遊び
さて、今日も平和に学校の授業が終わった。ホームルームも終わり、3人で帰ろうとした途端、大きな声でクラスの中心人物が言った。
「親睦会やろーぜー! 水精達は、強制参加な!」
「えー、ちょっと厳しいかな、なんて」
「えー、なんでだよ、行こうぜー!」
「あはは……」
ぐいぐい来るクラスメイトに若干引き攣りながら笑う水精さん。可哀想だけど、僕が入っても面倒なことになると思ったので、特に触れることはしない。僕とタイキは、早々に帰ることに。
水精さんが帰る僕たちにさっきまでとは違う、普通の笑顔で挨拶してくれた。
「ばいばーい、狼太君、牛山君、また明日ね~!」
「ばいばい、水精さん、野々花さんと鷹花さんも、じゃあね」
「さいなら」
「じゃあね、二人とも」
「ふふ、さいなら〜」
水精さん達は、僕たちにも挨拶をしてくれる。苗字を呼ぶ、呼ばないの差はあるけど、僕たちのことは、必ず苗字付きで挨拶してくれる。
きっと、彼女のこだわりだろう。僕たちは何もしてないけど、彼女のお気に召す行動ができていたのかもしれない。だとしたら嬉しいね、可愛い水精さんに認識されて。
中心人物君が、僕たちを睨んでつまらなそうな顔をする。
「なあー、あんな協調性のないやつらなんかいいから、クラス会行こうぜ!」
わざわざ聞こえる声で言うって、どういう神経してるんだか。まあ、何も言わず帰る僕たちにも非はあるけどね。
「水精さん達、あんなに言われてるんだから、頷けばいいのにね」
「調子に乗ってるんじゃない?」
「まあ、でも花の名前だし、あの3人もいつか、ね?」
「もー、最低!」
遠くのはずなのに。女子たちの声が聞こえる。嫌だ嫌だ。聞きたくなかったよ。
ゲラゲラと醜い笑い声を聞きたくなかった僕は、タイキとの会話に集中した。
いつもはここにコウキがいるから、こう言った話は聞かないで済む。だから、本当はコウキとも帰りたかったけど、コウキは交友関係が広いから強制参加だろうなと、声をかけずにクラスを出た。
「おい! 置いてくなって!」
コウキが少し拗ねながら声をかけてきたことに、驚きながら振り向く僕たち。
「行かないの?」「行かないのか」
ほら、驚きすぎてハモっちゃったよ。
僕らがキレイにハモった事で、拗ねることを忘れて笑い出すコウキ。
「え、だって2人来ないじゃーん。絶対つまんねぇし、行かねー! それに、俺の友達を悪く言うやつは、俺の友達じゃねぇ!」
前も同じこと言ってたなーと、思わず笑う。
「物好きだな、コウキ」
「あぁ、物好きだ」
「うるせーぞ、お前らー!」
ケタケタ笑う彼は、いつも楽しそうだ。まあ、僕たちも楽しいけどね。
コウキはハッとした顔のあと、眩しい笑顔を向けてくる。なにやら名案が浮かんだようだ。
「つか、俺たちは祝勝会やろーぜ!」
「祝勝会?」
「あー、わかったよ。また同じクラスになったからでしょ」
指パッチンした手とウィンクで僕たちを見るコウキ。
「正解だ、アキラ!」
「やるか」
「やろやろー」
「よっしゃー、二人とも最高じゃーん!」
ちゃっちゃか予定を決めて、それぞれ家に帰る。
僕は学校の反対側に家があるけど、2人は3駅離れたところが最寄だ。
さて、明日が楽しみになってきたな。せっかくだし、思う存分食べ尽くそう。
ということで、約束した休日になりました。
予定が決まってると、その日が早くきてくれるから嬉しいね。
うまいピザを食べたいってことになったので、都会風の駅に集まることに。都会風っていうのはね、少し栄えた駅のことだよ。本物の大都会に行くには、僕とタイキのメンタルが少し足りない。人混みが苦手なんだよね、僕たち。たまには、コウキに合わせて大都会に行こうと2人で話し合ってるところだ。
駅に着いて、キョロキョロ辺りを見渡すと、頭ひとつ分抜け出てる人を発見!
