文化祭2日目と事件
文化祭2日目。
今日は一般公開で、朝から僕らのクラスは大盛況だった。
昨日の反省を生かして、待っているお客さんに整理券を渡したりして、廊下に列を作らず、他の出し物も楽しんでもらえるように工夫した。
午前中に、さっそくカエデちゃんとメグムさんが来てくれた。タイキから集まって欲しいと連絡が入ったので、みんなで集まって、昨日買ったお面をつけて集合写真を撮った。写真を撮ってくれたのはメグムさんで、なんだか申し訳ないなと思ってしまいながらも、結局頼んでしまったけどね。
「来年も、みなさん絶対、一緒に写真撮ってくださいね!!」
「もちろんだよー!!」
それから、カエデちゃんはみんなとツーショット写真を撮って、タイキとイオリとサクラに接客してもらってから、満足げに帰って行ったそうだ。
カエデちゃんと写真を撮った僕とヒマリ、コウキとユリは、行動を共にしていた。僕らの出番は午後からなので、今は宣伝の時間なんだ。
そうそう、ユリとコウキに、特にぎこちない様子もなかったので、解決したのかなと、一安心した。
まあ、喧嘩してたわけじゃないけど、やっぱり少し気まずい空気にはなると思ってたからさ。
問題ないなら、それに越したことはないよね。
僕らは自分たちの出番になるまで、文化祭の出し物を楽しんだ。
午後になって、僕らはクラスの人たちと入れ替わる。
コウキは片手が使えないけど、片手で器用に仕事をしつつ、お客さん達を楽しませていた。
本当になんでもできるやつだなって、尊敬する。
僕らも自分たちの仕事をこなしつつ、問題なく業務を遂行していた。
そろそろ、次の人たちの出番かなと、交代を待っていると、なにやら外が騒がしい。
ヒマリが僕のいる裏に回ってきたので、話を聞くことに。
「ヒマリ、何かあったの?」
「なんか、この高校の卒業生が来たらしいんだけど、無理やり席に通せって言うこと聞いてくれないの」
「今、誰が対応してるの?」
「コウキだよ。なんか、やばそうだからって」
この高校、最近は評判いいけど、前まで結構荒れていたらしい。問題が起きてから、理事長と校長先生が一度に変わって、いい雰囲気の高校になったらしいけど……。その時代の人たちなのかな。
僕が表に出ようと思った時、小さな悲鳴が聞こえてきた。
急いで表に出ると、少し荒れた席と、やばい奴と話をしていたはずのコウキが、後ろに下がっていた。
「怪我してるくせに調子に乗んなよ、ガキ。席が空いてんだから、入れろって言っただけだろ?」
「ちょっと、ふざけないで! 整理券があるんだから、それを受け取って待ってって言ったじゃない!! なんで、手を怪我してる彼を突き飛ばしたの? 本当に信じられない。それが常識のある大人のすることなの!?」
いつも冷静なはずのユリが、コウキを守るように前に出て、文句を言っている。ユリの言っていることは正しいけど、この状況はまずい。
「おい、女。ピーピーうるせーんだよ……女だろうと容赦しねぇんだよ、俺は」
「ちょっと先輩、流石にまずいですよ」
「うるせえな、テメェ、俺の言うことが聞けねぇのか?」
「いや、それは……」
どうやら多少ましなやつもいるようで、時間が稼げた。
僕はその隙を使って、クラスメイトにこの状況を録画するように伝えた。もう1人には、クラスのグループラインで、先生にこのことを伝えて欲しいとも。彼らは頷いて、僕の指示に従ってくれた。
「アキ?」
ヒマリが震えた声で僕の名前を呼ぶけど、今は反応してられない。
相手はなんでもお構いなしの人間だ。ヒマリに飛び火されたら僕は……冷静じゃいられなくなる。
話が終わったのか、ユリに近づこうとする。
普通の場面なら、コウキが出ていくだろうけど、拳を怪我してる状態なのはまずい。それに、突き飛ばされた際、どこかに手をぶつけたのだろう。顔が痛みで歪んでいる。
