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二人三脚

 時が流れるのは、早いもので、テスト期間が終了した。上位優秀者のところに僕とタイキ、サクラとユリの名前があった。


 コウキとヒマワリの名前はなかったけど、2人とも前回より点数が上がったと満足していた。


 コウキに、赤点がなくてホッとした。僕は少しコウキに甘かったことを反省する。これからはユリにコウキの事を任せようと思う。



 さて、中間テストが終われば、体育祭がやってくる。

総合という不必要な授業に必要なことを決めていく。


 出たい種目は挙手して決める。僕はいつも通り借り物競走を選ぼうと思ってる。

足の速さは最初しか関係ないから割と楽なんだ。


 コウキはクラス代表リレー、タイキは個人種目の100m走。ヒマワリ達は、サクラが100mリレー、ユリがクラス代表リレー、ヒマワリも僕と同じく借り物競争だった。


 二人三脚がまだ空いてる。まあ、決まらないのもわかる。これ何の意図があるのか、男女のペアなんだよね。運動できる人たちは、基本的にポイントの高い競技を担当してるから入れない。運動の苦手な人たちは、もうすでに出るつもりはない。


 つまり、ここから長くなる。


 そこで、標的にされたのがヒマワリだ。


「水精さん、頼むよ。もう、君しかいない!」

「ええー」


 明らかに嫌そうな顔をしてる。体育の時間は楽しそうにしてたし、運動自体はすきなんだろうな。

まあ、男子とっていうのが嫌だよね。思春期にこんなことさせるとは、古い高校だなって思う。


 ヒマワリがちらりと僕の方を見る。目が合うと、ヒマワリがニヒルな顔でにやけた。これは……間違いなく狙われてる。


「うーん、やってもいいけど」

「本当に!じゃあ、おれ」

「相手はうちが選ぶね!」

「え、あ、いや、それは……」

「やるんだからいいよね?」

「も、もちろんです」


 おお、すごい。ヒマワリが男子に圧かけるところを初めて見た。

普段怒らない子が怒ると怖いもんね、わかるよ……だからさ、こっち見るのやめよ、ヒマワリ。


「コウキはもう無理なんだよね?」 

「ああ! 俺はもう入れない!」

 

 確信犯の笑顔同士で笑い合うのやめて欲しい。

やるなら、思う存分やって欲しい……。


「なるほど、なるほど、タイキは?」

「……俺とじゃ体格的に無理があるだろ?」


 まあ、確かになかなか難しそうな体格差ではある。まあ、タイキならうまくやってくれそうだけど。

なんだろう、この感じ。こう、徐々に外堀埋められてるというか、蛇に巻きつかれたカエルのような気分だ。


「ふふーん、そうだよね……ねえ、アキラ? 出てる競技、私と同じだし出れるよね?」

「あー、あはは」


 いや、もしかしたら、ここからなかったことに。


「アキラ?」

「もちろん出れるよ」


 できるわけがなかった。


「はい、じゃあ、相手はアキラで決まり! 早く決まってよかったね、みんな?」


 有無を言わせない圧力。すごい、彼女は強い女性だったんだ。

いや、正直目立ちたくないけど、ヒマワリに選ばれたことの喜びの方が勝ってる。


 ……僕も男で単純野郎だったってわけだ。


 ということで、これからバイトのない日は、2人で歩幅合わせや、速度調整のために、放課後集まることになった。男子からの目線が痛い。主に断られていた鎌犬君。


 昼休みはいつも通り6人で集まる。今日の話題は、体育祭のことで話が盛り上がっている。


「アキ怒ってる?」

「え、怒ってないよ?」

「ほら、だから言ったじゃん。絶対気にしてないって。」

「アキラは、心が広い」

「ふふそうだね〜」

「いやー、珍しもんが見れたし、むしろナイスだったぜヒマワリ!」


 どうやら、目が合った時にイタズラしたくなったらしく、悪ふざけでやったようだ。

むしろ、最後に僕だったから、余り物感が出て、同情的な視線もあった気がする。


 役得なので、あんまり気にしないで欲しい。

馬鹿正直に伝えはしないけど、本当に気にしないでと、念を押しておいた。


 放課後にヒマワリから練習しようと誘われたけど、今日はバイトの日なので断った。


 本当は一緒に練習したかったけど、女子は女子で全体ダンスの練習があるらしいので、そっちに行くから大丈夫と言われた。男は、簡単な応援団的な催しがあるけど、コウキ達から教わればいいな。


