名前
4人・2人ではなく、3、3にすることに。
結果、僕と野々花さん、鷹花さん
タイキ、コウキ、水精さんになった。
それぞれが席につく。
とりあえず、2人とは面識がないので、他愛のない話でも振るか。
「なんか、ごめんね」
「? なんで謝るの」
「なんとなく?」
「たまには〜、こういうのもいいよね~」
「それもそうだね、ごめんごめん。食べ放題だし、適当に好きなもの頼もう」
料理を色々頼んでいく。結構メニューが豊富だから、楽しみだ。
料理が届く前に軽く雑談する。
「タイキとコウキのことどう思ってる?」
「別に何とも。いい人達だなってくらい。コウキとは中学校から一緒だしね。3人よく一緒にいるし、仲いいんだろうなくらいにしか思ってない」
「そうねぇ、牛山さんは寡黙で、卯座木さんは人柄がいいって印象かな〜。2人とも私達を助けに来てくれたから、とてもいい人だよ〜。もちろん、狼太さんも」
鷹花さんはニッコリ笑う。
本音を話してくれる2人も、いい人なんだろうなぁ。
「はは、ありがと。良かったよ、コウキはともかく、タイキは勘違いされやすいから」
「友達思いなんだな、狼太」
「まぁね」
「うふふ、素敵だね〜。わたし達と似てて好感持てる〜」
「それは良かった」
料理が来たので食べながら、話をする。2人とも、聞けば色々と答えてくれるし、嫌な感じもしないので話しやすかった。
「狼太、結構食べるんだね」
「野々花さんが少食なんじゃない?」
「ふふふ、確かにユリちゃんは、少食だけど〜、わたしはそれなりに食べるんだよ〜? でも、狼太君は、わたしより食べてるねぇ〜。見ていて気持ちがいいよ〜。あむ」
ここのピザとパスタの量が、少ないからだと、個人的には思うけど。
鷹花さん、ハムスターみたいに食べるな。鷹に食べられる側の動物だけど。これもギャップでは?
あまりに表情の変わらない顔で、うんうんと頷く野々花さん。
「ほんとにそう、なんか色々意外。眼鏡もないし、髪も上げてるから、最初誰か分からなかったし」
「あー、よく言われるんだ。大人しいと思われたほうが、絡まれる心配ないでしょ? 外だと僕って分からなくて、声かけないだろうし」
「うわ〜、徹底してる〜」
「なんか、似てるね、ひまわりと」
「そうなんだ」
「確かに、似てるねぇ」
コクリと頷いてジュースを飲んでから話し始める。
「あんまり顔見せたがらないんだ。今日みたいな事が起こるからって。まぁ、私達が顔隠してないから、あんまり意味ないんだけどね」
「なるほどね。3人とも可愛すぎるのも問題だね」
可愛い系と美人系がいるから目立つよねぇ。
水精さんはボーイッシュ。
野々花さんは、スタイリッシュ。
鷹花さんは、大人系。
それぞれ違う服装と容姿だけど、全員花があるからなぁ。
少し顔を赤らめて、目線を外す野々花さん。
「しれっと言うな」
「あぁ、ごめんごめん。」
いけない、コウキと同じことしちゃった。いや、いいことなんだけどね。
「うふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ」
大人な対応の鷹花さん。
3人ともタイプは違うけど、みんないい人だ。とても接しやすい。
「私からも聞きたいんだけどいい?」
「いいよ」
「ヒマワリのこと、どう思う?」
「あー、それわたしも聞きたかったの〜」
ニッコニコ顔の鷹花さん。うん、和む。一方で、野々花さんは僕のことを探ってる感じがした。
たぶん、鷹花さんも同じだ。顔は笑ってるけど目の奥が探りを入れてるし、似たようなものだろう。
「水精さんは、なんというかこだわりがあるよね」
「こだわり?」
なんだか、不思議そうな顔をする野々花さん。
「うん。あ、僕、人間観察が好きなんだ。特定の誰かというよりは全員見てるんだけど……あ、気持ち悪かったらここで止めるけど、どうする?」
「大丈夫、続けて」
バイトの面接みたいだな……。
「あ、うん。それで、水精さんは、人の悪口を言う人には近づかないようにしてる。スクールカーストよりも人間ができてる人が好き。たぶん、そういう負の感情が嫌いなんだろうね。人のことを悪く言う前に、自分が変わりなさいよみたいな」
ふ、っと野々花さんが笑う。
「野々花さんは、言いたいこと素直にはっきり言えるタイプだし、鷹花さんは、褒め上手だから、水精さんからしたら理想のお姉さんって感じ。2人とも人を悪く言わないから、いつも一緒にいて居心地がいいんだと思うよ」
