誓い
外は日が傾き始め、雪もちらついていた。
ソルが家に帰ってもう3時間ほど経っていた。
帰ってきて茜が居なかったので、どこかへ出かけたのだろうと深くは考えなかった。
夕飯の下準備も済ませてひと段落したソルは、外を眺めた。
「茜様はまだだろうか・・・」
ソルは茜の世話をするとは言ってもただの居候にすぎない。
住まいを借りる代わりに、家事全般をまかせてもらうのだと解釈していた。
ソルにとって茜は守るべき主、フィリア姫ではない。
扉さえ見つかればすぐに戻るのだから、あまり深く干渉すべきではないと考えた。
とはいえ、外はどんどん暗くなり、雪も窓を横殴りに叩きつけ始めていた。
心配になってきたソルは、外に探しに行くことにした。
「茜様!」と声を上げて探し歩いていると、草の生い茂った開けた場所に出た。
薄暗い中を草を掻き分けて歩いていくと、足が段差に気づいて立ち止まった。
どうやら2メートルほどの崖にようになっているようだった。
落ちないように下をのぞくと、
そこには茜が横たわっていた。
「茜様!!!」
ソルはヒラリと飛び降り、茜の横にひざを付いた。
茜は呼びかけても返事がなく、意識を失っていた。
「脈はあるが、体が冷え切って・・・!なんて熱だ!!!」
ソルは茜を抱きかかえ、崖部分を迂回して上に上った。
そして走って家に戻ると服を着替えさせ、布団を大量にかぶせて、頭には袋に入れた氷を乗せた。
「茜様!しっかり・・・!」
返事は無かった。浅く早い呼吸を繰り返すばかりだ。
「私がもっと早く探しに行っていれば・・・!!」
ソルは深く後悔した。
お世話になっていながら、茜の存在を軽く扱った。
そのせいで茜がこんなにも苦しんでいると思うと、自分に対する怒りすら湧いてきた。
この世界の住人ではないソルにとって、苦しんでいる茜を救う手立ては
自分で看病する以外には思いつかなかった。
汗を拭き、氷を取替え、ずっと側で見守った。
徐々に外が白みかかってきた頃、茜は目を覚ました。
「・・・あ、れ・・・ソル・・・?」
「茜様!!!目を覚まされましたか!?
お加減はいかがですか!どこか痛い所などございませんか!?」
「えっ、あ、なんか体があちこち、痛いような・・・」
「何箇所か打撲になっておりましたので、湿布など貼って処置をしておきました。
熱もかなり高く、一晩中意識も無かったのですよ。」
「へっ!一晩・・・じゃあここにずっといてくれたの?」
「もちろんでございます。
私のせいでこんなことになってしまい、本当に申し訳もございません・・・!」
「そんな、ソルのせいだなんて!
私がドジだから崖から落ちちゃっただけで・・・
そんな、ちょっと!頭下げなくていいよ!ね、イスに戻って。」
床に手をつき土下座していたソルに、茜は柔らかく言った。
ソルはイスに座ると茜をじっと見つめていた。
こんな私に茜様は優しい言葉をかけてくださる。それに比べて私は・・・
この先どんなことがあろうと、茜様を危険な目には合わせない。
私は姫をお守りするのと同様に、茜様をお守りしよう・・・。