愛する人がゴーレムになりました
【新作】愛する人がゴーレムになりましたが思ったより高評価をいただいたので、連載版始めました。
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俺は転生者だ!
だが、これで何か良かったなんて事は1度もない。
チートな能力も何もない。
無駄に前世の知識があるせいで例え話しても通じない事があるくらいで、役に立ったためしがない。
そして、今も前世の知識なんてクソの役にもたっていなかった。
「クッソー!なんでこの街が襲われるんだよ!」
ここは前線からはるか離れた地方都市『パルッカ』一応軍事施設がある城塞都市だが、戦線から離れているので碌な軍備もない。
ここでの主な任務は軍事関係の研究施設の警備だ。
俺もその任務の為に送り出された兵士だ。
今日は非番で宿舎で寝ていたのに!
なんでこんなタイミングで来るんだよ!
隣接国は従魔国ガルーダだが、そこからここまでに都市を2つ越えてこなければここには辿り着けない。
考えられる事は…。
「裏切りやがったなクソ王子!」
正確には王弟である。
確かここより先に配属されている軍は王弟派閥だったはず。
余計な事しやがって!
とにかく、俺は魔導技術舎に向かう。
戦う為?冗談じゃない!
最近やっと出来た彼女と合流して逃げ出すためだ!
出会ってからもう7年も経ってる。
やっと付き合ってくれって言えた!
俺はあいつの酒呑み友達から彼氏に昇格したばかりなんだ、こんな所で死んでたまるか!
魔導技術舎まで来て呆然とした。
誰かに荒らされている!
どういう事だ?確かに陥落する事は確定しているが、街に侵入するまでには時間がある。
何が起こってる?
嫌な予感しかしない、俺はとにかく全力で彼女がいるであろう、ゴーレム棟に向かった。
「ギャァ!」
緑色の小鬼がいきなり襲ってきた。
ゴブリンだ!
こちとら、腐っても兵士だぞ!
こんな小鬼なんざ素手で1発だ!
ガルーダはテイマーの国である。
その為モンスターをよく利用する。
上位のボス格のモンスターをテイムして、そのグループを兵隊にして襲わせるのが常套手段だ。
今回も同じ手法だろうから、ゴブリンがいてもおかしくない、が…いくらなんでも早すぎる。
急いで、ゴーレム棟の研究室に向かった。
途中数匹のゴブリンを倒しながら、彼女の研究室に飛び込んだ。
彼女の研究室で見たものは、ゴブリンと鞭を装備した男、そしてこの街の領主の汚ねぇケツだ。
その奥には寝転んでいる人影が見える。
「テメェら何してやがる!」
俺は一瞬で理解した。
俺の彼女は超美人で最高のプロポーションだ。
そのせいで領主に言い寄られていた。
ゴーレムの研究員というこの国でもトップのエリートなおかげで、いくら領主でも簡単に手が出せない。
今目の前にいるクソ豚は、自分の街が陥落するのに、それを利用して俺の彼女を犯そうとしている。
ご丁寧にテイマーにゴブリン連れて来させて、偽装工作までして。
相手が反応し切る前に、クソ豚領主の股間を全力で蹴り上げた。
「ギャッ!」
クソ豚がゴブリンみたいな悲鳴をあげて転がった。
そして、彼女の全体が見えた。
全裸にされ、腹にゴブリンが使うような錆びたナイフが刺さっている。
まだ息があるが、絶対に助からねぇ。
許せねぇ、許せねぇ、許せねぇ!