「ごめん、やっぱり少しキモい」
「だよねぇ」
自分でもそう思うからね。父親から、相手をしっかりと見極めなさいって何度も言われ続けた結果、こうなりました。
心の声を素直に出しすぎた野々花さんは、申し訳無さそうに謝る。
「ごめん……つい本音が。いや、これも違うな。なんかごめん……。でも、素直に話してくれて嬉しい、ありがと」
「ふふふ、ユリちゃんは相変わらず素直だね〜。それにしても狼太君、すごい特技だねぇ〜。当たってるよ〜。あむ」
「そう言ってもらえると、こちらとしても助かるよ。自信もつくしね」
友達思いなんだなと改めて思う。きっと、水精さんが二人を大切にしてるように、2人も水精さんが大切なんだ。それにしても、鷹花さんもなかなか食べるな。
「それは良かったのかしら? まぁ、いいか。狼太もいいやつそうだし、これから絡むこともあると思うからよろしくね」
「よろしくね〜、アキラ君」
名前呼びとは、さすがお姉さんって感じ。同い年だけど、姉ちゃんって呼びたい。
「名前呼びいいね。アキラよろしく。
あと、さん付けで呼ばなくていいから。同い年にさん付けで呼ばれるのはちょっと」
「うふふ、私もそうしてもらえると嬉しい〜」
「うん、分かった。ユリ、サクラ、これからよろしくね。あ、追加でピザ食べていい?」
「……まだ食べるのね、凄いわ……。どうぞご自由に」
「ありがと」
「うふふ、ゆっくり食べてね〜あむ」
「いや、サクラも食べるのね」
「はは、面白いな2人とも」
こうして、僕に新たな友達ができた。
なんだか、高校生活をエンジョイできて嬉しい。
食べ終わったあと、これから6人で遊ぶことになった。まあ、ボディーガードみたいな感じかな。
みんなで会話していると、水精さんが僕の服を少し引っ張ってくる。
「ねぇねぇ、狼太君」
「どうしたの、水精さん?」
ムッと頬を膨らまして、睨んでいるみたいだけど……リスみたいで可愛い。
声が小さいので、内緒話のようだ。
4人と距離を取って、水精さんと2人になる。
「なんでウチは苗字呼びなの、2人とも名前で呼んでるのに……ズルい」
「ズルい?」
ボソッと放った言葉も、聞き逃さない。僕は鈍感系主人公じゃないからね。
「! と、とにかく、ユリ達が名前呼びなら、うちのことも、名前で呼んで!」
顔を真っ赤に染めて、レッサーパンダのように威嚇する。つまり……可愛いんだよなぁ……。
リスやレッサーパンダに変身する花火さんは、見ていて飽きないな。
つい、笑ってしまうと、余計に威嚇してくる。おっと、つい面白可愛くてね。
「ごめん、つい面白可愛くてね」
「かわ! えーい! いいから名前で呼ぶこと!! 分かりましたか!!!???」
「うん、わかったよ、向日葵先生」
「おん……よ、よろしい」
おん……く、面白い。たまにでるネット用語が面白い。
「僕も名前でいいから、これからよろしくね、ヒマワリ」
「うん! アキラ!」
いつもの花のような笑顔で、彼女は僕の名前を呼ぶ。うーん、何だか心が満たされるね。
「あ、いちゃつき終わった?」
「ユ、ユリ、そういうんじゃないから!」
「あらあら、ヒマワリちゃん、顔が真っ赤〜」
「余計なこと言わないで、サクラ!」
何だか少し気まずいので、男たちのもとに戻る。
「おう、アキラ。何の話で盛り上がってたんだ?」
「うーん……名前を呼ぼうって話かな?」
「それ、いいな! 俺も呼んでいいか聞いて来よっと!」
コウキは、俺も混ぜてくれーと、女子軍に突っ込んでいく。凄いぜ、コウキ。アンタ男だよ……。
「タイキは、いいの?」
「……俺はいい」
「大丈夫だよ、あの3人も僕達みたいに人を見た目で判断してない」
「それは、そうだろうな」
「そうそう。まぁ、なんとなく分かるか」
「ああ、アキラを見てれば分かるさ」
お、嬉しいこと言ってくれるね。たまにでるタイキの褒め言葉。寡黙なタイキから褒められるとまた違った嬉しさを感じられる。
「指標ってことかな、いいねそれ」
「ああ、いつも助かってる」
「それは良かったよ。まあ、お互いさまってことで」
「ふ、そうだな」
僕らが話してると後ろからパタパタと走る音が聞こえてきた。
「タイキくーん、タイキくんも名前で呼んでね〜?」
「……善処する」
「ふふ、うん、善処してね〜」
コウキも呼ぶなら、全員でってことになったんだろう。いいじゃない、いいじゃない。青春だー。
