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僕の大切な日々(1)全てが大切な思い出

 10月下旬 金木犀 


 文化祭が終わると、金木犀の香りがすることに気がついた。文化祭の準備で毎日忙しかったから、あんまり意識してなかった。秋を感じることができて、なんだか嬉しくなった。


 季節の中で秋が1番好きだ。少し涼しくて、時折冬を思わせる冷たい風を感じることができるから。


 君と一緒に下校している時だった。


「あ」

「どうしたの?」

「金木犀の香り! うち、この匂い大好きなんだ〜」

「わかる。僕もこの香りが好きなんだ」

「ふふ、一緒だね! 好きな香りが一緒なのも嬉しい!」


 満開の笑顔を見せる君の香りの方が、金木犀の香りなんかよりも、よっぽど好きだけどね。

そう心の中で呟く。言葉にすると気持ち悪いから、僕だけの秘密だ。


 ぎゅっと、僕の腕を掴んで密着してくるヒマリ。


 やっぱり秋はいいなって、そう思った。


11月中旬 人生初の短髪


 ようやく髪を切りに行った。


 イオリが勧めてくれた美容室の人は、元気で明るい人だった。

短髪にしたいと伝えると、いい感じに短く切ってくれた。少し寒かったけど、新鮮な感じがして良かった。


 朝もヒマリと一緒に登校するから、その時にぱぁっとヒマリの周りに花が咲く。

僕のそばまで走ってきて、少しにやけて笑う君。


「ふふ、短髪かっこいいね! メガネはつけてるんだね!」

「うん、学校では黒板見えなくなるから」

「ふふーん、いいね! じゃあ、はい!」

 

 ヒマリは僕に手を広げて見せてくる。

そういえば、髪を切ったらやりたいことがあるって言ってたな。


「うわー、手を繋いで登校するって新鮮だね!」

「そうだね、僕が目立ちたくないって言ってた頃じゃ、考えられないよ」

「ふふ、いかがですが、気分は?」

「なんというか、最高の気分だよ」


 僕がそういうと、ヒマリは最高の笑顔を見せてくれた。


「毎日一緒にこうして登校しようね!」

「うん、もちろん」

「やったー!」


 繋いでる手をブンブンと振って、嬉しそうに笑う君を見て、僕も嬉しくなった。


 学校につくと、少し事件が起こった。

ヒマリは校内で有名人だから、手を繋いでいる僕を見て、嫉妬の視線をぶつけてきたっけな。

まあ、そんな視線、今の僕には無意味だけどね。


 クラスに入っても、手を離さないヒマリに、僕は不思議に感じたことを覚えてるよ。


「ついたよ?」

「もうちょい、このままで……まったく、髪切ったアキがイケメンだからって、あんまり見ないでほしいよね」

「……それは、どっちかっていうと、男達の嫉妬の視線だったような」

「えー、違うよ! 女の子の視線もあった!! ……アキはヒマリのだもん」

「おふ」


 少し膨れるヒマリを見て、僕の心は歓喜してしまった。

彼女に嫉妬させたくて、女の子に絡みにいく馬鹿な男もいるって聞いたことあるけど、僕はそういう人種じゃないと思ってたのに。


 嫉妬するヒマリがあまりにも可愛かったから……本当に、本当に少しだけ、そいつらの気持ちが分かってしまったことに、少しだけショックを覚えたなー。

 ちなみに、登校中の僕たちを見たコウキ達は、朝から熱々だなといじってきた。

ヒマリはいいでしょと言って、場違いな満面の笑みを見せるものだから、みんなで笑い合ったね。

ヒマリだけは、不思議そうな顔してたけど。


 僕の彼女は、本当にとっても可愛い。



 

11月20日 風邪を引いた君


 季節はあっという間に過ぎ去り、気がつけば冬になっていた。

ヒマリ、君は珍しく風邪を引いていたね。みんなでお見舞いにいくと、いつもの明るい笑顔を見せてくれたけど、1人は寂しかったんじゃないかなと思った。

 

