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旅行の終わりと夢の中の僕

 個室の露天風呂に来て、体を洗ってからさっそく風呂につかる。


 光に反射する海を見る風呂は、最高に気持ちがいい。


 ぼーっと使ってると、隣に人が入ってきた。


「よお」

「あ、起こしちゃった?」

「いや、俺も目が覚めたんだ。いまだに信じられなくてな」

「そっか」


 タイキだった。僕らは割と一緒にいる時間が長い。

共に過ごす時間が長いほど、行動が似てくるって聞いたことがあるけど、そんな感じなのかな。


 隣で景色を眺めるタイキが、僕に話しかけてくる。


「アキラは、俺のことを怖がらなかったな」

「言ったろ? 僕は人に興味が無かったから、タイキのことも知らなかったって」

「そうだったな。でも、俺の過去を聞いても、恐れないんだな」

「当たり前だよ。やたらめったら暴力を振るう人間だったら、僕の隣にいるはずないだろ?」

「確かに、そうかもしれんな」

「その話を聞いても思ったのは、やっぱり人の噂は当てにならないってことと、タイキは悪くないってこと。お互い怪我したみたいだし、先に手をあげたのはあっちだろ? まあ、暴力はあんまりよろしくないとは思うけど……タイキは、反省したら絶対に同じ轍は踏まないってこと知ってるから。だから、友達になったんだ」

「……そうか。俺はそのことで諦める癖がついてしまったが……2人のおかげで救われたよ」

「なら、よかった」


 タイキはその事件がきっかけで、色々なことを諦める癖がついていたそうだ。


 その事件が起きたのはタイキが中学生の頃。タイキは、高校生をボコボコにして返り討ちにしたんだって。


 もちろんそうなった理由も存在する。理由はカエデちゃんが、男子高校生に暴力を振るわれたところを見てしまったから。そんなの誰だって怒るだろ? 


 そこまでの経緯なんだけど、カエデちゃんは小学生の頃から背が高くて、よく同級生の男子に揶揄われていたそうだ。


 最初は無視してたらしいんだけど、カエデちゃんと仲良くしていた女の子のことも揶揄い始めたそうだ。

それを見たカエデちゃんは、怒鳴り声をあげて怒ったらしい。すると、男の子が逆ギレして暴力を振るってきたそう。平手打ちで叩かれたカエデちゃんは、さらに激怒して平手打ちを返したそうだ。


 すると、男の子は泣き始めて、軽く騒ぎになったらしい。


 次の日、友達と帰っていると、男の子の兄貴が出てきたそう。男の子は、兄貴に仕返しを頼んで、その兄貴も面白おかしく相手にしたそうだ。


 カエデちゃん曰く、軽いビンタらしかったんだけど、さすがに年上の男が怖くて泣いてしまったらしい。


 そこへ、タイキが登場した。

その現場を見たタイキは阿修羅のような顔をしていて男子高校生に話しかけた。普段から怖い顔が、より迫力を増していたと、カエデちゃんは話していた。


 高校生は喧嘩慣れしていたようで、中学生のタイキに一瞬でも恐怖を感じたことが気に食わなかったらしく、そのまま殴りつけてきたという。その頃のタイキは、武道を習っていたわけじゃない。でも、中学生の割に恵まれた体格と、戦いのセンスがあったタイキは、年上の高校生を返り討ちにしたそうだ。


 返り討ちと言っても、タイキも結構ボロボロだったらしい。お互いに至る所を骨折していたそうだから。


 タイキが高校生を返り討ちにした直後、カエデちゃんの友達が交番から警察官を呼んで、タイキは警察官に病院へと送り出された。

 

 治療を受けながら説教をされたり、両親を呼ばれて叱られたり、でもカエデを守ったことは偉いと褒められたりと、色々あったようだ。


 しかし、ある問題が起きた。


 タイキが高校生を打ち負かしたところを、同級生が見てたのだ。そして、警察に連れて行かれるところも。


 そこから、ある噂が流れてしまった。


 牛山大樹は、ミノタウロスの生まれ変わりだと。だから、年上相手にも圧勝したって。化け物だから、警察官に連れてかれたと。


 その噂が流れてから、タイキに近づくものはいなくなった。


 タイキはそこから、ここに住んでる限りは何も変わることがないと諦めていたらしい。


 だから、タイキにとって、この時間は奇跡みたいなもんなんだって。


「俺は……コウキとアキラのおかげで、今は幸せなんだ。2人には感謝してる」

「まあ、ほとんどコウキのおかげだけどね。僕たち、コウキが話してくれなかったら、友達に慣れなかったわけだしさ」

「確かにな……なら、俺たちで恩返ししないとな」

「そうだね……コウキに何かあったときは、僕たちで支えてあげよう」

「そうだな」

「そてにしてもさ、カエデちゃんの後悔は、なんというか可愛かったね」

「ふ……確かにな。兄としては、虫除け代わりに使ってもらっても、全然問題なかったんだがな」

「まあ、客観的には可愛い後悔に感じても、本人にとっては重たい出来後になるんだって、勉強になったよ」


 カエデちゃんの後悔の話は、正直僕らにとっては可愛いものだった。


 タイキの噂が流れてから、カエデちゃんの友好関係もほとんど切れたそう。現場を見ていた子達は、もちろんカエデちゃんから離れることは無かったそうだけど。


 カエデちゃんは、むしろそれでよかったそうだ。揶揄われることもなくなって、平和になったからね。

タイキのことは元々好きだったらしいけど、さらに尊敬するようになったとも言ってた。


 ここまで聞くと、カエデちゃんが後悔することなんてないと思うけど、その後のことを後悔しているようだ。カエデちゃんは中学一年生から、モテてはいたけどタイキと一緒に帰っていたから、牽制できたそうだ。


