「クシュリカ」
クシュリカは生まれつき魔力が少なかった。
常人の半分ほどしかなく、それは体重が半分しかないのと一緒で、大きな弊害を生み出していた。魔法を扱おうにも、すぐに息切れしてしまう――魔力切れを起こしてしまう。だからこそ、使う方法を限定的にするしかないと、判断した彼女の父親はクシュリカを嫁に出すことに専念するしかなかった。というよりも、可愛い我が子を悪魔のような魔人に会わせるなんて、その身が引き裂かれても選びたく無かったのだろう。
そして、体重が――魔力が、半分ほどしかないクシュリカは魔法を扱うことからも遠ざけられたわけで、本人の気持ちや意思がそこに介入することはなかった。
何かにつけて、「危ない」だの「そんなことをしなくてもいい」とメイドに内緒で買ってきてもらった魔導書を取り上げられる始末である。家からも魔導書は消え、魔法に関連したものも捨てられた。
しかし、子を思いすぎるが故に、子をよく見なかった父親も父親だろう。
クシュリカは頻繁に出かけた。それはお出かけがしたいからとか、外の空気が吸いたいからとか、家に居続けるのが退屈だから、とかでは決してない。
彼女は、令嬢たるもの知識と含蓄がなければいけない。人々を助けるのが知恵であるなら、それを正しく扱う知識が必要だと、父親を言いくるめて図書館に何度も足繁く通った。
もちろん、読んでいたのは魔法に関連した書籍である。民間療法的な民間魔法しかなかったが、それだけで充分なのだ。彼女は魔力が少ない。民間魔法であっても数回で魔力切れを起こしてしまうのだから、それだけが充分であって、それしか使えなかったのだ。
だからこそ、彼女が最大限の力を引き出せる術を見つけるのは当然であって、必然であって、運命の女神が自然選択させたほどには本能的であった。
「……あった。言葉を聞かせる魔法」
単純明快。言葉を聞かせる魔法とやらは、本に書かれていることが全てで、それ以上の効果は存在しないほど、およそ政戦目的で使用される魔法だったりするわけだが、クシュリカはこれを求めていたのだ。
これ以外は必要ないほど。
「一瞬だけでも、言葉を聞かせるだけでいいの。一瞬だけで」
そこに全てを賭けるからこそ、クシュリカは必要魔力が少なく、比較的簡単な習得方法の魔法を選び取る。故に、彼女は後として魔王さえも殺すことができた。
たったそれだけ。
相手に自身の言葉を聞かせるだけの、魔法。
聞いてもらうだけの魔法。
たった、それだけで魔王を殺したのだから。