1 10歳年下の昴くん
私の名前は、星野ひかり。29歳。バツ一で、今、実家で暮らしてる。離婚の理由は、私が赤ちゃんを流産したこと。
夫だった徹郎はその後、浮気をしてその相手に子どもが出来、私に離婚をしてくれと言って来たのだ。
そして離婚してから、私は3ヶ月、自分の家に閉じこもった。
その後、友人の薫や、美里が私を外へと連れ出してくれて、徐々に社会復帰することが出来て、本屋でバイトをするまで、回復をした。
そのうえ、美里の影響で、若くてかっこいいイケメン俳優の、天宮昴くんのファンにもなった。まだ、天宮昴くんは、19歳。10歳も下の子のファンになってどうするよって自分でも呆れたが、彼のことを画面や、写真で見ていると、本当に心が癒されていくのだ。
映画も観に行った。舞台も観に行った。そのたびに大ファンになっていった。
そして…そうして…。
あれ…?何かがぼんやりしてるな~。
最近、テレビでドラマが始まった。それを今日、見た。昴くんはあいかわらずかっこよかった。それにすごく奇麗だ。
役ではすごくクール。でも、最後には熱く語る、心のうちでは、熱いものを持っている。
本当の昴くんは、どうなんだろうか?雑誌のインタビューや番宣では、自分はもっとおちゃらけてて、クールじゃないですよなんて言ってたけど。
でも、見た目大人っぽいし、落ち着いて見えるし…。
あれ…?そうだっけ?もっと、子どもっぽいところもあったんじゃないっけ?ああ。頭が痛い。
実は、昨日お風呂で転倒をした。思い切り、頭をぶつけた。一瞬目の前が真っ暗になり、それからしばらくして目を覚ました。すごい音がしたので、母が慌てて、風呂場に飛んできた。
「頭ぶつけた。でも、大丈夫だから…」
そう言うと、
「あなたは、前に階段も落っこちたんだから、気をつけなさいよ」
と言われた。
「階段?」
聞き返したが、さっさと母は、バスルームを出て行ってしまった。
「階段ってどこの階段?うちかな?落ちたことあったっけ?」
思い出そうとすると、頭が痛くなる。
その日の夜、不思議な夢を見た。ドラマのセットの中で、昴くんが私に向かって、ドラマの台詞を言ってる夢だ。
あ~~、私、相当昴くんに入れ込んでるんだな~~。
バイト先に行き、事務所で仕事を終えて、着替えをしてから少し店の方に行ってみた。私は本屋でバイトをしてるが、ある日事務所のほうで、事務の仕事をしてくれと頼まれ、それからはお店の方には出ていなかった。
ぷらぷらとお店の中を歩いていると、昴くんの写真が載ってる女性週刊誌が目に飛び込んできた。
思わず、手にとって見ると、
「天宮昴、ドラマの恋人役、新條亜矢と夜中にデート。10歳上の彼女とは破局か?」と書いてあった。
え~~~~?!!!10歳上の彼女?そんな人がいたの?今のドラマの共演してる、新條亜矢とデート?
ダ、ダブルでショック…。
立ち直れないくらいにショックを受け、私はふらふらと本屋を出た。
ま、待って。芸能人なんだし、こんなにショックを受けてどうすんの、私。
それでも、よたよたと歩いてると、後ろから葉月ちゃんが走って、
「星野さん、一緒に帰りましょう」
と私を呼び止めた。
「あ、葉月ちゃん」
葉月ちゃんは本屋でアルバイトをしていて、私よりも10歳も下の、可愛いまじめな女の子だ。葉月ちゃんも昴くんのファンで、一緒に舞台も観に行った。
「さっき、お店の方に来てませんでしたか?」
「うん。ちょっとね…」
「あの週刊誌、見たんですか?でも、あんなのでたらめだから、気にすることないですよ。だいたい、中も見てみたけど、変な写真でした。わざと回りをぼやかしてて、多分、昴くんと新條亜矢だけでなく、他の人も一緒にご飯食べてたって感じでしたよ」
「え?」
私が昴くんと新條亜矢のことで、ふらふらになってたの、わかっちゃったのかな~~。あ、そっか。葉月ちゃん私がファンだってこと、知ってるもんね。
「ああいう週刊誌ってどうして、嘘を書くんでしょうね?前に写真が載っちゃったときだって、悟くんだってその場にいたのに」
「写真?悟くんって結城悟?」
「はい。そうです。一緒にいたのに、悟くんは載ってなかったじゃないですか~~。今回もきっとそうですよ」
「ふ、ふ~ん」
何のことかわからなかったが、あまり深く追求はしなかった。
結城悟は、今24歳で、超うれっこ俳優だ。美里が大ファンで、結城悟が出る劇だから観にいこうと誘われ、その劇に昴くんも出てて、私は一緒に行ったのだ。
あのときの昴くん、本当にかっこよかった。それから、葉月ちゃんにもまた、観に行きましょうと誘われ、観に行ったんだ。そのときには前から5列目の席で、すごく良く見えて…。
あ!思い出した!その舞台のあと、最後のほうまで残ってたら、偶然にも悟くんと昴くんとばったり会って…。
会って…。どうしたっけな?う~ん。頭が痛い。いや、もっと前にも会って話をしたことがあるような…。
そうだ、美里。美里と行ったときも、昴くんと話をした。舞台の袖裏にいて、それを美里がみつけて…。
舞台観に来てくれて、ありがとうございますと、すごいさわやかな笑顔で言ってくれたんだ。
思い出したよ~~。すんごい可愛い笑顔で、でも奇麗で、それにかっこよくって。
わあ、なんで、今まで忘れてたんだろうか…。
でもまだ、何かぼやけてる。だけど思いだそうとすると、頭が痛くなる。