 でも、カエデちゃんが中学2年生に進級すると、タイキは中学校を卒業してしまったから、カエデちゃんに言い寄る人が増えたらしい。 つまり、カエデちゃんは中学2年生に上がった瞬間、一気にモテ始めたのだ。それが煩わしくてタイキの名前を使って牽制していたようだ。


 それを後悔していると話した時の、タイキの顔と言ったら……


「ふふ、あの後悔を出された時のタイキの顔は、傑作だったな」

「写真を見たが、まさかあんな間抜けな顔をしてるとは、思わなかった」

「カエデちゃんには悪いけどさ、重たい話の連続だったから、心が少し軽くなったよね」

「確かにな」

 

 それに、カエデちゃんの心が、めちゃくちゃ綺麗な心をしてるってことも分かって、カエデちゃんの兄貴としては嬉しいんじゃないかなって、思ってたりする。


 あ、そういえば、気になってたことがある。


「そういえばさ、タイキと激闘を繰り広げた人とは仲良くなったの?」

「いや……引っ越したそうだ。メグム兄さんが、始末をつけてきたよって言ってたからな……」

「僕、メグムさんを怒らせないように気をつけるね……」

「ああ、ぜひそうしてくれ……俺も死にたくないからな」


 僕はここでも学ぶことができた。


 普段優しい人を怒らせてはいけないという教訓が。


 

 僕らは風呂から出て、部屋に戻ると、すでに朝ごはんが用意されていた。

みんなはすでに起きていて、朝ご飯を食べて談笑していた。


 いつもの自分の家とは違う賑やかな朝に驚きつつも、みんなと一緒に食べる朝ごはんはいつもより美味しく感じた。

 

 バスまで時間があるので、朝風呂に入る人は風呂に浸かり、お土産コーナーで買い物したりと、時間内にそれぞれが行動した。


 時間になって旅館を出る前に、ミドリさんが僕たちに会いにきてくれた。


「楽しめたかい?」

「もちろんです」

「そりゃよかったよ」


 みんなもこの旅館を大絶賛している。ミドリさんにお礼を伝えてから、僕たちはバスに乗り込む。

タイキとサクラは、ミドリさんと少しだけ話をしてからくるようだ。


 バスから3人の様子を見てみると、タイキが90度のお辞儀をした。僕は視力が悪いので良く見えないけど、ヒマワリが、ミドリさんが優しく微笑んでタイキの頭を撫でていることを伝えてくれた。


 昨日の海での出来事以降、ヒマワリは僕の名前を呼ばなかった。あと、すこしだけ距離を置かれていた。


 少し寂しくて、ちょっと悲しかったし、1人で考えてしまうこともあったけど、なんとなくヒマワリが距離をおきたかった理由も分からなくない。


 ここからは僕の予想だけど、ヒマワリ自身も海での行動を振り返って恥ずかしくなったのか、これからどうすればいいのか分からなくなってしまったのかもしれない。


 体が勝手に動いて、自身の行動に感情が追いつけなかったんだと思う……たぶん。


 昨日よりは落ち着いたのか、僕の隣に座ってくれた。うん、やっぱりヒマワリの隣は落ち着くと、少し離れてみて、改めて思った。


 そんなヒマワリは、僕の隣で呟く。


「いいな……」

「羨ましいの?」


 きっと、それは口に出すはずの無かった心からの言葉。とても小さい声だったから、独り言で済ませようとしたはずだ。ヒマワリは少し気まずそうだ。でも、僕はヒマワリに話を続ける。


「ヒマワリも、誰かと恋をすればいいと思うよ」

「……アキは、それでもいいの?」


 久しぶりにヒマワリの風鈴のような声で、僕の名前を呼んでくれたことに、心から嬉しくなる。


「僕に恋してもらえるように、もっといい男になるよ」

「……そか」


 分かりやすく照れる彼女に、思わず僕は笑ってしまう。

僕の笑いに反応したヒマワリは、シャーと久しぶりにレッサーパンダの威嚇を披露してきた。


 それでも笑いが止まらない僕に、怒っていたはずのヒマワリもたまらず笑い出す。


 ああ、やっぱりいいな。君は笑顔が良く似合う。


 バスに揺られて帰る道中、彼女の首が縦横無尽に動き回る。

あまりにも激しく動くものだから、見ていられなかった僕は、彼女の頭に触れて肩を貸す。


 首が固定されたからか、彼女は眠りながら微笑んだ。


「アキ……うち、ね……」


 寝言だろか。


 君は、どんな夢を見ているのかな。僕の名前が出たってことは、きっとその夢の中に、僕が出てきているのだろう。

 

 夢の中の僕、頼むぞ。今のうちに、存分にアピールしておいてくれ。


 向日葵の花に似合うのは、静かに燃え続ける真っ赤な太陽だってことを。


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