 ご両親は共働きらしく、夜まで帰ってこないと言っていたね。

みんなと一緒に帰ろうとして、ヒマリに制服を少し掴まれて止められたこと、今でも覚えてるよ。


 僕が残ると伝えると、イオリとコウキはニヤニヤしながら帰っていった。タイキは特になし。サクラとユリは少しだけホッとしてた気がした。2人とも両親が共働きだから、風邪を引いた時の寂しさを知っているのかもしれない。


 僕が1人になってから、ヒマリは、ありがとうと呟くと、一滴の雫を落としていたね。

僕がどうしたのと聞くと、君は悲しそうな顔で呟いたんだ。


「少しだけ怖かったの。次寝たら、起きれなくなるんじゃないかって」


 頼られて嬉しかった気持ちが少しと、恐怖に怯える彼女をみて、心が痛くなった。


 きっと、風邪を引いて、心も風邪を引いてしまったんだなと思った。僕はヒマリの髪を撫でながら、大丈夫だよと、励まし続けたんだ。


 僕が悪戯にキスをすると、ヒマリは少しびっくりした顔で僕を見たね。


「風邪……移しちゃうよ?」

「移していいよ。ヒマリの心が救われるなら、風邪なんて安いもんさ」

「……バカ……でも、ありがとう」

「素直な子は好きだよ。……大丈夫、ヒマリは大丈夫だよ。僕がそばにいるから」


 ヒマリの頬はいまだに赤い。熱のせいか、照れたせいか……たぶん、両方だと思った。

ちょんちょんと、僕の服の袖を引っ張るって呟く。


「……もう一回」

「お望みのままに、ヒマリ姫」


 もう一度キスをする。


 風邪を引いた時のキスも、海の味がした。


 

 この日を境に、ヒマリは待ち合わせによく遅れるようになったと、今になって気がついた。でも、今でも良かったのかもしれない。きっと、その時に気がついても、僕には何もできなかったんだから。

 


12月1日〜18日 勉強期間と期末テスト


 期末テストに追われる僕たち。というより、ヒマリとコウキ。

みんなで教え合って、期末テストを乗り越えた。


 カエデちゃんも、迫り来る受験の日に備えて、毎日受験勉強をしてるみたいだ。

そんなに難しい高校じゃないけど、勉強しておく癖をつけておくことが大事だって、すごい大人な発言をしていた。


 それを聞いたヒマリとコウキとイオリは、カエデちゃんを尊敬の眼差しで見ていた。

是非とも、3人には学んでほしいところである。


 といっても、みんな好きなことなら毎日できるタイプだし、勉強よりも好きなことの方が、うまくいきそうだなって、勝手に思ってたよ。


 ということで、期末テストを無事に終えて冬休みになった。



12月24日 クリスマスイブ。


 本来なら、彼氏彼女といった、恋人同士で遊ぶ日なんだろうけど、僕たちはタイキの家に転がり込んでいる。


 発端はイオリと、意外にもカエデちゃんで、クリスマスイブにみんなで集まりたいと言われた。僕たちは断る理由がなかったので、全員でオーケーの返事を出した。


 というわけで、みんなでクリスマスパーティー兼、全員のお誕生日会をするそうだ。


 今年は集まったのがバラバラだし、せっかくならみんなでお祝いしようという流れになって、クリスマスパーティーのついでにやることになったんだよね。


 誕生日会をしようと夏休み中になったんだけど、意外にもみんなの予定が合わなかったので、できていなかったんだ。もちろん、個々でお祝いはしたけどさ。


 誕生会をしようとなったきっかけも、よくわからないものだったよ。


 クリスマスといえばプレゼント、プレゼントといえば誕生日だそう。みんなが納得してるから、僕はとくに何も言わなかった。


 大勢で遊ぶってことを、今年になって初めてやるけど、これはこれで賑やかで楽しいんだよね。


 ということで、みんなでお昼からクリスマス会をしている。


 タイキのお母さんのカヤさんの料理や、それぞれの家族からも何品か料理が届いている。

流石に全ての料理を出してもらうのも申し訳ないと、全員の親御さんから言われたそうだ。


 もちろん、イオリの家からも届いてるよ。最近は、両親とも少しずつ仲良くなっているそうだ。なんでも、イオリが家族に謝ると、両親もひどいことを言ってごめんと、頭を下げたみたい。家族のことを少しだけ照れくさそうに笑って話すところを見て、すこしだけ涙腺が緩んだのは秘密。


