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バイト先と夢の話

 夏休みも終わりが近くなってきた。今日はみんながバイト先にくる日だ。


 少しだけ緊張している自分がいて、なんだかバイトを始めた頃のことを思い出して、苦笑してしまう。

あの頃は失敗ばかりだったからなぁ。本当に、いい人たちが集まった店でよかった。


 そんなことを思い出しながらバイクを走らせる。


 バイト先につくと、店長が嬉しそうに僕の顔を見て、今日だなといった。

僕も少し笑ってから、はいと言った。


 13時20分、お昼のラストオーダー10分前にみんなが来店する予定だ。店長がそこでいいと言ってくれた。

そこじゃないと、みんなの相手できないだろって。本当に人がいいんだから、店長は。


 14時30分には、お店がお昼休憩と仕込みのために、17時まで閉まる。わざわざ、ラストオーダー直前って、本当にいいのか聞いたけど、夜じゃないからいいって。夜は帰りが遅くなるから嫌だけど、お昼は問題ないとのこと。


 事前にメニューを渡しておいて、みんなが食べたい料理を先に聞いて店長に伝えたから、在庫も一度に減るわけじゃないし、売り上げも上がるからありがたいって、逆に感謝されたくらいだ。僕の周りは、心の広い大人が多いと実感する。


 予約していた時間にみんなが来店してきたことを、南さんが伝えてくれた。

もうそんな時間か、忙しいから気がつかなかった。


 急いでみんなが食べたい料理を次々作っていく。というか、ピザ4枚と1人ずつパスタ頼むって、僕が言うのもなんだけど、結構食べるね。


 僕は入り口が見えるピザ窯の前でピザを焼いているから、入り口でお客さんがきたら、大抵は気がつく。

エントランスの人が対応できない時は、僕が声をかけないといけないからね。

 

