3 夢か現実か
これって、夢なのかな?そういえば、立て続けに昴くんの夢を見ていたし…。
「注文適当にしたんだ。あとは飲み物だけ。お酒とか、飲まないよね?」
「わ、私?うん…」
昴くんにそう聞かれて、私はうなづいた。
「昴、水でいいよ。食後にコーヒーでも頼もうよ」
「悟さんも飲まないの?」
「うん。明日早いしさ。飲むと朝、起きるの辛い」
「明日も、ドラマの撮影?」
「うん。お前もだろ?かなりハードだよな」
「そうなんだよね…。朝から、晩までスタジオに缶詰状態。そんで、夜中にスタッフとかみんなで、焼肉食べにいったところを、写真撮られた」
「ああ、例の?やっぱり、新條亜矢と二人っきりで、食べに行ったわけじゃなかったんだ。昴くん」
葉月ちゃんがそう聞くと、
「そりゃ、そうだよ。俺、あんまり、新條さんと親密でもないし」
と、昴くんが言った。
「ほ~~ら。だから、大丈夫って言ったじゃないですか、星野さん」
葉月ちゃんが私に、そう言った。
「え?」
いきなりそんなことを言われて、私は戸惑った。それよりも、今の状況を説明して欲しかった。
「え?ひかり、もしかして、気にしてた?」
昴くんにいきなり、呼び捨てにされた。
「…え?」
私は頭が真っ白になっていた。すぐ横に、あの奇麗でかっこいい昴くんがいて、その昴くんが私の名前を知っていて、そのうえ呼び捨てにしてる。
「妬いてた?あはは…。それでもしかして、ずっと俺が話しかけても、無視してたの?っていうか、心閉ざしてなかった?」
「…へ?」
何?何言ってるの?
私は、しばらく放心状態になった。でも、もっと放心状態になるようなことを昴くんがしてきた。そっと私の手を握ったかと思うと、顔を近づけて耳元で、ささやいたのだ。
「ひかりって、ほんと可愛いよね…。でも、妬くようなことなんもないから安心して」
え?え?え~~~?!私はあまりのことで、のけぞって、そのまま目が点になってたと思う。
「あれ?ひかり?」
昴くんは不思議そうな顔をして、こっちを見ていた。
「星野さん?」
「ひかりさん?」
葉月ちゃんと結城悟も、同時に私を見て、不思議そうな顔をした。
「どうしたの?」
昴くんが聞いてきた。
「え?」
「なんか変だよ。どうしたの?怒ってるとか?それとも…、何?」
「私?」
変なのはこの状況だ。何がいったいどうなってるのやら?
「……」
私はひきつりながら、昴くんのことを見ていた。そこにピザや、パスタや、サラダが運ばれてきた。
「と、とりあえず食べようか?」
結城悟がそう言った。
「うん…」
昴くんもうなづいた。私たちは、しばらくもくもくと食べていたが、そのうちに、葉月ちゃんが結城悟と話し出し、そこに昴くんも加わり、楽しそうに話していた。
私は、あまりにも変なことが起きてるので、食べてるものも味がわからないくらいだった。
あ、もしかして、やっぱりこれ、夢なんじゃないの?な~~んだ。リアルな夢だ。でも、味あんまりしないし…、とそんなことを私は思っていた。
お店を出ると、
「俺、朝早いし、このあとすぐに家に帰ろうかって思うんだけど、ひかりどうする?」
昴くんが聞いてきた。
「え?私も帰るけど」
「自分ちに?それとも俺のマンション?」
「え?」
昴くんのマンション~~~?
「ああ、じゃ、ここから別行動な。葉月、俺んち泊まってく?」
「いいの?」
「いいよ」
「じゃ、そうする」
葉月ちゃんはそう言うと、私たちに手を振り、結城悟とさっさと歩いて駅の方へ行ってしまった。
と、泊まる?結城悟の家に?あ、あの二人っていったい…。ああ。そうだ、夢なんだ、夢…。
「ひかりも、泊まってけば?俺んち」
えええええ?!昴くんち?
「で、で、でも…」
「何そんなに焦ってんの?あれ?お母さんに怒られちゃうとか?」
「う、ううん。だ、大丈夫だと思うけど」
「じゃ、いいじゃん。泊まってけよ。だって、最近全然ひかりに会えてなかったし、俺、すんげえ会いたかったんだからさ」
え?!すんごい都合のいい夢じゃない?この夢では昴くんはもしかして、私の恋人なんじゃ…。
電車に乗り、駅に着くと何分か歩いた。そしてあるマンションに昴くんは入っていった。
306号室の前に来て、昴くんはポケットからカギを出した。そして、私の背中に手を回して、
「どうぞ」
って中に、連れて入った。中に入ると、胸がきゅんってなるような、そんな匂いがした。あ、これ、昴くんの匂いなんだ。
ああ…。こんな夢は初めてだ。匂いまでする。
玄関を入り、もう一つドアを開けると、小さなテーブルとその横にベッドがあった。
昴くんはジャケットを脱いで、ハンガーにかけ、そのままキッチンに行ってしまった。
「なんか飲む?」
昴くんが聞いてきた。
「ううん」
私はその場で、どうしたらいいかもわからず、ぼ~~っとしながら答えた。
「風呂わかすよ。入るでしょ?」
「え?」
風呂…?