 お昼とは思えないほど贅沢だなと、カヤさんは大きな声で笑っている。

数種類のサラダにポテトフライ、コーンスープ、チキン、ローストビーフ、といった豪華な面々だ。


 タイキの家族も集まって、すごく賑やかなクリスマスパーティになった。

やっぱり、大勢で食べるご飯は格別だなって思えた。


 ご飯を食べ終えたら、今度はプレゼント交換の時間。

プレゼントは、あみだくじで決めて、大はしゃぎしながら、クリスマス誕生会を過ごした。


 ……ちなみに、僕たち男どもは、全員が全員、男子高校生の夢が詰まった油系のお菓子&ジュースの詰め合わせだった。ヒマリ達からブーイングを覚悟したけど、ヒマリ達もヒマリ達で、女子の夢の甘いもの尽くしだったわけで。


 プレゼント交換なんてしたことないし、予算も決めてなかったから、何を買うか迷うに迷ってお菓子になったって、みんなで大きな声で笑い合った。


 結局、プレゼント交換という名の、お菓子パーティーに変更。

「メリークリスマス&誕生日おめでとう!!!」



 ジュースを開けて、みんなで乾杯し、好きなお菓子の食べ放題を楽しんだ。

お菓子と甘いものは別腹って勢いで、みんなでめちゃくちゃ食べて、話して、笑い合った。


 これはこれで、すごく面白かったので、またみんなでやろうと約束した。


 大切な思い出がまた増えて、嬉しかったことを、今でもよく覚えてる。


 

12月25日 ヒマリとクリスマスデート。


 ヒマリは待ち合わせに遅れてきた。遅れたと言っても、10分くらいだけど。

風邪を引いた頃から、遅れることが多くなって心配になったんだ。


 でも、君はいつも申し訳なさそうな笑顔で、言っていたね。


「楽しみすぎて、寝るの遅くなっちゃうの」


 僕の彼女は、素直な心を持っているから、その言葉が本心だって分かる。

だから、分からなかったんだ。いや、ヒマリも気がついてなかったんだよね、きっと。


 僕もその言葉を信じて、可愛い子だなって思って、君の言葉だけで心が満たされていたんだ。


 冬の君の格好は、もこもこしてて、抱きついたら柔らかそうだなって思ってたよ。

耳のピアスには、雪結晶のキラキラしたピアスをつけていたね。首元には僕が送ったネックレス。


 おしゃれさんな君は、デートの時は毎回違う格好をしてくれたよね。

色々な君を見れて嬉しかったし、その度に好きの度合いが上がっていくんだ。


「アキラ!」

「ん?」

「誕生日、おめでとう!」

「ありがとう、ヒマリ」

「ふふ、電話でも言ったけど、やっぱり直接言わないとね!」


 そう、実は今日、僕の誕生日。

今日の深夜0時に、ヒマリから電話で誕生日おめでとうって伝えてくれた。

 

 僕は寝ぼけながら、ありがとうと返したと思うんだけど、実際のところどうだったんだろう?


