困惑の王子
「ちょちょちょ・・・!なになになんなの!?」
あわてて暴れる茜だったが、男は背が高く力も強かったのでビクともしなかった。
沙織は後ろから追いかけて止めようとした。
「なんなんですかあなた!誘拐ですか!?」
ふと、男は立ち止まった。
眉間にしわを寄せ、辺りを見回している。
「ここは、いったい・・・?」
「ちょっと!茜を下ろしてください!
警察呼びますよ!?」
テンパっている茜のかわりに、沙織は落ち着いて抗議の声をあげた。
男はさらに落ち着いた様子で茜を抱きかかえたまま、再び歩きだした。
「・・・アカネとは?姫、この少女は何者ですか。」
「なっ?姫!?あたしがぁ~??」
「それにここは、一体どこなのでしょう。
見たことのない建物ばかりですが・・・とりあえず城を探します。」
早足で歩く男に後ろから「待ちなさい!」と何度叫んでみても止まる気配はなかった。
「ちょっとあんた!」正気に戻った茜は男をにらみつけた。
「下ろしなさいよ!どこへ連れてくつもり!?」
「ハッ!かしこまりました。」
男は優しく茜を下ろした。
深く息を吸い込んで、茜は話し出した。
「あんた一体誰?私は姫じゃないし、城とかなんとかわけわからないんだけど!?」
「姫・・・じゃない!?ではあなたは?」
「私は茜!この子は親友の沙織!
あんた大丈夫?さっきの雷で頭でも打ったの?」
「雷・・・そうだ、確かにさっき雷のような光が・・・
ここはシュトーリア国ではないのですか?」
「しゅと・・なに?ここは日本だけど・・・」
茜は声を落として沙織に話しかけた。
(ねぇ、この人やばいんじゃない?)
(病院に連れて行ったほう良さそうだよね。でも私たち今日期末試験だし・・・もう時間遅れちゃうよ)
誰にも見られないようにコッソリ学校に連れて行き、男には体育倉庫に隠れててもらうことにした。
「いい?あんたここでちょっとの間待っててちょうだい。
その間に自分が誰だったのかしっかり思い出してね!」
試験が終わり、二人は猛ダッシュで体育倉庫に行った。
扉をあけると男は二人をみるなり姿勢を正し、深く頭を下げた。
「おかえりなさいませ」
「へっ!?た・・ただいま?」
「茜様、沙織様、私はどうやら異世界に迷い込んでしまったようです。
ここは私のいる国ではございません。
元の世界に戻るまで、お二人のお側で仕えさせて頂けませんか?」
「いっ、異世界ぃぃ!?」
「はい。私の国に古くから伝わる話がございます。
緑の稲妻が落ちる時、異世界の扉が開くと。
おそらく私はその扉を通ってこちらの世界に来てしまったのだと思います。」
「そんなのあるんだ・・・仕えるって一体どういうこと?」
「私は元の世界ではフィリア姫という方に仕えておりました。
はじめ茜様を姫とお呼びしたのは、お二人が瓜二つだからなのです。
ですからこちらの世界にいる間、是非私めに茜様のお世話をさせて頂きたいのです。」
「お世話って言われても・・・うち両親もいるしーそんな素性のわからない人ムリじゃないかなぁ。」
「そうよね。茜んちのパパもママもお家でお仕事してるしねー」
茜の両親は、二人とも有名な絵本作家だったので、主に家で仕事をしていた。
「異世界への帰り方がわかるまでの数日でかまいませんので、なんとか・・・!」
「じゃあー聞くだけ聞いてみるね。」