「うん」
ああ…。すごい夢だ。
「一緒に入る?」
昴くんにそう聞かれ、思い切りうろたえた。
「え?い、一緒に?!!!!」
「え?駄目?なんで?前に一緒に入ったじゃん」
えええ?なんて、すごい夢を見てるんだ。私、欲求不満かな。
「あ…。いい。一人で入る」
夢なんだから、いいじゃないかと思いつつも、私は断った。
「ちぇ~~」
昴くんはそう言うと、バスルームなのかな?あるドアを開けてそこに入っていった。
ちぇ~~って…。この夢の昴くんはずいぶんと、幼い感じがする。
私はテーブルの前に、ちょこんと座った。昴くんが足早に部屋に来て、私の横に座ると、
「ひかり!!!」
と抱きついてきた。う~~わ~~~~!私は思い切り、かたまってしまった。
「あれ?照れてる?っていうか、さっきから心ずっと、閉じてるよね?」
心、閉じてるって何?
「声、聞こえないもん」
「声?」
「心の声」
「こ、心?」
昴くんは、この夢じゃ超能力者か?あ。そっか。ドラマの役になってるんだ。そんな夢なのね。夢だもんね、超能力があっても、不思議じゃないよね。
「どうやったら、心開けるかな?私」
とそう言うと昴くんは、私の顔に顔を近づけてきて、唇にそっと触れた。
「え?」
キス?私はびっくりして、のけぞった。ああ。なんてすんごい幸せな夢!ああ。のけぞったりして、もったいなかった。
なんてわけのわからないことを思ってると、また昴くんが私に近づき、そっとキスをしてきた。
私はもう、のけぞらなかった。昴くんの唇の感触も、私の頬にそっと触れた昴くんの手のあたたかさも、夢とは思えないくらいリアルに感じられた。ドキドキ!ものすごく心臓が早くなった。
昴くんは、一回顔を離して私の顔を見てから、また、キスをしてきた。今度は、すごく長く…。
やばい…。幸せすぎて、とけるかも…。
「とけちゃう?」
昴くんが聞いてきた。
「え?」
「くす…。俺もとけそうだったよ?」
昴くんが笑ってそう言った。
「え?私が思ったことなんで…?」
「なんでって…。心開いたからでしょ?もう、聞こえるよ?」
わ、私の心の声が?
『うん』
え?なんで体から、昴くんの声がするの?
『ひかり?』
『え?どうして…?』
『あれ?何、どうしたの?ひかり…。ひかりだよね?』
「……」
私は頭が真っ白になったが、ああ、そうだった、夢だったと思い出した。
『夢?これが?』
『うん。すんごい幸せな夢だ』
『夢じゃないよ。現実』
「嘘だ~~」
私は思わず笑った。
「え?なんで夢だって思うの?」
「だって、昴くんの家に来るわけないし、こんなキスまでして…」
「ひかり?ひかりだよね?こっちの次元の…」
「次元?」
「あれ?なんで?どうしちゃったんだよ?俺のこと覚えてないの?」
「覚えてるよ。っていうか知ってるよ。もうずっと、私ファンだもの」
「フ、ファン?」
「そう」
「……」
昴くんのほうが、今度は目が点になっていた。
「ま、待って、ひかり。俺ら、付き合ってるよね?」
「え~~~?あ、そっか。夢だもんね。すごい~~この夢」
「ちょ…、待って。あれ?どうしてこうなってるの?何が起きたんだよ?」
「え?」
「ひかり、最近なんかあった?」
「別に…?」
「ほんと?頭打ったとか」
「お風呂で転倒はしたけど」
「え?」
「思い切り、頭ぶつけたけど」
「それだ!!!」
「え?」
「記憶喪失だ!」
「誰が?」
「ひかりだよ」
「私が?」
「俺のこと忘れてるでしょ?」
「知ってるよ?」
「俺と付き合ってたこと、忘れてるでしょ?」
「付き合う?まさか」
「やっぱり、忘れてる…。げえ~~~!すんげえショックだ。俺!」
「え?ええ?」
「どっから記憶ないの?」
「どこって、言われても…」
「俺んちに泊まりに来たことは?」
「ないよ」
「じゃ、次元を超えたこと」
「じ、次元…?ルパン3世の?」
「ちがうよ!その次元じゃなくて…」
「じゃ…、何?」
「……」
昴くんは、しばらくぽかんと口を開けてから、
「まさか、幽体離脱も、宇宙船も、ミッションも全部覚えてないとか?」
「え?何それ?」
「あ~~~。全部覚えてないんだ。じゃ、俺の芝居観に来たのも」
「覚えてるよ」
「え?」
「2回行った。その時、話をしたよね?」
「それ、覚えてんの?じゃ、階段転げ落ちて…」
「誰が?」
「ひかりが」
「いつ?」
「5月だよ。駅の階段落ちたでしょ?」
「ううん」
「それも、忘れてるの?!」
「あ。そのことをお母さんが言ってたのか!」
『信じらんね~~。なんで、大事なところを忘れてるの?』
昴くんが心で叫んでいた。
「お、思い出せない?」
「うん。なんだか、ぼんやりとしてて、頭も痛くなるの」
「そっか…。わかった。じゃ、無理しないで。きっと、そのうちに思い出すよ」
「あのさあ…。一つ聞いてもいい?」
「何?」
「週刊誌に載ってた、10歳年上の彼女って…」
「ひかりのことに決まってるじゃん」
「わ、私?!」
「そうだよ」
ええ~~!!