 でも、忙しすぎるとそこまで見る余裕がなかったりする。僕もまだまだである。


「特等席に案内しておいたよ」

「さすが、ミナミ! ほう、美男美女ばっかりだな! アキラの友達!」

「顔だけじゃなくて、性格もいいんですよ」

「はは、だろうな! おまえさんが選んだ子達だからな! 俺の店、紹介してくれてもいいんだぜ?」

「みんな辞めないから、雇えないじゃないですか」

「はは、違いねぇ! まあ、来年就職のやつらもいるし、その時にでもよ」

「来年はみんな、受験生ですよ」

「そうだったな!」


 店長と会話をしながらも、ピザを焼き続けている。最初はなれなかったけど、ながら作業もお手のものになってきた。


 ちらっとみんなの方を向くと、みんなが笑顔で僕に手を振ってくれた。

僕も小さくみんなに手を振り返すと、バイト先の人達が僕を揶揄いに来た。


 結局、ミナミさんにバラされる前に、僕が白状してしまった。

いつもと雰囲気が違うから、絶対そうだと思ったって言われた……昔の僕っていったい。


 ヒマリの特徴を伝えると、可愛いやら、意外やら、大切にしろよとやら、色々言われた。

確かに、僕に春が来たなんて意外だよなって自分でも思う。


 ある程度揶揄い終わると、みんなが仕事に戻った。。


 ホールの人が、飲み物の注文を聞いている。飲み物は店長がサービスしてくれた。神なのか店長。


 他の料理を作り終わった僕に、最後の一枚は、僕がみんなのところに持って行けって言われた。

まあ、確かに。せっかく来てもらったんだから挨拶しないと。


「お待たせしました、ビスマルクピッツァです」

「わぁ……キッチンコート姿萌える……。」

「惚気てる、惚気てる」

「ちょっと、ユリ!」

「すごいね〜、ピザ焼いてるの〜」

「それにすごく美味しいです! アキラさん、天才です!」

「うん、美味しいよ! わあ、これも可愛い」


 ピッツァに可愛いとは? まあ、女子の感性は無限大だし気にしないでおこう。


「ここのピッツァは最高だ」

「違いねぇ! 最高にうまいぜ、ここ!」

「アキラが焼いてるから余計にうまい!」


 タイキとイオリとコウキが褒めてくれた。コウキの方をちらっと見ると、僕は唖然とした。


「……どうしたの?」

「はは……やっぱ気になるよな。まあ、やっちった。」


 コウキの利き手は、包帯でぐるぐる巻きにされていた。

気まずそうにするコウキが、無理やり笑顔を作ってあとで話すと言ってきた。


 自分のせいで空気が重くなったと思ったコウキが明るく喋り出す。


「おい、みんなも落ち込むなよ! いいやつかよ、みんな! せっかくアキラが作ってくれたんだから、美味しくいただこうぜ!」

「そうそう、コウキのこと心配しても無駄だし、ピザが冷めるだけだぜ?」

「おい、イオリ言いすぎじゃね!?」

「ふ、分かった。あとで話聞くよ」

「ああ」


 イオリのおかげで場が和んだ。ズバズバいう性格のイオリに救われたな。


 僕はみんなに料理を届けてから、店長に許可をもらって少しだけ談笑させてもらった。

みんなが僕の作った料理を食べて、美味しいと笑うみんなの顔を見ると、すごく幸せな気持ちになった。


 料理っていいなって、この時改めて思ったよ。


 軽く締め作業に入り、店長にお礼と上がることを伝えてから、外にいるみんなと合流した。


「これから何処いくの?」

「俺の家だ」


 またタイキの家にお世話になるのか。少しだけ気が引けるけど、タイキの家がいいならいいのかな?


「いつも悪いわね」

「本当に、たまには違うところ行く?」

「いや、本当にいいんだ、母さんも喜ぶ。それに、そろそろ迎えに来る」

「本当にいい人だよな、タイキの母さん」

「そうだね〜、ありがとう、タイキ君」

「ああ」

「じゃあ、僕は後から合流しようかな。バイクで来てるし」

「「……えええええ!?」」

「え?」


 一瞬の間が空いて、タイキとコウキ以外の全員が叫んだ。

あれ、僕言ってなかったっけ?


 コウキとタイキがみんなの反応を見て笑う。


「なんだよ、アキラ。言ってなかったのかよ」

「ふ、アキラとバイクなんて意外だよな」

「あー、すっかり忘れてたよ」


 僕からしたら普通のことだったけど、普通の高校生がバイク買わないか。

ちょっとヤンチャしてる人は買ってると思うけどね。


 僕たち、ヤンチャしてないし。


 僕のバイクのことを知らなかったヒマリ達は、各々思ってることを僕に伝えてくる。


「意外だね」

「確かに意外ですけど、かっこいいと思います!」

「ほんとうだね〜」

「まじかよ……ハイスペックかよ、アキラ」

「えー」

「……アキラ、超かっこいい」

「ヒマリ、嬉しいけど、ここでそれ言うと……」


 ヒマリの発言で、惚気センサーが敏感な4人にいじられた。

まあ、いいんだけどね。嬉しいし。


 ちょうどカヤさんが来て、みんなが車に乗っていく。

後ろに乗りたいってイオリに言われたけど、まだ一年たってないし、ヘルメットないからダメと伝えると、一年たったら絶対乗せてくれと言われた。


 その時のヒマリの表情が、やっぱり悲しげなのが、見てて心が少しだけ辛くなった。


 だから、免許とってバイク買ってツーリングしようよというと、イオリはそれもそうだなと頷いた。

加えて、また新しいやりたいことができたと、いい笑顔を僕に向けてきた。本当に変わったんだな、イオリは。なんだか、考え深いな〜。


 ヒマリが車に乗る前に、手を振ってくるので、僕も手を振りかえした。

カヤさんが、お先にどうぞと、運転席から伝えてくれたので、遠慮なくお先に失礼させてもらった。


 後から聞いたけど、ヒマリがすっごい目をキラキラさせてたらしい。……見たかった。

 

 僕がタイキの家に遅れて合流すると、みんなは話に夢中になってた。


「お待たせ」

「きたか」

「じゃあ、コウキの話聞こうぜ」

「……なんか、見られると緊張するな」

「しょうがないじゃん、みんな気になってんのよ」

「心配してるんだよ、みんな!」

「大怪我だもんね〜」

「痛そうです……」

「話、聞かせてくれるんでしょ?」

「心配かけてごめん! じゃあとりあえず簡潔に」


 年上の先輩とスパーリングをしてたそうなんだけど、お互い熱が入っちゃったみたいで、スパーから割と本気の戦いになってしまったようだ。


 拳を放ったところに、運悪く相手の肘が直撃。そこから尋常ない痛みに襲われて、急いで病院にいくと、指の骨が骨折してしまったそうだ


 1回目ならまだしも、実はこれで3度目らしく、折れやすくなっているそう。

医者からはまだ若いし、違う道を探した方がいいとも言われてしまったと、悲しげに話すコウキ。

 