みんなと話しながら、ヒマワリ達の買い物に付き合いつつ、その後はゲーセン、バッセンで体を動かした。
それぞれがやりたいことをやったので、僕たちも満足した。明日は休みなので、このまま夜ご飯を食べることに。
コウキ曰く、学校から最寄りの駅前で、今日のクラス会をやっているそう。学校付近ならみんな定期内だから、そこにしたようだ。
鉢合わせると面倒なので、3駅離れたショッピングモールで、夕飯を頂くことにした。
タイキとコウキ、ユリとサクラは、ここが最寄り駅らしい。夕飯はヒマワリ達の勧めで、ケーキバイキングだ。
予約をしていたお陰で、6人で並んで入れた。ちなみにコウキが率先して予約していた。流石です。
「ケーキってたくさん食えねぇんだよな」
「甘いもの食べすぎると、途中で気持ち悪くなるよね」
「そうか?」
コウキは、食べ物、飲み物の甘いものが苦手。僕は好きだけど1つか2つでいい。タイキは甘いものも大好物だ。好き嫌いはなく、すべてが好きなんだって。
ヒマワリ達は、殆どが甘いものオンリーだった。……正直、見ているだけで胸焼けする。
「うん、映え!」
「これだけあると幸せ〜」
「ヒマワリとサクラ、取り過ぎじゃない?」
「えー、このくらい余裕だって! ね、サクラ!」
「もちろんです! タイキ君もいっぱい食べますね〜」
「……甘いものは好きだ」
「「ギャップ!」」
「……そうか?」
「うふふ、素敵だね~」
会話の中心になることが少ないタイキは、戸惑っている。なんだか、いつもと違う光景で、楽しい。
ユリは、コウキと僕を見て目を見開く。
「1回にそれだけ食事持ってくるとビビるわね」
「ちゃんと食べきるよ?」
「そうそう! 自分が食える量は分かってるからな!」
「タイキとコウキも凄い食べてたけど、アキラも本当に食べるんだね! ここにもギャップを発見! あれ、コウキは甘いの苦手って知ってるけど、アキラも甘いもの苦手?」
「僕は最後に1つか2つ食べるよ」
「へぇー、コウキ甘いの苦手なんだね。え、じゃあそのコーヒー砂糖入ってないの?」
コウキとユリは中学校からの知り合いらしいけど、食の好みまでは把握してないようだ。
バレンタインとか、コウキ大変そうだったのではと、疑問に思った。
「おう、入ってないぜ!」
「この3人、ギャップの宝庫だね!」
「ギャップ男子グループなのね~」
ギャップ男子グループ……。ラノベにありそうだ。
今度は6人で談笑しながら食べる。それにしても、イケメンコウキの前でも、しっかり食べるヒマワリ達は、好印象だなぁ。
いつもの癖で、観察してしまう。
流石に本人に、勘付かれないようにしてるけどね。食べてる姿見るのは失礼だし。
お皿を見れば分かるしね。そんな食べないなら、バイキングなんて来ないだろうし。
「う……どうしよう、これ以上食べたら……で」
「はい、ストップ。だから言ったのに、取り過ぎじゃないって?」
「可愛い食べ物を見るとつい取りたくなっちゃうの……バイキング現象だよー」
「ふふ、面白い現象〜」
お皿を見ると、食べかけのケーキが2種類。コウキはNG、タイキは人が食べたものは食べないだろうし、ユリとサクラは限界かな……。
残すのは食べ物に悪いしな。
「残すの勿体ないし、食べてもいい?」
「え……まだ食べるの、本当にすごい胃袋ね。勿体ないし、食べちゃって」
「ごめんねぇ……あきらぁ……あんまり甘くないから、アキラでも食べれると思う」
「胃袋が大きくて羨ましいわぁ〜」
「はは、じゃあ頂きます」
遠慮なく食べる。ビターチョコレートと、いちごのタルト。いちごのタルトは酸味が勝っているお陰で食べやすい。
ふと、視線を感じた方を見ると、顔を赤らめた人物と目が合う。でも、すぐ逸らされた。
あぁ、そういうことか。フォークは自分のを使ったけど、そういうことじゃないよなぁ。
少し反省しつつも、気にせず食べることにした。あんまり意識しても、申し訳ないし。
「ふふ、初心だね〜、ヒマワリちゃん」
「サクラ……、今は勘弁してぇ〜……」
「これからは気をつけなさい」
「ぁぃ」
「はは! おもろいなー、ヒマワリ」
「あまり言ってやるな」
「ぅぅ、好きにして」
机に突っ伏して倒れ込むヒマワリを見て、つい微笑んでしまった。
最後にちょっとした事件はあったけど、楽しい一日だった。
みんなで写真を撮ってから帰宅する。