モヤっとした苛立ちが、瞬間的に爆発して、心臓が強く早く動いている気がした。
クレーマーとかもそうだけどさ、難癖つけてくる大人って……気持ち悪よね、本当に。
僕は顔の横につけっぱなしだったお面を被ってから、そいつの前に出た。
「お客様、すでに他のお客様のご迷惑になっておりますので、おかえりください」
「あ? んだ、てめぇ?」
よし、僕に矛先が向いた。
コウキがユリとヒマリの元に駆け寄って、2人を守ってくれたことも確認した。
僕は、安堵の息を吐いてから、男と対峙する。
すっと、馬鹿に近付いて、小声で話す。
「聞こえなかったのか、老害? 他の人の邪魔になってるから、帰れって言ってんだよ、チビ」
「てめぇ!」
一発目を避けて、後ろに下がる。
それでも追いかけてくると思ったので、ドアの前に立って待ち受ける。
廊下の人たちは、カメラを僕らに突きつけている。
今の時代、スマホは銃で、カメラは銃口、動画や写真は弾丸だよ。
「このガキ!!」
はは、馬鹿なやつ。
お前は、自分の馬鹿な行いのせいで、社会的に終わることになるんだよ?
本当に、ざまぁだね。
あと、そこ使うから……危ないよ、野次馬さんたち。
「死ねや!!」
お前がな。
自ら引き金を引いた愚かな男。
パン!!
脳内で銃声が聞こえた。さよなら、愚かな男。
その男が振りかぶった拳を、僕はわざと顔に受けて、廊下へと派手に吹き飛んだ。
威力を殺しながら吹き飛んだから、たぶん男も違和感を感じてるはずだ。
まあ、興奮してそれどころじゃないかもしれないけどさ。
廊下中に大きな悲鳴が響いたと同時に、先生達の声が聞こえてきた。
1人の先生が僕に近付いてきて、大丈夫かと声をかけたところで、飄々と立ち上がった。
その隣で、先生達から、男達は逃げようとしたけど、ガタイのいい運動部の顧問と体育教師に捕まっていた。大声で何か叫んでいるけど、知ったこっちゃない。
「な!? 狼太、大丈夫なのか!?」
「あ、山内先生。僕は大丈夫ですよ、この通り」
「いや……でも前回みたいなことがあるし」
ああ、そういえば、イオリの時も山内先生だったな。
怪我した生徒のところに一番乗りに来てくれたから、本当にいい人なんだろうなって、改めて思った。
「ああ、今回は本当に大丈夫です。自分から当たりに行ったので」
目を点にさせて、山内先生はため息をついた後、喋り出す。
「……お前なぁ、あまり無茶はするな」
「はい、努力します」
「……意外と問題児だったんだな、狼太は。月曜日、俺のところに状況説明しにこいよ、分かったか?」
「それなら、田中君から動画をもらってください。証拠ですよ。 僕、このあとクラス戻りたいんですけど、駄目ですか?」
呆れて言葉も出ない山内先生は、またため息をついた。
「……抜け目ないやつだな。とりあえず動画は貰っておくけど……。今戻ることはいいが、あとで病院と絶対に月曜日職員室くるように!! 分かったな!?」
「……はい」
「うし、他の先生達には、殴られた人は、すぐに連れの人と一緒に、病院に向かったことにしておくから、いいな」
「ありがとうございます」
「うん、お礼を言えるやつはいいやつだぞ。ほら、心配したクラスメイトがいるだろうから、戻ってやれ」
「はい」
「と、その前に、これ俺の連絡先な」
「え、どうして?」
「一応、なんかあったら、俺に連絡しろってことだ。まあ、使うことがないように祈ってるがな」
「……お手数おかけします」
「はいはい、ほら、もういってやれ」
「はい」
僕はヒマリ達の元に向かう。
すると、コウキが横から全速力で、どこかに向かってしまう。
「コウキ?」
「ちょっと、アキラ! あんた大丈夫なの!?」
「ああ、ユリ。僕は大丈夫だけど、ユリも平気?」
「私は平気よ……助けてくれて、ありがとう」
「こちらこそ、ヒマリの隣にいてくれてありがとうね。ヒマリ、大丈夫?」
