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「おはようございます」

「あら、アキラちゃーんおはよう」

「おー、来たか! ベテラン高校生アキラ!」

「店長、僕まだ2年目なんですけど」

「1年間、立派に働いてるから問題ねぇよ! つか、そろそろホールもやってくれって」


 く、店長いい人なんだけど、高校生の僕に何でもやらせようとしてくるのやめて欲しい……。大学生を頼ってくれ……。


「目立つの嫌なんで、嫌です」

「かー! 勿体ねぇ。性格も良くて、オシャレに目覚めれば、イケメンになんのによ」


 本当によく人を見てるよ。だからこのバイト先、いい人ばっかりだし、人が辞めないんだろうな。


「……店長くらいですよ、そんな事言うの」

「そうか? この店のみんなは分かってると思うけどな。うしー、じゃあ今日も頼むわ」

「はい、お願いします」


 確かに、あんまり話さない僕みたいな人にも優しいからな、ここの人たち。


 店長の人を見る目があるおかげだろう。感謝感謝。


 17時から21時までの四時間シフト。

本当に忙しい時は、21:30まで伸びる。

店長いわく、高校生は21時になったら帰らせたいらしいけど、忙しい時は自主的に手伝ってる。


 30分だけ伸びても異様に感謝される。

まかないも少し豪華になるので、忙しい時は伸びるって決めてる。


 地獄のような忙しさの時は55分まで。

22時は本当にダメと言われたので、そこは守るようにしてる。


 ちなみに今日は……地獄だった。大量のまかないを頂いてる最中だ。


「アキラお疲れ、タバコ吸ってもいいかい?」

「ミナミん、お疲れ様です。どうぞ」


 ここは店長が個人経営してるお店で、メインはピザとパスタがメインのイタリアン。個人経営だからか、わりと何でもありらしく、従業員の休憩室ではタバコも吸っていい。店長が吸ってるから、誰も止められないけどね。


 まあでも、ここのバイトのみんなは20歳以上だし、タバコを吸ってる人は結構いるから、店の空気が悪くなることはないんだ。物理的には、悪くなってるけどね。部屋からヤニの臭いがするし。僕はあんまり気にならないけどね。


 そうそう、タバコを吸う許可を僕に取ったのはミナミさん。


 26歳のフリーターで、絵で生活出来るように努力中だそう。将来的には、色々な場所に旅行しながら、感動した風景を描きたいと本人が言っていた。


 南さんは、バスの時間があるそうで、22時には退勤する。


 ミステリアスな雰囲気のミナミさんには、タバコがよく似合う。僕の周りにはいない大人の魅力がつまった女性だ。


「あー、染みる……」

「美味しいんですか?」

「んー、味は別に。悪いものが体に染み渡る感じが好きなのさ」

「そうなんですね」

「ああ、君は吸わないように。体に毒だから。まぁ、近くで吸う私が言うのも何だけどね」

 

 そう言って、また彼女はタバコを吸う。まあ、僕は気にしないけどね。なんか、南さんが吸うタバコの臭いって嫌いじゃないし。


「別に気にしませんよ、俺、健康体なんで」

「はは、ありがと。にしても相変わらず食べるな君は」

「店長の悪ふざけから始まったんですけどね。もったいないから食べきってたら、大食いってバレちゃいました」

「いいじゃないか、いっぱい食べれて。君、誕生日はいつだったか?」

「12月25日ですね」

「では、まだ先か……」


 南さんは、僕のバイクの後ろに乗りたがっている。バイクに乗るのが好きだけどお金がないらしく、バイクはもちろん、免許も持っていない。


 乗せてあげたいのは山々だけど、残念ながら、免許を取得したのは誕生日の日。二人乗りは、1年間してはいけないから、乗せてあげることができない。


 僕の誕生日がまだなことを、残念そうにする南さんに、声をかける。


「今年まで待っててください。その時は乗せますから」

「うむ。では、楽しみに待っているとしよう。もう一本吸ってもいいかな?」

「どうぞ」

「ふふ、感謝する」


 南さんと話しながら食べ進める。店長が作る賄いは、男子高校生の僕にはうれしい揚げ物だったり、味の濃い料理で、ご飯が進む進む。店長は食べ盛りのみんなのために、わざわざお米と炊飯器を買ってくれたのだ。賄いも、専用の貯金箱に300円入れると食べさせてもらえる。


 ピザを作り慣れてない時は、自分で300円払って、焼かせてもらってた。

店長は、それくらいならタダでいいって言ったけど、他の人もそうしてるのを見たら僕だけ特別なのは嫌なので、払っている。


 高校生なんだからいいのにってみんなは笑うけど、特別扱いは嫌なんですと断ると、いい子ねって褒めてくれる。僕以外みんな成人してるから、弟扱いされるんだ。


 でも、南さんは特別扱いしない。僕が休憩中の時、みんな気を使ってタバコは吸わないか、外で吸う。平等に扱ってくれるから、その気遣いが嬉しくて、こうして懐いてしまってる。

 

「ごちそうさまでした。南さん、僕、先にあがります。お疲れ様でした」

「ああ、お疲れ、アキラ」


 食べた食器を自分で洗い、ついでに溜まってる食器も軽く洗っておいた。

僕の姿を見て、キッチンの先輩である淳さんがお礼を言ってくれた。淳さん、いい人。


「じゃあ、店長お疲れ様です。賄い、ご馳走様でした。うまかったです」

「おーう、どういたしまして。お疲れさん、アキラ。親父さんによろしく伝えてくれ」

「わかりました」


 たまたまこの店に家族で来た時に、父さんと店長が知り合いだったらしく、僕は流れでバイトすることになった。料理も学べるし、他のお店より時給がいいので、大変助かっている。