クソ豚はブクブクに太って肉だらけの股間に粗末なもんしかぶら下げていなかったせいでダメージが少なかった。
もう動けるようになってやがる。
芋虫みたいに逃げようとする豚野郎を追いかけようとした。
俺がクソ豚に近づくのを邪魔するかのように目の前にゴブリンが立ちはだかる。
クソッタレな事に今までの奴らより強い。
素手で殴り殺すのに時間がかかった。
追いかけようとしたら、声をかけられた。
「待って、最後のお願い聞いて欲しいの」
彼女だ。
「クソ!クソ!最後なんて言うな!クソ!」
「私を倉庫まで連れていって、やっと完成したの…」
この国のゴーレムは一般的なゴーレムと違う。
人間が乗って操縦するタイプだ、俺の前世のアニメのロボットを想像してくれ。
そんな感じだ。
残念ながら、俺はMPが足りなくて、操縦者にはなれなかった。
それを嘆いていた俺の為に、国にMPが低い人間でも操縦できる小型ゴーレムの開発を申請して、その研究をしていた。
「そ、そん事より、お前を治す方が先じゃねぇか!」
「無理よ、ポーションじゃ助からないくらい、私の方がわかってる」
研究者なだけに、アイテムの知識が豊富だ。
どの程度の効果があるかなど、俺なんかよりずっと詳しい。
「分かった!倉庫だな!」
俺は彼女を抱き抱えて、倉庫に向かう。
「ふふふ、最後にお姫様抱っこされちゃった、嬉しい」
力なくそう言う彼女
ゴーレムの研究用の倉庫なので、そこはロボット格納庫の様相だ。
俺は彼女に言われた場所まで来る。
何やら色々機械とコントロールパネル、それこから線で繋がったヘルメットのようなものがある場所だ。
そのヘルメットを被せ、彼女に言われた様に操作する。
「あのゴーレムを私だと思って、大切にしてね…それと私の髪の毛を持っていて欲しいの…」
目の前の機械が動作して、1台のゴーレムに何かが注ぎ込まれている。
「分かった…分かった…」
俺は涙で前が見えなくなりながら、錆びたナイフを彼女の腹から抜いて、彼女の髪を切る。
俺はこんな事をした領主を絶対許さない。
俺はこのきっかけを作った王弟を絶対許さない。
俺は襲ってきた従魔国を絶対許さない。
怨嗟の声をあげながらゴーレムに近づく。
サイズは3mまではない。
大柄の男が着る鎧甲冑に見える感じだ。
前世の感覚で言うと、小さくした装甲騎兵●トムズって感じだ。
背中のハッチを開けて中に乗り込むと魔法的なもので空間が拡張されているのか案外広い。
この国で兵士になると、必ず1回はゴーレムの乗りかたを教わる。
敗戦時や操縦者のみが死んだ時に貴重な戦略物資であるゴーレムを回収出来る可能性を上げる為、最低限の移動だけでも操作出来るように訓練される。
…ま、俺みたいにMP低いと前線じゃ使い物にならないって、こういった場所に送られる訳だがな。
こちらの意思をゴーレムに伝える為に手足を拘束する手錠のような輪っかを装着し、中央の水晶のような部分に手を置く。
『使用者が登録されました』
彼女の声でゴーレムが俺に伝える。
その声が聞こえた瞬間、俺の涙腺は決壊した。
「もっと声が聞きたかった!もっとバカな話で笑いたかった!もっとお前の笑顔が見たかった!」
『愛してた?』
「愛してた!」
『本当は身体目的でしょ?』
「違う!お前の存在が俺の生きる希望だった!」
『じゃあ、エッチ事したくなかったの?』
「それは…したかったけど…」
『だよねーいっつも胸ばっか見てたもんねー、1回も出来なかったの後悔してる?』
「してるけど…何だこのAI?随分生々しいな?」
『そりゃあ私の魂移植してるからね、言わば私自身よ!』
「え!マリー!お前なのか?」
『そうよ、さっき髪の毛持たせたでしょ、あれでホムンクルス作ってそこにこの魂入れれば、厳密に言えば違うけど、ほぼ蘇生したようなものになるわ』
「そうか!じゃあ、こんな所さっさとおさらばしてホムンクルス作ろうぜ!
ところでどうやってここから出るんだ?」
『今は扉動かせる人いないから、力ずくしかないわね後ろの方の壁が役人のピンはねの皺寄せで壁薄くなってるから、殴れば壊せるわ』
「殴ったら指先壊れねーか?」
『大丈夫よ、あなたが言ったようにマニュピュレーターを防護するカバーが出るわ』
「へー凄いな、どうやるんだ」
『まずは右肩にある火属性変換器を起動して』
「右肩?おかしなところに不思議なもんつけたな」
『何言ってるの!あなたが右肩をくらい赤にしろとか言うから、火属性変換器で赤くなるようにしたんでしょ!』
「俺そんな事言ったっけ?」
『もう…酔って記憶無くすのほんと嫌だ、左肩は偽物だ右肩にしろって』
「そもそもなんで火属性変換器なんてつけたんだ?」
『あなたが俺のこの手は真っ赤に燃えないと殴れないって言ったからでしょーが!
