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別れ

茜は布団にもぐり、小さく丸まったま、まだ激しく叩き続ける鼓動を抑えるかのように心臓の上に手を当てた。


いま、あたしソルに何をしちゃったんだろう・・・

可愛いネックレスもらって嬉しくて、ありがとう、って言いたかっただけなのに。

なんであんなこと・・・


茜の言葉を聞いたあとのソルの悲しげな顔が脳裏をよぎり、

また心臓に冷たいナイフを突き立てられたかのように痛んだ。


「明日帰ります」


その言葉が何度も頭の中でリピートし、茜の心はどんどん深い沼にでも沈んでいくかのようだった。


「明日帰ります」


いつか帰る事はわかっていたはずだったのに・・・


明日・・・




茜の目からはただただ、熱い涙だけが溢れ続けた。






次の朝、茜は精一杯の勇気を振り絞って階段を降りた。


「おはよう!ソル」

「・・・おはようございます、茜様」

「昨日はごめんね、変な冗談言っちゃって!今日帰るんだよね。いつの間に扉見つけてたの?てゆーか場所はどこ?何時くらいに行くの?」


途中ソルが口を開きかけたが、話す隙も与えずに一気に話しきった。


「え、えぇ・・・実は扉は昨日見つかったのです。

 扉、というよりは昨日見つけたのは、時空の番人という者です。

 その番人によると、異世界から来たものにとっては、

 異世界に留まるというのは大変に体に負担がかかるのだそうです。

 そのリミットが7日間。それまでに元の世界に戻らなくてはいけないと言われました。

 時空の番人は扉を開く力を持っており、扉は今日の正午開く事が可能だと言われました。

 急な話になってしまい、申し訳ございません・・・。」


「そう、なの・・・今日の正午ね。わかった。」

ソルの顔を見るとまだ心臓にあの冷たい痛みが走るので、茜は下を向いたままだった。

「見送りにはちゃんと行くよ。無事に帰れるといいね!」

「茜様!」ソルは呼ぶと同時に茜の手を取った。

茜は何が起こったのかわからずに、ただそのつかまれた手を見つめた。

「お願いがございます。

 時間までの間、私と居て下さい。」

つかまれた手からソルの顔へと目線をあげると、ソルは真剣な眼差しで茜を見つめていた。

茜は顔が熱くなるのを感じた。

「い、いいけど・・・?」

「では、一緒に外へまいりましょう。」



外に出ると吐く息は白くなっているものの、暖かな日が差していた。

「茜様、寒くありませんか?」

「うん、大丈夫」

何故外に連れ出されたのか意味がわからないまま、茜は歩き出したソルの後を付いていった。

「茜様、風邪などひかれては大変です。おつかまり下さい。」

そういってソルは腕を差し出し、茜に腕を組ませるように促した。

茜はおそるおそるソルの腕に手を添えた。


なんであたしソルの腕につかまってるの?

なんでソルと外歩いてるの? 

もうすぐお別れなのに、意味わかんない・・・


意味不明なソルの行動に頭の中はハテナマークだらけだった。

それでもソルの腕に触れている自分の手のあたりが、なんだかほんわか暖かく、なごんでいくのを感じていた。



それからどれくらい経っただろうか。

世間話をしながら歩いたり、公園のベンチで休憩しながら時間をすごした。

会話なんてほとんど成立していなかったように思われた。

ソルが「友達とはどんな事をして遊ぶのですか?」と聞くと

茜は一言、「カラオケとかかな・・・」とだけなんとなく答える程度だった。

なるべく考えないようにと心を無にしてみても、別れの時間は刻々と近づいていた。



「茜様、ここが扉の開く場所です。」


そこは茜が落ちて怪我をした崖のある草っぱらだった。


「・・・・・そっか。もう時間なんだね。」

最後くらい笑顔で見送りたかった。

ソルとは1週間しか居られなかったが、こっちの世界もなかなかいいものだったと思われるように、精一杯の勇気を振り絞って、笑顔を作った。

「ソル、元気でね!」


顔を上げると、ソルはまたしても悲しそうな顔で茜を見つめている。

茜は夕べのソルの顔を思い出し、またしても心臓にグッと痛みを感じた。

そしてソルの腕にかけた手に自然と力が入るのを感じた。


この手を離したら、ソルは消えてしまうかもしれない・・・


そう思うとどうしても手が離せなかった。


あたし今、きっと変な顔してる・・・

泣きそうなのに笑顔なんて作れないよ・・・!


「茜様・・・」


うつむく茜の手を、ソルはつかんだ。

そしてそのまま力を込めて引き寄せて、茜はソルの腕の中に包まれた。

ソルの胸にピッタリとくっついた茜はもうなにが起きたのか理解できず、ただ固まっていた。

徐々に大きく聞こえるソルの心臓の音を聞きながら、両頬に暖かいソルの手の温もりを感じた。

その直後だった。


呆然と固まる茜の唇に、ソルはそっと、自分の唇を重ね合わせた。


暖かい・・・。頬も、唇も・・・・・。

思いがけないソルの行動に、茜の目からは熱い涙が流れていた。


その涙をソルは、頬に添えた手で優しくぬぐい取った。

「ソル、どうして・・・」

茜は口を開いて話し出そうとしたが、その先は再び重ねられたソルの唇によって塞がれた。

さっきの優しさとは違って、今度は強く、強く・・・。



辺りを緑色の光が照らし始めていた。

扉が開きだしたのだ。

二人は光に気づき、光の出所に目を向けた。

視線の先には、細長い円状の裂け目がある。そこから光が溢れていた。


「茜様!」


呆然としていた茜は、裂け目の前へと移動したソルの姿を視界に捕らえた。


「私は戻ってまいります!

 必ず、あなたの側に戻ってまいります!」


ソルは向きを変え、裂け目の光の中へ入っていった。

緑の光の中に溶けるように、ソルの姿は見えなくなっていった。

そして裂け目も薄くなり、消えていった。



「ソル・・・戻ってくる・・・の?」





その一部始終を、草っぱらの外の塀の影から見つめる人影があった。

光と裂け目が消えると、その影も静かに姿を隠した。







































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