 おかげで、誕生日にはバイクも買うことができた。誕生日プレゼントって言って、半分くらい父さんが地道に貯めてきたお小遣いを分けてくれた。太っ腹な父である。


 バイクにまたがって、エンジンをかける。少し経ってから、バイクに乗って家に帰る。


 暗い夜道を1人で帰るこの時間が、割と好きだったりする。


 家に帰ると、母さんがまだ起きていた。バイトがある日は、両親は基本的に僕が帰ってくるまで起きてることが多い。


「おかえりなさ〜い、今日もお疲れ様」

「ただいま、母さん。父さんは?」

「もう寝てるわ。明日も早いから」

「そうなんだ。お風呂入っていい?」

「もちろん、アキで最後だからお風呂のお湯抜いてね。母さんは、もう寝るわ」

「分かった。いつも待っててくれて、ありがと」

「ふふ、私が待ちたいだけよ。じゃあおやすみ」

「うん、おやすみ」


 母さんは心配性だ。バイクを手に入れた今、どこか遠くに行ってしまいそうな雰囲気を感じるらしい。僕は未成年だし、そもそもそんなことする予定もないけどね。


 ちゃっちゃか風呂に入って、寝る前に明日の用意をしてからベッドに寝転ぶ。


 スマホからの通知を見て、連絡内容を確認する。


 どうやら、全員僕の家に来るみたいだ。水木金土日と、ゴールデンなウィークで、僕はゴールデンなウィーク全てにシフト提出したけど、木曜日と日曜日は店長が休みをくれた。


 明日の夕方、分かったら教えると連絡してから寝た。



 次の日、学校に行くと噂が飛び交っていた。


「あ、アキラおはよう! ねぇねぇ、噂聞いた?」

「おはよう、ヒマワリ。噂って? ユリとサクラもおはよう」

「おはよう、アキラ」

「おはようございます、アキラくん」

「ふふーん、この街にいるかも知れないんだって!」

「えっと、誰が?」

「叶え人!」


 あぁ、前にも聞いたことある。


 叶え(かなえびと)


 叶え人に会えれば、何でも1つ願いを叶えてくれるらしい。

 

 叶え人のお陰で、金持ちになったり、嫌なことがなくなったり、好きな人と結ばれたりと、本当に何でもいいらしい。


「へー、そうなんだ」

「え、あんまり興味ない感じ!?何でも叶えてくれるんだよ?」

「うーん……正直、初対面の相手に自分の願いを言いたくない。叶うかも分からないし。叶ったとしても、代償が必要かもしれないしなぁ」


 正直な気持ちを伝えると、ヒマワリが少し落ち込んでる。あー、やってしまった。


「現実的……」

「リアリストだね」

「ふふ、でもたしかにアキラくんの言うことも分かる〜」

「ごめんね、嘘はつきたくないから。ヒマワリは、何か叶えたい願いでもあるの?」

「ふふふ、よく聞いてくれました! 私はね、超健康な体だね! 人生楽しむには、まずは体が大事!」

「……ヒマワリも割と現実的よね」

「はは、確かに」

「ふふ、可愛いわ〜」

「な~んで笑うのさ!」


 プンプン怒りながら、アライグマのポーズをするヒマワリ。シャーって声を上げるから、思わず3人で笑ってしまう。


「うす」

「おはー! なんの話ししてるの?」


 タイキとコウキが、教室に入ってくる。


「あ、おはよう! タイキ、コウキ聞いてよ! みんなが私のこと馬鹿にするの!」

「えー、馬鹿にはしてないよ」


 いつものメンバーでわいわいしてると、ホームルームの鐘がなる。


 今日一日、学校の話題は、叶え人の話で溢れていた。


 僕には分からないけど、みんな叶えたい願いがあるようだ。


 学校が終わり、ヒマワリと一緒に帰る。ヒマワリは未だに叶え人の話で盛り上がっている。


 ヒマワリ以外は、あまり叶え人に興味がないようだったから、不満らしい。


「みんな、欲がないよ! 金持ちになりたいとか、モテモテになりたいとか、世界を平和にしたいとか、なんかそういうの!」

 

 急に世界平和を出すから、つい笑ってしまう。そうすると、頬を膨らませて威嚇のポーズをしてくるヒマワリ。謝ってから話を進める。


「はは、欲っていうより夢があるんだと思うよ。それに、どちらかといえば、あの4人は自分で夢を掴むって感じだったし。コウキは自分で言ってたけどね」

「うーん、それはそれでいいね! ……じゃあ、私には夢がないんだなぁ」

「そうなの? ヒマワリには、夢が沢山ありそうだけど」


 あからさまにテンションが落ちるので、心配してしまう。でも、なるべく核心を突かないようにする。


 触れられたくない出来事は、誰にでもあるのだから。


「うーん、夢っていうよりは、何ていうのかな……こうでありたいって感じなんだー」

「願望ってこと?」

「うん、そうだね。ウチはね、未来よりも今が大切なの。だから、少しでも長く今を精一杯楽しみたいの」

「なら、みんなで楽しもう。叶え人なんかに叶えてもらわなくても平気だよ。僕たちで叶えよう」

「! うん、そうだね! じゃあ、ゴールデンウィーク楽しみにしてるね!」

「分かった」


 ああ、やっぱりいいな。

ヒマワリのような笑顔がよくに似合う。


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