「そんなこと言われたらさ……どうすればいいか分かんなくなっちゃってよ」


 僕は、僕らは、なんて口にすればいいか分からなかった。


 コウキにとって、格闘技で世界王者になることが夢だったのだ。


 元々、格闘技とは無縁のコウキだったが、小学生の頃にいじめられたことが原因で格闘技を始めたと、秘密の暴露会で話していた。


 いじめの原因は、女の子っぽい顔と、ナヨナヨした態度だったと、本人が言っていた。


 格闘技を始めたコウキは、世界が変わったみたいに明るくなって、一時期は友達も増えたようだ。

でも、やっぱり顔のことでいじられたり、格闘技なんか似合わないと言われたり、女子からモテるあまりに男子からは面白くない存在になってしまったりと、割と散々だったらしい。


 裏で自分の悪口を聞いた時に、コウキは仮面をつけるようになった。

みんなに合わせる元気なキャラクターを演じた。

 

 いつしかそれがストレスとなり、格闘技で発散するようになり、練習の量が極端に増えて、拳を痛めてしまった。ストレス発散で続けてる格闘技に意味はあるのかと、葛藤した日々もあったそう。


 でも、怪我で格闘技から離れた時に、気がついたようだ。


「俺は、格闘技が好きなんだなって」


 強くなればなるほど、知らない世界へ連れてってくれる格闘技。命をかけた戦いの緊張感。勝った時の喜び、達成感。全てが好きなんだと。


 最初は、いじめられないように始めただけだったのに、いつしか格闘技で世界王者の高みに行ってみたいという夢に変わっていたそう。


 だけど、コウキの体は格闘技に向いていないと、努力を重ねるたびに思い知らされたそうだ。


 拳の骨が折れやすく、怪我をしては休みを繰り返してた。そして今回、指の骨が折れて、医者からの通達もあり、心まで折れてしまったと、コウキは僕たちに素直に伝えた。


「じゃあ、みんなで見つければ良くね?」

「イオリ?」

「ここにはコウキだけじゃない、俺たちがいる。俺たちの前で素直に弱音を吐いたってことは、迷ってるんだろ? 俺たちだってコウキが何に向いているか考えられるしよ。まあ最終的には、格闘技を続けるも、続けねぇも、コウキ次第だ。医者のいう通り辞めるか、諦めないのか。どんな結果になっても、俺たちがそばにいるからよ」


 イオリの発言に、みんなが頷く。イオリはきっと、自分の過去に似たような経験があるから、コウキに寄り添えるんだろうと思った。やっぱり、イオリと友達になってよかったなって、心から思える。


「イオリ……お前、いいやつになったな!」

 

 コウキは心底驚いて、イオリに笑いかける。


「まあな、どこかの誰かさんのおかげでな」

「ふ、アキラは人にいい影響を与えることができるんだな」

「そんなことないよ。本来のみんながいいやつだからだよ」

「たく、謙遜しやがって」

「そこがアキラの良いところでもあり、悪いところでもあるよな!」

「えー、ひどいなコウキ」


 僕ら男達はヒマリ達を置き去りにして笑い合う。男の友情って、女子には少しわかりにくいのかもしれない。


「なんか、解決した感じ!?」

「男の子って不思議だよね〜」

「でも、良いと思います! 男の子って感じがして!」

「……そうね」


 ユリのなんとも言えない表情に、違和感を感じつつも、僕はあえて触れないことにした。

とりあえず、コウキを励ませて良かった。コウキのやりたいことを見つけつつ、みんなで色々な経験をしていけたら良いなって思った。


「あ、そういえばよ。すげー今更なんだけど、コウキ達の誕生日しらねぇんだけど、いつなんだ?」


 イオリが唐突に、話の内容を変えた。

……そういえば僕も、ヒマリ達の誕生日を知らない。これは、けっこうまずいのでは?


 4月3日がタイキ、コウキが4月2日なので、僕らは3人で誕生会をやっていた。


 問題はここからだったりする。


 サクラが4月4日、イオリが9月6日、ユリが10月11日、カエデちゃんが10月25日だ。


 サクラはすでに終わってるらしく、ユリとヒマリでお祝いしているそう。


「えっと……うちは」

「え、もしかして、アキラにも伝えてないの?」

「アキラくんも聞いてないの〜?」

「う……面目ない。ヒマリの誕生日って……」

「8月31日なの……」


 うわー、やってしまった。もうすぐじゃないか!!


