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記憶の花びら(1) 未練たらたら

『おはよう、狼太君!』『狼太君、ありがとうね。助かったよー!』


 最初の出会いは、お互い苗字呼びだったね。


 ああ、でも本当は二回目の出会いだったんだよね。中学生の頃の僕は他人に興味がなかったから、君との出会いもあまり覚えていないんだ。


 だから、僕にとっては、これが君との初めての出会いだよ。




『2人とも名前で呼んでるのに……ズルい』『うちのことも、名前で呼んで!』


 ヒマリたちと遭遇して、名前を呼び合う関係になったね。ああ、これも偶然じゃなかったのか。


 ユリがコウキから遊ぶ場所を聞いていたんだったね。


 意外と策士だよね、ヒマリ。



『アキラおはよう!』


 あの頃の僕は目立ちたくなかったから、名前呼びは秘密のつもりだったのに、君が僕を新しい世界に連れて行ってくれたんだね。



『相手はアキラで決まり!』『こ、これは……照れますな』

『うちの大事な友達です!』『やった、1番だよ、1番!』


 体育祭は嫌いな時間だったけど、今は意外とありかなって思ってるよ。

 

 君が全力で楽しんでいたから、きっと僕にもその感情が乗り移ったんだ。



『自分を犠牲にするようなことはしないって約束して』『ふふ、いいよ』『花畑に行きたいけど……嫌かな?』


 この時の僕は約束もできない腑抜けた男だったね。デートに誘ってオッケーをもらった時、本当はその場で小躍りしたくらい嬉しかったんだよ。君はどうだったのかな?僕と同じ気持ちなら、それこそ小躍りを披露して見せるよ。



『一緒に撮ろ!』『アキラは、うちの秘密知りたい?』『告白も、すっごく嬉しかった!』


 みんなには秘密のデート……楽しかったね。


 それに、君から教えてもらった秘密は、あの時はそれだけかって思ってたよ。

正直、一歳差なんて誤差みたいなものだから。


 まあ告白は、見事に撃沈したけどね。

でも、君の笑顔がたくさん見れて、僕はやっぱり幸せな気持ちになったよ。


『じゃーん! かわいいでしょ?』『ヒミツ』『どう? 張り切ってきちゃった!』  

『駅で待ち合わせって、デートって感じしない?』『うわーーーーー! 向日葵がたくさん咲いてる!』

『ふふ、コロっときちゃったかな?』『今日からヒマリって呼んでね!』

『向日葵には太陽が必要なんだよ』『休眠期に入ったの』『ヒマリの運命の人』

『怖いんだ、付き合うことが』『キスしちゃったの』

『付き合いたくないなんて言えない……言いたくないよ』

『ヒマリもアキが好き……アキと付き合いたい……アキと幸せになりたい』

『好きな人から、ヒマリって呼んでもらうことが、夢だったの』

『ヒマリもアキラが好き』『8月31日なの……』『こういうのはフィーリングなの!』

『ヒマリの彼氏、いい人すぎて心配……』『ありがとう、アキ! 大切にするね!』『ヒマリはアキラより一つ上のお姉さんだもん!』


 夏休み、たくさんの思い出を君と作れてよかった。

 

 君の水着姿は、本当に可愛かったよ。ビーチには僕ら以外人がいなかったけど、本当は独り占めしたくて、みんなにすら見せたくなかったんだよ。


 君がしてくれたキスは、海の味がしたんだ。

それはそうだよね、海の中でキスをしたんだからさ。ファーストキスはレモンみたいに甘酸っぱいって言われてるけど、僕らにとっては甘辛い味だったよね。


 みんなで夜更かしして、秘密を語り合って、その後は夢も語り合ったね。

みんなそれぞれやりたいことがあって、羨ましかったよ。


 あの時は言えなかったけど、今なら言える。


 ……僕の今の夢は、みんなといつか必ず出会うこと。


 みんなと会えたら、みんなと幸せになることが、僕の今の夢なんだ。


 ヒマリと人生を共に過ごしたいって思いも、もちろん、その夢に秘めているよ。



 向日葵畑のデートは、本当にすごく楽しかったし、幸せだった。


 今でもあの時の光景がありありと浮かんで来るんだ。


ヒマリって愛称を呼んで欲しいとお願いしてきたこと、向日葵には太陽が必要ってこと、君の最後の秘密のこと、運命の人と言われたこと、君に好きと告白されたこと、お互いが両思いだったこと、君の小さな夢が叶ったこと。


 僕にとっては、本当に全てが大切な思い出だ。



 あの時は、運命の人が僕だとは思いもしなかったし、ヒマリと初めて会った時がまさか中学の頃だったなんて思いもしなかったんだよ。それに、中学生の僕が誰かに影響を与えていたなんて知らなかったから、僕は救われた気持ちになれたんだよ、ヒマリ。


 そこで、より一層、君のことが好きになってしまったよ。

 

 どうしようもないほどに、怖がる君を抱き寄せてしまうくらいにね。


 君は最後の秘密を話してくれたのに、僕は結局今日まで僕の秘密を打ち明けることができなかったよ。


 自分でも確証がないことは言いたくなかったから。


 そして、君に謝らないといけない。


 君に嘘をついた僕を……自分を犠牲にしてしまう僕を……どうか許して欲しい。 


 ……おっと、話が外れちゃったね。 話を戻すよ。


 みんなで行った夏祭りも楽しかったね。

線香花火を見て、少しだけ落ち込む君を励ませたのは、日頃から僕が君を見ている証拠だよ。

なんだか、変態みたいでかっこよくはないけどさ。


 ヒマリの誕生日も祝うことができて、君に誕生日プレゼントを渡すことができて嬉しかったよ。


 ベリドット、太陽の宝石。


 このネックレスを渡した時に思ったんだ。

 