そのくせ火属性扱えないせいで、やっと苦労して属性変換器開発して取り付けたのよ!」
「色々すまん、マジで覚えてなくてごめん、それで火属性パンチはどのくらい強化されてるんだ?」
「変換器のエネルギーロスや、無理な事してるせいでリソース持っていかれて、火属性強化分と差し引きで5%ほどパンチ力低下してるわ」
「なんじゃそりゃ!ダメじゃん!」
『あなたのせいでしょ!絶対燃えなきゃダメだって!』
「はい、すいません、ごめなさい」
『増幅器に換装出来れば威力が倍増するから、火属性扱えるようになって』
「う…頑張る…ところでそんなパンチ力落ちて壁壊せるのか?」
『私を誰だと思ってるの!このサイズでもスペックは一般的な大型ゴーレムと変わらないわ!』
「お!すげーな!」
『MP満タンの時はね』
「ん?何か言ったか?」
声が小さすぎて聞こえなかった。
『何でもないわ!早速壁壊して逃げ出しましょう!』
「よっしゃあ!うおりゃー!」
『…』
「…」
俺たちが壁を壊した先は街がゴブリンで埋め尽くされている光景だった。
「あんのクソ豚野郎!あいつもグルだったのか!」
侵攻を守るはずの門が開いている。
『確か、ここの領主は王族派だったはず、寝返ってここより良い領地もらうつもりね』
「いらねぇから蹂躙させてもかまわねぇってか!いつか絶対ぶっ殺してやる!」
『そうね、この機体もまだまだ強化する余地あるし、貴方も強くなれば、飛躍的に性能伸びるわ』
「どこ行く?」
『西ね、迷宮都市があるわ、あそこなら強くなれるし、身柄隠せるし、一石二鳥よ』
「王都は?」
『この機体接収されて終わりね』
「じゃあ、迷宮都市目指すか!
まずは、このゴブリン共かき分けて街から出ないとな!」
『それなら左手の最高ガン使えばいいわ』
「左手の最高ガン…まさか俺、やっちゃいました?お酒の席で」
『あなたの要望なのは間違いないわ、実弾の方が運用楽なんだけど、どうしてもビーム兵器にしてくれって言われて、小型の魔導砲開発して付けたわ』
「あ、そ、そうなんだ、どうやって使うんだい?」
『まず、腕のところのチューブを引き出してお腹につけるわ』
「それも俺が言った?」
『ええそうよ、斬新なアイディアで気に入ってるわ、今後の拡張性も高い機能よ』
そっかぁ、酔っ払って色んな所の色んなものをごちゃ混ぜにしちゃったんだなぁ。
俺、好きだったもんなぁロボットアニメ。
こっちで乗れないってなって、絶望したもんな。
一部ロボットじゃない設定も混ざってるけどね。
そんな事を考えながらチューブをお腹に取り付けた。
ゴブリン達もこちらに気づいて近づいて来てるが、危機感は全然感じない。
「で、どうするんだ?」
『薙ぎ払え!のキーワードで発動するわ』
…
…
…
「俺、酒少し控えよう…」
気を取り直して。
「薙ぎ払え!」
ビュゥゥという音の後、閃光が辺りを包む。
ゴーレムの中だから直視してないから大丈夫だが、この光見たやつって失明するんじゃなかろうか。
最高ガンの威力は俺の想像を遥かに超えた。
周辺にいた、何百匹というゴブリンは全て魔石に変わっていた。
モンスターを倒すと手に入る石だ。
魔導系のアイテムのエネルギーに使える、ゴーレムもエネルギーとして使える機体もあるという話だ。
『…出力間違っちゃったみたいね、エネルギーが無くなる寸前だわ』
「どうするんだ?」
『魔石を回収しましょう、エネルギーに変換する機能はちゃんと付けてあるわよ』
「お、さすが最新鋭機!」
『まあね!腰のホースを右腕の内側に付けて、手首の先に背中の装備してるノズルを装着して、伸ばして』
掃除機じゃん!
このゴーレム掃除機じゃん!
『はぁぁ、ゴブリンの魔石じゃ全然エネルギー貯まらないわ、せめて操縦者がもう少しマシだったらなぁ』
「お前、そういう言い方ないだろう!」
『あなたのPが小さくて全然持たないから、私が満足出来ないんでしょう!
せめて何回も出来れば良いのに、全然回復しないし!』
「俺のMPをPって略すな!なんか男として悲しくなるじゃねぇか!」
『粗P野郎』
「くっそー俺の悲しみの涙返せ!お前の為に泣いて損した!」
『そう?私は嬉しかったわよ、万が一の為に魂を移せる機能付けておいて正解だったわ、貴方の本音聞けたし』
「なぁ、思ったんだけど、こんな機能付けるって事は命狙われる危険性は前からあったのか?」
『そうね、あなたが酔った時に色々話してたものはどれも斬新で面白かったわ、だからあなたの為にあなたがゴーレムでやりたかった事を全部出来るようにって研究したの。
その中にはゴーレム運用の常識を覆すものもあったわ、他の技術者は女で身分の低い私が大発明するのを何としても阻止したいと思ってた人も沢山居たの、それは私も気づいていた。
全然違う理由で殺されちゃったけどね』
彼女の声が寂しく聞こえた。
「ここから西に行って、もっと強くなって、俺が全員ぶっ殺してやる!心配すんな!ホムンクルスだって最高のやつ作ってやる!」
『ありがとう期待してるわ』
「まずはずらかろうぜ!」
こうして、1人と1機のおかしな冒険譚が始まった。