表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

決意

緑の眩い光の中で、ソルは意識が遠のいていくのを感じた。

足元が空を切り、よろめいて前のめりに倒れこんだ。


茜様・・・

いつから私はこんなにも貴方に心を奪われていたのか。

あの怪我をした日、必ず守ると心に決めた日だろうか?

それとも、姫と同じ容姿ながらも無邪気なあの笑顔を見た時・・・出会ってその日の晩か?

夕飯を食べて「美味しい」と笑ったその顔に、目は釘づけだった。

その時に私の心は傾いていたのかもしれない。


ソルは元の世界に戻り、姫のお側へ戻るつもりでいた。

それなのに夕べの茜を見ていて、自分の本心は茜の下に残りたい、と訴えている事に気づいた。


夕べの茜様・・・色とりどりのライトを背に、薄いピンクのワンピースが眩しかった。

あの無邪気な笑顔で微笑まれて、不覚にも抱きしめそうになってしまった。

抱きしめる代わりに、その小さな手にキスをした。

茜の後ろに周り細い首筋にネックレスをかける時など、自分の手が暴走し茜に触れたいとわがままを言い出しているのを、理性でなんとか耐えた。

ネックレスをかけると、茜の普段の可愛らしさからは想像もつかないほど美しい女性へと変わっていた。

その時、茜の口からは思いもよらない言葉が・・・


「好きです」


最初は何の冗談かと思った。

深い意味などない「好き」なのかもしれない、と。

しかしその思いは目の前の茜の態度によって早々に打ち砕かれた。

みるみる頬を朱に染め上げていく茜。

茜の本気の態度を見ながら、ソルの頭には明日帰るという事実が重くのしかかっていた。


可愛い茜様・・・私は貴方の側に居たくとも居られない。

元の世界で私はやらなければならない事がある。

それを片付けないことには私は貴方の側には居られない。

しかし無事に茜様の下に戻れるという保障は無い。

私のこの思いを打ち明けても、もしもこのまま戻れなかったら、茜様に悲しい思いをさせることになってしまう。

何も告げずに、向こうに帰るべきなのかもしれない・・・。


明日帰る事実を伝えると、すぐに、茜は顔を上げることもなく走り出して行ってしまった。


茜様・・・!

私は、貴方をまたしても傷つけてしまった。

必ず守ると堅く誓ったのに。


ソルはリビングの様々な光に照らされたケーキに目をやった。

テーブルの上のチョコレートケーキには、メリークルスマス、と書かれたチョコが乗っている。

ふと、茜が「メリークリスマス」と言った時のあの眩しい笑顔を思い出し、胸が痛んだ。


あの無邪気な笑顔を傷つけてしまった・・・。


フォークを取り出し、ソルはケーキを食べ始めた。

一口食べるごとに、茜の事を思った。

無邪気な笑顔、熱で意識が無かったあの夜の事、さっきの美しい姿・・・。

そして傷つき走り去った後ろ姿・・・。




次の朝、茜の顔を見ると目が赤くなっていた。

それでもムリに明るく振舞う姿に胸が締め上げられるようにい痛んだ。


出発の時間までの間に、ソルは茜の手のぬくもりを感じながら思いを巡らせていた。

また戻れる保障はない。

もしかしたらもう会えないかもしれなくとも、それでも私は貴方に今朝のような、あんな顔をさせたくない。


別れの時、茜は小さくなりうつむいたまま動かなかった。

小さな手には心なしか先ほどより力がはいっている。


ソルはほんの数日前に自分がした決意を思い出した。

必ず、私が守る!

そうだ、私は茜様の下に必ず戻ってみせる!


心に強い決意を抱き、うつむく茜を自分の胸の中へ抱きしめた。

そしてうつむいたまま固まる茜の頬に手を添え、薄い桃色の唇に自分の唇を重ねた。

茜は驚いた様子で何か話そうと唇を離し、口を開きかけた。

しかしソルはそれを自分の唇でふさぎ、自分の決意の強さを伝えるかのように、強く重ね合わせた。





ソルがふと目を開けるとそこは自分の元居た世界だった。


自分のなすべき事をしっかりと胸に留め、ソルは足をは足を進めた。






















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