タイキは大きいから、すぐに分かる。あと、周りに人が寄らない。ありがとう、タイキ。僕たちはズッ友だ。
「おはようタイキ。お待たせ」
「うす」
タイキは淡い緑色のシャツを腕まくりして、立派な腕を見せている。それに白いズボンを履いている。オシャレだな。うむ、すごくカッコいい。
僕は基本的に黒い服がメインだから、オシャレとは程遠い。
「ごめんごめん、遅れた!」
少し遅れて、コウキも登場。コウキは、かなりラフな格好だ。大きめのTシャツと、緩めのズボン。それでも、イケメンの彼が着ていると、何でも似合う。カッコいい。
「トレーニング後でしょ?毎日お疲れ様」
「まあな! 体鍛えるの好きだし!」
「いいことだ」
「だろ?」
僕は鍛えることとは無縁なので、筋肉はありません。悲しい。
コウキは爽やかな笑顔を見せてから、んじゃ行こうぜと、案内してくれる。お店を見つけたのもコウキだから、案内もしてくれる。さすがコウキさん、一生ついていきます。
歩いてから数分、タイキが立ち止まる。
「あれ」
タイキの視線の先に誰かいるらしい。
「お、あれって野々花達じゃん! 男と一緒かー……って、あれナンパされてね?」
「え、そうなの?」
「恐らく」
二人とも目がいいな。僕は目が悪いからよく見えない。休日は裸眼でも問題ないから、今日はつけてない。学校では黒板の文字が見えないからつけてるんだけど。
「助けに行こうぜ! 流石にほっとけないだろ?」
「おう」
「そうだね」
反対側の道にむかって猛ダッシュする2人。
コウキ、タイキ、少し遅れて僕の順番で向かう。ふ、2人とも足早すぎ……。
ダメだ。僕には無理。ちらちらと周りを見る。お、運がいい。後で駆けつけよう。
「行かないって言ってるでしょ? 私達高校生よ。子供に興奮しないでほしいんですけど!」
「あぁ? 下手に出てりゃいい気になりやがって
「もう、無理やり連れてこうぜ」
「いいねぇ」
「触るな、ゲス共」
「気持ち悪いですー」
あらあら、なかなか派手にやってるな……。離れてても聞こえる。3人とも、結構言うな……あんまり刺激しちゃ良くないよ。
「おい! おっさん達、俺たちの同級生から離れろよ! 嫌がってるだろ?」
「んだてめぇら、邪魔すんじゃねぇよ!」
「ひっ、んだあいつめっちゃデケェ……」
「コウキ!」
「牛山さん!」
水精さん達と男の間に立つ二人。正義の味方みたいで、かっこいい。
「はっ、んだよ。同級生ってなら、ガキだろ! なら、少し痛い目見てもらおうか!」
「お前ら、何してんだ!」
「げ、警察だ。逃げるぞ!」
「こら、待て!」
ふぅ、たまたま警察がいてくれて助かった。
「2人とも、足、早いね……」
「はは、鍛えてっからな! つか、助かったよアキラ」
「運が、よかった、だけだから、気にしないで」
全力で走って追いかけたからしんどい……。
「ちょっと、ごめんね。話だけ聞かせてくれる?」
事情を簡潔に話したら、すぐに開放された。一人は女性警官だったので、水精さん達に優しくしていた。
2人は、軽く叱られてた。無理はしないようにと。僕もそう思う。
僕はお咎めなしだ。むしろ褒められた。ナイス判断僕。2人に追いつけなかっただけだけど。
「狼太君、ありがとうね。助かったよー!」
おお、水精さん良く僕って分かったな。学校ではメガネだし、髪も目にかかるくらい前髪下げてるのに。
それにしても、なんだか懐かしさを感じる笑顔だ。小中学校時代にこんな笑顔見たことなんてないはずだけどな〜。
不思議に思いながら、僕は水精さんに微笑んだ。
「いや、たまたまだから。割って入った二人の方が凄いよ。水精さん達に怪我がなくてよかった」
「あ、ありがとぅ」
少し頬を染める彼女はとても可愛い。
野々花さんと、鷹花さんは二人にお礼を言ってる。
コウキは笑顔で、タイキは少し照れてる。人に感謝されることが少ないと言ってたから、嬉し照れくさいんだなタイキは。初心なやつだぜ。
「んじゃ、俺たちはピザ食いに行かなきゃだから! 今度こそ気をつけろよ! 3人とも可愛いんだからよ」
うわぉ、さすがイケメン。そんな簡単に可愛いって言えるなんて、イケメンだ。
「あ、あの……私達も一緒に行っていい? その……ちょっとまだ怖くて」
水精さんの手は少し震えていた。そりゃ怖いよなー、自分たちより背の高い男に言い寄られたら。