 今日は1人で帰る。応援団の練習が今日だからね。僕は、バイトがあるから先に帰る。


「じゃあね、アキ!バイトがんばってね!」

「ありがとう。ヒマワリも練習頑張って。じゃあね、ヒマワリ。サクラとユリもまたね」

「うん、また」

「さよなら〜」


 1人で帰るのは久しぶりだ。なんだか少しだけ寂しい気もする。

気もするっていうか、寂しいんだろうな実際。いつもはヒマワリが隣にいるから、毎日賑やかだったんだよね。


 まあ、いないものは仕方がない。音楽を聴きながら家に帰る。

さて、今日のバイトも頑張りますかね。


 今日のバイトは、そこまで忙しくなかったので早上がりすることに。

いつも通り、大量のご飯をいただいてから、家に帰る。



 次の日の放課後。今日は、ヒマワリと二人三脚の練習だ。


「じゃあ、一緒に走ってみよ!」

「お手柔らかに頼むよ」

「お任せあれ!」


 うーんどうしても、距離が気になってしまう。

あんまり近すぎてもあれだし、遠すぎてもやりにくいしな。


「ふふーん。昨日、二人三脚の攻略法を見てきたんだよ!」

「おお、本格的だね」

「やるからには、全力で楽しまないとね!」


 さすが、ヒマワリらしい考え方だ。


「まずは、外側がアキラで内側がウチね!そしたら、紐を硬く結んで取れないようにする」

「ふむふむ」

「んで、次は、腰に手を回す! はい、やってみて!」

「ふむ……む?」


 え、それはいいのかな……? ちらっとヒマワリを見ても動じていない。

そうか、これは運動だ。意識したら負けなんだ。


「えっと、失礼します」

「はは! 何で敬語な、の……」


 体の内側が密着すると同時に、腰に手を回す。ちらっと、ヒマワリを見ると、顔が真っ赤だった。

いや、もしかして気がついてなかったのか。というか、ちらっと見ただけなのに、距離が近いせいで心臓がうるさい。


「こ、これは……照れますな」


 自分だって敬語になってるよと、突っ込む余裕すらない僕。


「そう、だね。あんまりくっつくかない方がいいよね」

「いや……こ、これは勝つためには必要なんだよ! 大丈夫、このまま……」


 うわ、ヒマワリが振り向いたから、さらに距離が近づいた。たまらず顔をそらす。

ヒマワリの方を確認すると、ヒマワリは茹蛸になってしまうほど、顔が真っ赤だ。これにはたまらず、僕の顔が熱くなる。


「わわわ、これはダメだね! よし、お互い前を向こう!」

「そうしよう。じゃあ、まずはどっちの足から出そうか?」

「えーっとね、まずは」


 それから、せーので外側の一歩目を出す。ゆっくり次の一歩。徐々に歩幅があってくる。歩けるようになったら、徐々に速度をあげていく。


 いち、にい、いち、にいと、分かりやすく声をかけてくれるので、助かる。

 

