憧れの王子
「でっ、どうだったの?大丈夫だった?」
朝からケイタイが鳴った。沙織が心配してかけてきたのだ。
「うん、大丈夫!なんかね、料理とかめっちゃウマイの!
家事も全部やってくれるし、お嬢様になった気分だよ~」
「へぇ~!それいいね~!
顔もかなりかっこいいし、そんなに色々やってくれたら茜、惚れちゃうんじゃないの~?」
「えぇっ?ないない!」
茜はソルに聞こえないように声を落とした。
「だって異世界とか言っちゃってる人だよ?
あれがほんとの話だったらいつかは帰っちゃうし、嘘だとしたら危ない人じゃん!」
「うんー確かにそのへんは怪しいけどね・・・」
「嘘をついてるようには見えなかったけど、急に異世界とか言われても・・ねぇ。」
その時、部屋の扉を叩く音がした。
コンコン!
「あ、ソル来たみたい。また報告するね!またね!」
「はーい!今開ける」
扉を開けると、ソルが申し訳なさそうに立っていた。
「茜様・・・」
「どうしたの?」
「実は、着るものがないのです。」
「あ、そっか!今着てるのも洗濯しないといけないもんね。
じゃあ今日は一緒に買い物に行こうか!お金は置いてってくれたのがあるし。」
外に出ると、息が真っ白だった。
町を歩くと、店頭にはクリスマスのイルミネーションが並んでいる。
「もうすぐクリスマスだね~」
「クリスマス、ですか?」
ソルは茜の斜め後ろを歩きながら聞いた。
「えっ!クリスマス、ソルの世界では無いのかぁ!
みんなツリーやリースを飾って、ご馳走を食べてお祝いするの。
それからプレゼント交換もね!とっても楽しいんだよ~」
「それは楽しそうですね。」
たくさんのイルミネーションを目を輝かせながら見ていると、ふと、宝石店の前で茜が立ち止まった。
「可愛い~ネックレス!」
シルバーで卵型に羽が生えているデザインだ。
「あっ、ごめんごめん!ソルのお洋服だったね」
紳士服のお店に入り、ソルに似合いそうな洋服を探していると、奥の女性店員達がなにやらキャーキャー言いながらこっちを見ている。
「あのっ!お客様!こちらのお洋服などいかがでしょうか?」
店員の一人が茜の前にずいっと入り込み、ソルに洋服を合わせている。
茜はちょっとムッとした気持ちになったが、洋服は似合っていたのでそっけなく、「いいんじゃない」とだけ言った。
女性店員は聞こえなかったのか、聞こえないふりなのか、ソルにどんどん新しい洋服を合わせている。
「お客様、背が高くていらっしゃるからモデルさんとかですか?
とってもハンサムでどんなお洋服でもお似合いです!」
茜はすっかり気分が悪くなって店の外の空気を吸いに出た。
何が自分の気持ちをそんなに気分を害しているのかよくわからなかったが、たぶん店員の態度が悪いからだろうと思った。
ソルはどんどん話し続ける店員に圧倒され、困った様子で茜を探した。
が、その時には茜は店の中にはいなかった。
「茜様!こちらにいらっしゃったのですか!申し訳ありませんでした・・・。」
「いい服見つかった?」
「いえ、私はこちらの世界の服はよくわからないので、茜様が選んで下さいませんか?」
「私でいいの?」
「はい!お願いします」
「わかった!じゃあ一緒に選ぼう♪」
さっきまでの嫌な気分はもう吹き飛んで、ウキウキとソルの洋服を選んでいた。
ソルのキレイな顔には黒い服がよく似合う。
そう思った茜はソルの顔を見ながらよく似合う服をどんどん持ってきた。
さっきの女性店員が近づいてきた時には、
「私は茜様に選んでいただきますので、結構です。」
と、ソルが断ったことで、茜はさらにテンションが上がった。