?」
嘘…。
「嘘じゃないよ」
「……」
『あれ?なんで恥ずかしがってるの?』
だだだ、だって…。
「じゃあ、私も昴くんの髪、乾かしてもいいかな?」
「いいけど?」
「先に昴くんの髪、乾かすよ。ドライヤー貸して」
「え?うん」
私はドライヤーを受け取り、昴くんの髪を乾かし始めた。わ~~。昴くんのメイクやヘアをしてる人、羨ましかったんだよね。昴くんの髪って、サラサラなんだ…。
「え?メイクさんがうらやましかったの?」
あ…。また、聞かれてた。
「なんで?」
なんでって、そりゃ、昴くんの髪や顔に触れることが出来て…。あ!これも聞かれてるんだ。今のはナシナシ!
「ぶふ…。もう遅いよ。聞こえちゃってるから」
あ~~~。なんでも筒抜けって困る!昴くんに笑われてるし!
「いいじゃん。隠すようなことでもないし」
隠すようなことでしょ…。
くるって昴くんは、私の方を向いた。
「あ、ひかり真っ赤だ」
「え?」
私はさらに、戸惑ってしまった。
「あはは。可愛い」
え~~?もう、なんでこうも、10歳も下の子に可愛いとか言われてるの?あ、もしかしてからかわれてる?
「年齢は関係ないってば」
「そ、そうは言っても…」
「メイクさんのことも別に、羨ましがらなくてもいいのに」
「え?どうして?」
「だって、ひかりは髪や顔どころか、俺にいっつもべったりくっついてるじゃんか」
私が~~~~????
「ほんと、全部忘れちゃってるんだね…」
ちょっと昴くんは、寂しそうにそう言った。
し、信じられない…。昨日まで画面の中にいる遠い存在だったんだよ?とても手に届くような存在じゃないって自分にも言ってたし。
それがいきなり、恋人ですとか、べったりくっついてるなんて言われても…。こんな目の前にいて、キスとかされたり、抱きつかれたりして…。
「……」
昴くんは、きっと私の心の声を聞いただろうに、何も言わなかった。私も黙って、昴くんの顔を見ていた。