 1時間、みっちり練習したので、なかなか疲れた。正直、体力的にっていうより、精神的にしんどかった。


「うん、いい感じだね! うちらめっちゃ呼吸合うかも!」

「そうだと嬉しいな。ヒマワリが調べてきてくれて助かったよ」

「へへ、役に立ててよかったよ!」


 着替えてから、2人で帰る。うーん、昨日も思ったけど、やっぱりヒマワリの隣は落ち着く。

ヒマワリは、今日はすごく機嫌がいい。


「機嫌がいいね」

「バレた? 昨日思ったんだけど、1人で帰るより、アキと2人で帰った方が楽しいなって思ったの!」


 まさか、僕と同じことを考えていたとは。

意思疎通がとれるこの感じって、すごく仲良くなってる感じがしていい。


「僕も同じこと思ってたよ」

「えー! それは嬉しい奇遇だね!」


 うん、やっぱりヒマワリには笑顔がよく似合う。

写真を撮っておきたいけど、キモいのでやめておく。


「そうだね。 あ、そうだ。二人三脚のコツを教えてくれたお礼に、お茶でもいかが? 奢るよ」

「それは、ナンパかなアキ?」


 ナンパね。それもいいかもしれない。


「お嬢さん、僕に時間をくれませんか?」

「ふふ、貴族になった気分。もちろん、喜んで」

「では、参りましょう」

「はーい!」


 飲み物をテイクアウトで持ち帰って、飲みながら帰った。

タピオカ入りレモネードを美味しそうに飲んでいる。……なんか、すごいな。


「それ、美味しいの?」

「これ? 向日葵みたいで可愛くて美味しいよ!」

「……ああ、花の方か」

「えー、普通そうでしょ〜」

 

 まあ、それはそうか。いけない、ダメな思考を持ってしまった気がする。


「ヒマワリって、向日葵の花にこだわりあるよね」

「そうだね!自分の名前もそうだから、気にしちゃうのかも? オレンジ色の筆箱に、オレンジ色のペン。オレンジ色と黒の折り畳み傘に、オレンジ色と緑のお弁当箱! ちなみに、この世で最も好きな食べ物はオムライス!」

「そうなの?」

「うん! ヒマワリの花の形してて可愛いくて、美味しいから!」

「凄いな……そこまでこだわりがあると、尊敬できる」

「えー、そう? なんだか照れちゃうな〜」


 彼女の喜ぶ姿と楽しそうに話す姿を見るだけで、僕は幸せを感じるようになってしまった。これは、末期な気がするな〜。


 彼女は、自分の飲み物を見て差し出してくる。


「あ、アキも飲む? あ、飲み物の中に食べ物入ってるの好きじゃないんだっけ?」

「うん、よく覚えてたね。僕が無理に飲むより、美味しく飲んでもらった方がヒマワリドリンクも喜ぶよ」

「はは、ヒマワリドリンク、ウケる! じゃあ、遠慮なく!」


 正直、制服デートしてるみたいで、心が浮ついてしまう。

僕はビターレモネードを頼んだはずなのに、なんだかとても甘く感じた。 


 この時間が甘いものだと舌が認識させてるのか、店員さんがシロップを抜き忘れたのか、今の僕には分からない。


 けど、相手がヒマワリじゃないと、こんな感情が生まれないことくらいは、分かっているつもりだ。



  バイトがない日は、2人で二人三脚の練習。なんか、部活みたいだ。中学は部活に入ったけど、適当にやってたから、真剣に運動してる自分が新鮮だなって感じた。同じ目標を持つ人たちが集まるからといって、楽しいだけじゃないと思うけど。実際、ちらほら陰口言ってる人たちも見かけたし。


「なんか、部活みたいだよね! うち、部活入ったことないから分からないけど」

「まったく同じこと思ってたよ」

「おー、こないだから考えてること同じだ! なんか嬉しい!」

「というか、ヒマワリも部活入ってなかったんだね」

「うん。ちょっとね、あはは」


 ヒマワリは過去のことを話したがらない。なにかあったのは確実だけど、聞いていいものか迷う。

まだ出会って、そこまで日が経ってないから、踏み込みにくい。


 時が経ち、いずれ話してくれる関係になれるように、僕も頑張ろう。


「そうなんだ。まあ、でも、いまこうして似たようなことできてるし、いいんじゃないかな」

「確かに! それは、いいことだね! よし、もう少し頑張ろう!」

「うん」


 僕たちは、練習を続けた。距離感にも慣れてきた。ふい、ドキッとする場面が無くなったわけじゃないけどね。歩幅やコーナーの対応の仕方、掛け声、とにかくできる限りのことはした。


 努力して成果がでたら気持ちがいいもんな。バイトして貯めたお金で免許とバイクを手に入れた時の達成感と似てるのかなと、柄にもなくワクワクしてしまう自分に、内心で苦笑した。



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