「はい、これプレゼント!」

「ありがとう。開けてもいい?」

「もちろん!」

「ネックレスだ」

「ふふ、お互いに送り合ったネックレスつけるのって、すっごくいいなって思って。う、嬉しいかな?」


 はは、なんでそこで不安げなのさと、僕は心で笑ってしまう。

ちょっと、キョドってしまうところも、可愛いなと思っていたよ。


「もちろん嬉しよ」

「よかったー……実はね、バイトして買ったの!」

「バイトしたの?」

「うん!」


 ヒマリもこの日のために、わざわざバイトをしてくれたみたい。家でできる動画編集って言ってた。ヒマリのお母さんの仕事は、ネット関係らしいとこの時初めて知った。


 クリスマスプレゼントは、お小遣いじゃなくて、僕と同じく自分で稼いだお金で買いたかったんだって。


「やっぱり誕生日プレゼントは、稼いだお金で買いたかったから!」

「……嬉しいよ、ヒマリありがとう」

「ふふ、アキラの真似して正解だね!」


 本当に、可愛いことを言ってくれるなって思ったし、その心遣いが、僕の心をポカポカさせたんだ。


 さっそくネックレスをつけてもらう。ネックレスについている石は誕生石のラピスラズリ。

控えめなデザインだから、どんな格好でも合うと思うよって、助言もしてくれ助かったよ。


「たとえ合わなくても、毎日つけるけどね」

「ふふ、うちも毎日つけてるよ!」

 

 会話を切り終えて、クリスマスデートに出かけたね。

 

 僕たちは、電車で都会まで移動して、イルミネーションを見に行ったんだよね。


 都会ならではの、様々なイルミネーションに感動しつつ、たくさん写真を撮ったね。


 今でもよく見ちゃうんだよ。君の笑顔があまりにも輝いてて、見てると癒されるんだ。


 

写真の中には、木々に飾られている赤、青、黄色、緑のイルミネーション、ハートマークや、星型の光、そして大きなクリスマスツリー。


 たくさんの光に照らされながら、キラキラと眩しい笑顔で楽しんでるヒマリの姿。

人混みはそこまで得意じゃないけど、一緒にこれて良かったなって心から思えたよ。


 クリスマスマーケットもやってるみたいで、クリスマスにちなんだ色々な物が売られていたね。

クリスマスツリーと、煌めく星々が入ったスノードームを欲しがってたから、君にプレゼントすると、満開の笑顔を見せてくれた。君になら、なんでも買ってあげたくなるというと、君は困った笑顔でそれは申し訳ないなーって言ってたね。


 そういう遠慮がちなところも、僕は好きなんだよ。


 クリスマスプレゼントは、ペアルックの指輪を半分こずつだして買ったよね。自分たちの誕生石が入った指輪を。



「高校生なのに、気が早いかな?」

「でも、いいと思うよ。せっかくのクリスマスだしさ」

「ふふ、そうだよね! ねえ、つけてくれますか?」

「もちろん」


 君が差し出した右手の薬指に指輪をはめる。ヒマリも、僕の右手の薬指に指輪をはめてくれたね。


 左じゃなくていいのと聞いた時、君は照れながら言ってくれたね。


「それは未来の楽しみに取っておくんだよ!」

「そっか」

「うん!」


 僕はその言葉に、感動したんだ。暗い未来を想像してしまう君が、明るい未来を考えていてくれたことに。


 僕の言葉を信じてくれた君を見て、僕は少しだけ泣きそうになってしまったんだよ。


 プレゼントを買い終えたら、クリスマスツリーの前で、お互いに右手を出しながら、写真を撮ったよね。

実をいうと、その写真、僕のスマホの待ち受けになってるんだよ? 君は知っていたのかな。


 今となっては、その答えも分からない。でも、君のスマホの待ち受けも、僕と同じ写真だったと知った時、同じ気持ちだったのかなって、心がポカポカ温かくなって満たされた気持ちになった。


 目を細めて最高の笑顔で写った君の顔が、記憶に焼きついて忘れられそうにない。


 写真を撮り終えて、ちょっと高めのディナーに行ったね。少しドキドキしながらも、料理が運ばれてきてから、いつも通りのヒマリに戻ったから、僕もいつも通りの僕で、食事を楽しむことができたよ。


 帰り道、電車に揺られながら寝ているヒマリと過ごした時間も、駅に着いて手を繋いで歩きながら帰った時間も、家の前で立ち止まって長話した時間も、お別れのキスも、全てが僕の大切な思い出だよ。


 僕にとって、全てが大切な思い出なんだよ。


 君の笑顔も、君の仕草も、君の声も、何もかも。


 この記憶があれば僕は大丈夫だから。


 ヒマリ、君と君達との思い出だけあれば、僕はこの先、1人でだって生きていけるんだ。


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