「くく、アキラのやつ絶望した顔をしてるじゃねぇか!」

「ヒマワリ、早く教えてあげれば良かったのに!」

「だって……付き合ったばかりで言うのって、図々しいじゃん!」

「珍しいな、アキラがそんなミスするとは」

「……僕も自分が不甲斐ないよ」

「えっと……ごめんね?」


 可愛く謝ってくるヒマリに、僕は許すという選択肢以外残されていなかった。

なんだか無性に八つ当たりしたい気分になったので、イオリをいじる。


「というか、わざわざ自分の誕生日近いこと言ったのって、祝って欲しかったってことかな、イオリくん?」

「な! このやろ!」

「はは! 図星かよ、イオリ!」

「えー、イオリ先輩可愛いところあるんですね〜」

「だー! そうだよ、わりぃかよ!」

「ぜーんぜん。可愛いところもあるんだと思ってさ〜」

「アキラ! 八つ当たりしてんじゃねぇぞ! むしろ、俺に感謝しやがれ!」


 ギッと睨まれて、かつ正論を言われてとてつもなく申し訳ない気持ちになってきた。


「ははは……ごめん。その通りです、イオリさん。ありがとうございます……」


 何してるんだろ、僕。


「なんか、馬鹿にされてる気がしてならねぇ」

「いや、本当に反省してるって」

「本当なのかよ! 逆にやりづらいわ!」

「ええー、そんなこと言われてもな」


 僕とイオリの掛け合いに、コウキ達がたまらず笑い出した。


「はは! なんかオモロいな、2人とも!」

「確かに、ウケる!」

「ふふ、仲がいいんだね〜」

「アキラのおかしなところが見えて面白かったぞ」


 まさか、タイキにまでいじられるとは……。


「タイキまで……勘弁してください……」

「ふふ、責められてるアキラさんレアですね!」

「たしかに、分かるわ。いつも飄々としてるしね。たまにはいいんじゃないかしら?」

「あ! うちの彼氏いじめるの禁止!」

「ちょ、ヒマリ!」


 このあと、僕のせいでヒマリまでいじられてて、なんだか面白おかしい状況になってしまった。


 でも、これはこれでありだなって思ったのは、秘密だ。



 みんなと別れて、ヒマリと帰る。


 2人で話して帰る。帰りの話は、僕のバイト先の話になった。


「アキラの作ったピザ、すっごく美味しかった!」

「ありがとう。レシピが決まってるから、誰も上手くできるんだけどね」

「えー、でも、できない人もいるから、やっぱりアキラすごい! 料理人になりたいとかないの?」

 

 料理人かぁ、あんまり考えたことなかったなぁ。


「考えたことなかったなぁ」

「そっかー、アキラ、夢がないって言ってたよね?」

「ないね……やりたいことも夢も。ヒマリは長生きして幸せになることでしょ?」


 ヒマリははにかみながら、僕を見てくる


「うん。大雑把だけど、それが1番かな〜。 あ、うち、アキラのオムライス食べたい!」

「オムライスかぁ……作ったことないなぁ」

「じゃあ、今度うちに食べさせて!」

「はは、いいよ。練習しておくよ」

「半分に切ったら、とろとろの卵が見えるやつね!」

「それは、結構難しいやつだよね」

「じゃあ、たくさん練習してね! うち、楽しみに待ってるからね!」

「はは、わかったよ」


 うーん、難しいけど挑戦してみようかな。

ヒマリにお願いされると断れない僕だけど、ヒマリが目を輝かせて、すごいすごいと褒めてくれるところを想像すると悪くないなって思っちゃうんだよね。


 僕も……案外ちょろいな。


 すでに楽しみにしているのか、ヒマリはニコニコ顔で鼻歌まで歌ってる。

 

 僕は飲食店のキッチンができるだけで、料理はそこまでやらない。料理の技術面もそこまでないから、ヒマリの求めるオムライスを作ることは、今の僕にはできないんだ。

この際だし、ヒマリに喜んでもらえるように、オムライス以外の料理も作れるようになっておこうかなって。


 あれ作ってと言われたら、いいよって言ってあげられるレベルにまで達したいなと思った。

ふむ……これも夢っちゃ夢なのかな? まあ、どっちかっていうと目標か。


まあでも、ひとまずはオムライスを作れるようにならないとなぁ。


 ヒマリの笑顔のためにも、ね。


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