期待
茜は夢を見ていた。
体は動かない。
うっすらと目を開けると、薄暗くどんよりとした空が広がっている。
一人きりの静寂の中で、次から次へと自分の上に冷やりとしたものが落ちてくる。
耐えがたい眠気の中で、茜は夢へと落ちていった。
夢の中で、子供の頃の茜は両親の描いた絵本を読んでいた。
悪い魔女につかまってしまったお姫様が、毒で眠らされている。
そこへ現れたのは王子様だ。
魔女が魔法で作った怪物をどんどん倒してお姫様の元にたどりつく。
剣を取り出し、魔女を一突きすると魔女は消えて居なくなった。
王子様はお姫さまを抱き上げて・・・
ふと気づくと茜は絵本の中のお姫様になっていた。
隣には自分を抱きかかえる王子様。
黒い髪に切れ長の瞳。すっとキレイに通る鼻筋。
なんてハンサムな王子様・・・でも、どこかで見たような・・・・?
茜はゆっくりと目を開けた。
ぐるんぐるん回る景色を目をこらして見回す。
すると横ではソルが心配そうに茜を見つめていた。
「・・・あ、れ・・・ソル・・・?」
「茜様!!!目を覚まされましたか!?
お加減はいかがですか!どこか痛い所などございませんか!?」
ソルは目を大きく見開いて、茜の頬にそっと触れた。
「えっ、あ、なんか体があちこち、痛いような・・・」
体のあちこちがズキズキと痛み、頭は相変わらずぐるんぐるんと回っている。
「何箇所か打撲になっておりましたので、湿布など貼って処置をしておきました。
熱もかなり高く、一晩中意識も無かったのですよ。」
「へっ!一晩・・・じゃあここにずっといてくれたの?」
「もちろんでございます。」
その言葉に茜は体中の熱がぐっと上がるのを感じた。
ソル、あたしのこと心配してくれてたんだ!
急に恥ずかしくなり、ソルの顔を見れなくなった茜は目を逸らした。
「私のせいでこんなことになってしまい、本当に申し訳もございません・・・!」
「そんな、ソルのせいだなんて!
あたしがドジだから崖から落ちちゃっただけで・・・」
ふと横に目をやるとソルの姿はなく、なんと床で土下座の姿勢をとっていた。
「そんな、ちょっと!頭下げなくていいよ!ね、イスに戻って。」
イスに戻ったソルは、妙にマジメな顔つきで茜を見つめていた。
黒くてサラサラの髪の毛、切れ長でりりしい瞳、すっと高い鼻・・・
茜は夢の中の王子様を思い出した。
あれはソルだったんだ・・・夢じゃなくて、本当に私を助けてくれたんだ・・・。
はっ、と茜はソルと見つめ合っていた事に気いた。
顔に火がついたかのように一気に恥ずかしくなり、目を逸らした。
なんでこんなに見られてるの!?
あたしの事、そんなに心配してくれてるってことかなぁ・・・
それとも・・・?ちょっとは期待しちゃってもいいのかなぁ・・・
長い沈黙のまま、徐々に部屋に朝日が差し込み始めていた。