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聖夜

ソルと出会ってから6日が経っていた。

その日は聖なるクリスマス。

ソルに対する自分の思いを自覚した茜は、思いを伝えるほどの勇気はないものの、何かプレゼントしたいと考えていた。


クリスマスプレゼントといえば手編みのマフラー?

でもそんなに器用じゃないし、一日で編みあがるわけない・・・

手作りケーキとか?

でもソルのほうがよっぽど料理上手だしな~

あ、でもでもソルは初めてのクリスマスだし、クリスマスケーキって知らないかもしれないよね。

じゃあいいかもしれないな!うん!そうしよう♪


そのためにはまずソルにちょっと家から出ててもらわないと!


「ソルー!ちょっとお願いがあるんだけど・・・」

「はい、なんでしょうか?」

「今日ちょっと沙織が遊びにくるんだけど、ソルがいると恥ずかしいんだって。」

・・・ごめん!嘘の言い訳に沙織使っちゃって!

「だから夕方まで、外に出ててもらってもいいかなぁ?」

ソルは一瞬何か考え込むような表情をしたが、すぐに「かしこまりました。」と笑顔で返した。



ソルを見送り、茜はケーキ作りの材料を探しにキッチンに向かった。

キッチンには幸い材料は揃っていたので、早速作り始めた。

茜は料理は苦手だがおやつ作りは得意だった。

なぜなら自分が食べたいがために、子供の頃からしょっちゅう作っていたのだ。

粉をふるい、卵白をあわ立ててメレンゲを作り・・・


昼過ぎには美味しそうなチョコレートケーキが出来上がった。

飾りのサンタさんを乗せて、と。ん~完璧!

そういえば、クリスマスツリー飾ってなかった!

ソルが帰るまでまだ時間があったので、飾り付けることにした。


茜の背丈ほどもあるツリーに、サンタの人形や鈴、プレゼントの形の模型、キャンドルなどをぶら下げていく。

ライトも巻きつけ、あとはスイッチを入れるだけ。


はっ!と茜は気づいた。

あたし、もちょっとクリスマスにふさわしいお洋服に着替えなくっちゃ!

階段を駆け上がり、洋服ダンスを思い切りよく開ける。

えぇーーっと、これじゃない・・・もっとこう可愛いのないかな・・・

茜が迷いに迷って手に取ったのは、薄いピンクの膝丈ほどのワンピースだった。

ノースリーブで、白い小さな花柄の刺繍が散らされている。

ピンクのワンピースの上に白いカーディガンを羽織った。

普段化粧などはしない茜だったが、今日は気合を入れてファンデーションを手に取った。

口にはうっすらとピンクのリップを塗った。

ソル、少しは可愛いと思ってくれるといいな・・・。

鏡に全身を移しながら、最終チェックをしていると、玄関からソルの声がした。


「ただいま戻りました。」


ソルは玄関でコートを脱いでいるのか、ガサゴソと物音がする。

茜はその隙に急いで階段を駆け下り、居間に入った。

そして部屋の電気を消してツリーのスイッチを入れ、ソルを迎えた。


扉が開いた。

ガチャッ


「メリークリスマス!ソル!」


ツリーのキラキラと光るライトを背に、茜はソルに向かって笑顔で言った。

ソルは目を見開き、驚いたように茜を見つめている。

ビックリしてる~まずは大成功!と、茜はより一層笑顔になった。

キッチンに走った茜は、ケーキを持ってきた。

「これ、クリスマスプレゼント!頑張って作ったんだよ。

 良かったら食べてくれる?」

お皿の上にチョコレート色のキレイに飾り付けられたケーキが乗せられ、甘い香りを漂わせている。

ソルは相変わらず大きく目を見開いたまま固まっているようだった。

「・・ソル?もしかして、迷惑だった・・・?」

茜は何も言わないソルにちょっと不安になって聞いた。

「茜様・・・!迷惑だなんてとんでもございません!」

ソルは茜の手をとり、ひざまずいた。

「私のためにこんな用意をしてくださって、本当に嬉しいです。

 感激のあまり、言葉も出なかったのです。」

そして、跪いたまま手に取った茜の小さな手に、そっとキスをした。

「ソル・・・!」

茜の心臓はまさに口から飛び出そうなほどに高鳴っていた。


茜の手をとったまま、ソルは立ち上がった。

そして手を離すと、茜の後ろに回った。

「茜様・・・」

ソルが名前を呼ぶと、耳元に息がかかり背筋がゾクッとした。

「これは私からのプレゼントです。」

そういうと茜の胸元にヒンヤリとしたものが触った。

「これ、ネックレス?」

「はい、私の使っていたものでしたが、茜様に似合うようにアレンジしてみました。」

細いシルバーのチェーンに金色の丸い枠、その中にはピンクゴールドのハートが光っている。

「可愛い・・・!」

茜は自分の首にかけられたプレゼントを手に乗せ、声を震わせた。

再び茜の前に立ったソルは、茜の顔から首元に目をむけた。

「よくお似合いです。とても綺麗ですよ。」

そして頭がクラクラしそうなほどの、最高の笑顔を茜に送った。


茜はノックアウト寸前の頭を、しっかりしろ!と叩き起こし、息を大きく吸った。

そしてソルに感謝の気持ちを伝えようと口を開いた。


「ソル、ありがとう。大好きです。」


・・・・・・・・・・・・!!!



一瞬誰がそんな言葉を発したのかと疑ってしまった。

が、それは紛れもなく茜自身の口から出た言葉だった。


あわてて口に手を当てて隠してみるものの、時すでに遅し。


ソルはまたしても目を大きく見開き固まっている。

しかし今度はさっきとは違って少し困った表情をしているように見えた。



「茜様・・・私は・・・」


悲しそうな声だった。

その声を聞いて茜は心にザクッと冷たい痛みが走るのを感じた。

そしてそのあとに続く言葉が容易に想像できてしまった。


「ご、ごめんなさい!!気にしないで、今のは、今のはその・・・じょ、冗談だから・・・」

嘘にしてはバレバレすぎる、と思ったが、それ以外に言葉として出てくる物は無かった。

ここから走り去りたい!と強く思ったが、足が根でも生えたかのように動かなかった。

茜は弁解することも動くこともできず、ただ立ち尽くした。



下を向いたまま動かない茜に向かってソルは静かに口を開いた。

「茜様。私は明日、元の世界に戻ります。」

茜は目線を下からソルの顔へと移した。

ソルはじっと、茜を見つめている。

その表情からは何を思うのか読み取ることは出来なかったが、先ほどの言葉が冗談なんかではないということだけは、確かだった。            


次の瞬間、茜は部屋への階段を駆け上がっていた。










































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