 僕は君を守りたいって。

時間がかかったし、逃げようともしてしまったこと、謝らせて欲しい。


 ごめんね、ヒマリ。

 

 でも、本当にもう大丈夫だよ。

 寝ている君が今つけてるネックレスに誓って、今度こそ僕が君を守るから。



『じゃーん、メイド服!』

『思い切ってバッサリ行こうよ!』

『バイトみたいで楽しかったよ!』

『なんで、また自分が犠牲になるようなことしたの!?』

『アキラの嘘つき!!』


 文化祭も楽しかったよね。

楽しかったけど……君を初めて泣かせてしまったね。あの時は、彼氏失格だと思ったよ。



『ひどいこと言ってごめんね……アキラ』『なんだかアキラが遠くに行っちゃう気がして、怖くなって……』

『もう少しギュッてして欲しい』『ヒマリ達、悪い子だなって』

『ヒマリも……アキラが好き』『今度こそ約束してくれる?』

『嘘ついたらホホビーンタ!』


 でも、君は優しいから、すぐに謝ってくれたよね。仲直りできて、本当によかったよ。 

君に確信めいた言葉を言われた時は、ちょっとドキっとしたけどさ。


 今日は謝ってばかりだけど、約束破ってごめんね。


 いつか会えたら、頬にビンタは覚悟しているよ。



『金木犀の香り!』『ふふ、短髪かっこいいね!』

『……アキはヒマリのだもん』『風邪……移しちゃうよ?』


 ただ歩いて帰った日も、僕が髪を切ってから学校に行った日も、ヒマリが風邪を引いた日も、僕にとっては、大切な思い出なんだ。



『お互いに送り合ったネックレスつけるのって、すっごくいいなって思って』

『やっぱり誕生日プレゼントは、稼いだお金で買いたかったから!』『高校生なのに、気が早いかな?』

『ねぇ、つけてくれますか?』『それは未来の楽しみに取っておくんだよ!』

『こちらこそ、出会ってくれてありがとう、アキ!』


 クリスマスデートに誕生日・クリスマスプレゼント……すごく嬉しかった。

君が未来を考えてくれてると分かった時、僕は少し泣きそうになったよ。



『ヒマリの家、誰もいないの』『今日はずっと一緒にいようね』


 そうそう、元旦で、僕らの関係はさらに深まったよね。

君があまりにも大人だったから、僕は心を奪われっぱなしだったよ。

 

 お互いの体温を感じながら眠る夜は、とても心地のいい時間だったよ。



『形は悪いけど……味は美味しいよ!』『うわー、すごい、飴だ!』


 バレンタインデーもホワイトデーも、まさか経験できるなんて思ってもなかった。


 誰かのために作ることが、あんなにも楽しいとは思いもしなかったな。

意外と料理の道に進むのもいいなって、思い始めてきたのにね……未来の昔の僕も、そう思ってくれるといいな。



『死にたく、ないよ……死んで、ほしくないよ……あきらぁ』

『アキの前だと……安心するから』『花は……好きだけど……人の命を、奪う花は嫌い』 


 ここ最近……ずっとつらいことばかりだったね。

本当に、神様は意地悪だよ。君みたいないい人を連れて行こうとするんだから。


 ああ、でも、憎まれっ子世に憚るだから、愛されっ子世に連れされるなのかもね……。



 君の願い……僕が今日、叶えてみせるから。


『みんなの幸せを願うの』『うん、だーいすき』


『アキラ……だいすき』


 僕も……君が大好きだよ。


 だから……ごめんね、ヒマリ。


 君には生きていて欲しいんだ……。これは僕の勝手な我儘だ。


 君を失うくらいなら、この一年で形成した僕という存在を殺した方が……よっぽど楽だったんだ。


 僕は……君を失ったら、この先、生きていける気がしない。


 だから、高校2年の僕は……これから死ぬ。


 ……ヒマリの気持ち、少しだけなら分かった気がするよ。


 怖いね、これは……。僕は自分のタイミングでいけるから、きっとまだマシだ。


 でも、ヒマリは、いつ襲われるか分からない恐怖と戦っていたんだね。


 君はすごいよ……本当に今までよく頑張ったね。


 もう、僕が解放してあげる。

 

 でもさ、ひとつだけ……ひとつだけお願いしてもいいかな。


「最後に……もう一度だけ……名前を呼んでくれると嬉しいな、ヒマリ」

「……」

「まあ、無理だよね」


 早く君を解放してあげないとね。


 これからは、君は楽しく幸せに人生を送るんだよ。


 きっと、大丈夫。僕なんかいなくても、君はどこまでも幸せになれるから。

 「もう……夕方なんだね。思い出話に花を咲かせると、時間が溶けていくんだね。

……大人になった君たちはお酒を飲みながら思い出話をして、僕と同じことを思うのかもしれないね」


 もう約束の時間になってしまう。


 短くも長い時間、久しぶりに2人で過ごせたね、ヒマリ。


 本当はヒマリの花のような笑顔をもう一度見たかったけど……仕方がないよね。


「さあ、お別れをしようか……ヒマリ」


 買ってきた花瓶に、17本の小輪の向日葵の花束を飾る。


 向日葵の花言葉は、私はあたただけを見つめる。


 小輪には高貴・愛慕の花言葉。


 そして、17本の花束の花言葉は、絶望の愛。


 私は高貴なあなただけを見つめていたいし、本当は深く愛したくて仕方がないけど……この思いは叶いそうにない。


 そんな意味を込めて……君に送るよ。

本当に、未練たらたらで情けないね……僕は。


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