タイキをチラッと確認する。
タイキは人が苦手だ。というより、怖がられて雰囲気を壊すことを嫌ってる。誰だって嫌だろうけど、彼の場合は雰囲気が強そうだからね。みんな少し怯えちゃうらしい。
僕は見た目で判断しないし、コウキは人懐っこいからね。遠慮なくタイキに、色々言える関係だ。
タイキは、僕のことを見て頷く。
どうやら、問題ないみたい。まぁ、3人からしたら、2人はヒーローだもんね。
「じゃあ、一緒に行こうか。というか水精さん達、クラス会は?」
「あー、私が行きたくないって言ったら、ユリが3人で遊ぶ予定だったから無理って断ってくれたの! その時は嘘だったけど本当にしちゃえば嘘ついたことにならないから、遊ぶことになったんだ!」
「へー、そうなんだ」
「そうなんだよ!」
意外、とは思わない。水精さんにはこだわりがある。僕と似たような感じだと思ってる。
人の悪口を言う人に、近づかない。
そんなところだと思う。きっと、僕とタイキが、無視して帰ったのが気に食わないんだろう。タイキの悪口を言ったやつの歓迎会なんて死んでも行くわけないのにね、アホらしい。
コウキが嬉しそうに手をあげた。
「おー、いいじゃん! 6人で行こうぜ!」
「うふふ、楽しみですね〜。大人数のお食事は初めてです〜」
「それもそうね、よろしくねコウキ達」
「任せとけってー!」
「うす」
ということで、6人でピザに。
最後尾で歩いていると、水精さんが近寄ってくる。
「ごめんね、狼太くん、無理言って」
両手を合わせて謝る彼女は、なんだか新鮮だ。
そんな落ち込まれるとこっちが悪いことした気分になるからやめてほしい。
「本当に気にしてないから。それにしても、災難だったね……メンタル大丈夫?」
「あぁ、よくあるから平気だよ! 今回は上手くいかなくて焦ったけど!助けに来てくれて本当に助かったよー、ありがと!」
「そっか、助けになったら良かったよ。まぁ、僕はあまり何もしてないけど」
「そ、そんなこないよ!」
おふ、そんなに目を輝かせて近付かれると、心臓に悪いです。
「落ち着いて、水精さん」
「!! ゴメガメゴメンゴ!!」
「はは、焦りすぎ。モンスターの名前みたいな謝り方だね」
「あ、あんまり、笑わないでよー!でも、本当にあそこで警察呼んだのは正しい、正解、大正解!」
「そこまで言うなら、どういたしまして」
ウンウンと頷く彼女は、満足気だ。
それにしても、キャップを被ってても、可愛いんだからすごいなぁ。今日はボーイッシュな感じかな?
「その格好、似合ってていいね」
「あ、ありがと……と、狼太君は、き、今日は眼鏡じゃないんだね? それに、髪の毛あげてるし」
「あぁ、眼鏡は学校の時だけかけてるんだ。黒板の文字が見えなくね」
「そ、そうなんだ。髪を上げてるのは?」
「学校の人と会っても分からないでしょ? まあ、水精さんにはバレちゃったけど」
「そ、そうなんだー、確かに誰か分からない人多いと思う! うちはすぐわかったけどね!
それにしても、狼太くんギャップもりもりだね!」
ギャップもりもりか。面白いワードだなー。
興奮する水精さんに、少し悪戯したくなってしまう。
「萌えるでしょ、なんてね」
自分なりの最大限の微笑みをぶつけてみる。
「おふ」
少し顔を染めながら、面白い声をだす水精さんに笑ってしまった。
「ははは、変な声」
「ちょっとー、そんなに笑わないでよ!!」
「ごめんごめん」
他愛のない会話をしてると、ようやくお目当てのお店についた。
お昼時だったので、結構混んでるし、急に6人だから、それなりに待つかなーと思ったけど、そうでもないようだ。
「お席がバラバラになってしまうんですけど、それでもよろしければ5分後には入れます」
「じゃあ、それで大丈夫です!」
「ありがとうございます」
そしたら男女に分かれれば、と言おうとしたときだった。
「せっかくだし、ごちゃ混ぜで座ろうぜー!男女でグッパーな!」
「え、普通に男女別でいいんじゃない?」
つい、僕はいつも通り突っ込んでしまった。
「いや、ここはせっかくだし、ごちゃ混ぜにしよ!」
すると、水精さんが、コウキの意見に同意してきた。
「ふふふ、わたしはどっちでもいいよ〜」
「私も」
「同意」
まぁ、皆がいいならいっか。タイキも問題ないみたいだし。
という事でグッパーで決めることに。