泣きそうなユリと、たぶん泣いてるヒマリ。下を向いてて判断が難しいけど、手で何かを拭う仕草をしてるから、そうだと思う。
僕はヒマリの頭に触れる。
「ヒマリ?」
「……んで」
「え?」
ヒマリは僕の手を振り払って、顔をあげる。
その表情は、間違いなく怒っていた。怖がっていると予想したけど、外れていた。
怒りながら、泣いている。どうしてか原因がまったく分からなかった。
「なんで、また自分が犠牲になるようなことしたの!? 本当に殴られる必要はあったの!?」
「……ごめん」
「ヒマリ、体育祭の時に言ったよね? アキラが犠牲になるのは嫌だって!! 約束したよね?」
正確には、僕は約束をしていない。
体育祭の時、僕は約束せずに、話を逸らしたから。
あの時の罪が、罰となって帰ってきた。
好きな人を泣かせたという罰が。
僕は答えられずに黙ってしまう。
ヒマリは、大粒の涙を流しているのに、君を慰めることも、今の僕にはできなかった。
「なんで、黙るの? アキラは約束を守れない人なの?」
「僕は……」
「もう……もう知らない! アキラの嘘つき!!」
「ヒマリ!」
追いかけようとした足が止まる。
馬鹿な男と対峙する時は、簡単に足が動いたっていうのに……大切な人を傷つけて涙を流させたことがショックだった。
僕は大切な人のために動けない情けない男だ。
「アキラ、何があった」
「タイキ……僕は……」
連絡を受けたタイキが戻ってきた。その隣にはサクラがいなかった。
黙る僕に、タイキの方から話し出す。
「ヒマワリが走って出て行ったところをサクラが追いかけて行った。何があったかは後でいい。それよりも、大丈夫かアキラ」
「僕は……大切な人を……泣かせてしまった。今の僕に、彼女を追いかけることが……」
「そうか」
情けないことに……体が動かないんだ。
「……アキラ、ヒマワリのことは、一旦私たちに任せてくれないかしら?」
「ユリ」
ユリは冷静になったのか、潤んでいた瞳が、元に戻っていた。
「多分、今あってもお互い冷静に話せないだろうし。それに、私もあなたの気持ちわかるのよ。……コウキを追いかけることができなかったのが、その証拠」
そっか……。ユリも、コウキに何か思うところがあるんだな。
僕よりも早く立ち直ったユリが、すごくかっこよくて、眩しく見えた。
「……ユリ。ごめん、ヒマリのことお願いしていい?」
「もちろんよ。アキラには、コウキのこと任せていいかしら」
「うん、分かった」
お互いにお願いしあう。
異性の友達に頼ることになるのは、申し訳ないけど、今はこれが最善だと思う。
「おいおい、ひでぇなこりゃ」
今度はイオリが帰ってきた。
「イオリとタイキには悪いんだけど、教室のこと任せていいかしら?」
「なんか、わかんねぇけど、任せとけ!」
「……わかった。俺も何が起きたか分からないから、場を収めよう。アキラ、コウキのこと任せたぞ」
イオリはユリのお願いを快く受け入れてくれた。
タイキも、本当は追いかけたいはずなのに、僕に任せてくれた。
本当に、いい友達に恵まれた。
「うん、ありがとう、タイキ。イオリも、あとのこと任せたよ」
「あいよ」
「ユリ、じゃあ申し訳ないけど、ヒマリのことお願いね」
「ええ。アキラも、コウキのことお願いね」
「うん。 あ、そうだ。僕から電話かかってきたら、出るだけ出てね」
「? 分かった」
僕たちは、自分達にできることをするために、動き出した。
コウキが行くところか……。検討は何個かあるけど、確証が欲しい。
僕は自分の格好を見て、これを頼りにすればいいと考えついた。
執事服を着てる人なんて、僕らくらいだろうから。
僕は人に尋ねながら、コウキを探しに行く。
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