海の味
海の近くに更衣室があるので早速移動する。帰りは、砂がつくからシャワー浴びて落としてくるようにと説明された。使った水着は洗ってもらえるようなので、カゴに入れておいて欲しいとも言われた。至れり尽くせりだ。せめて、砂くらいは落としていこうとみんなで話し合った。
ということで、さっそく水着に着替える。
僕は黒と赤とオレンジ色の縦線、タイキは緑の生地に桜吹雪、コウキは白と赤が混じった色、イオリは斜めに青から水色、赤から黄色のグラデーションの水着。
なんで水着ってこんなに派手な色が多いんだろう。まあ、僕が選んだと言うか、ヒマワリ達に選んでもらったんだけどね。選んでもらった時点ですごく贅沢なことなので、水着の件に関しては触れないでおく。
「アキラも結構筋肉あるな」
「イオリだって、最近まで部活に入ってたから腹筋とか割れてるじゃん」
「ああ、結構自慢だったんだけどよ……あの2人見ると、自信無くすわ」
「わかる。すごくわかるよ……」
僕たちだって割と筋肉あるのに、あの2人と比べられるとしんどい。
どこの戦士だってくらいの肉体のタイキと、無駄のない格闘家の筋肉のコウキ。僕、イオリがいなかったら海まで辿り着けなかったかもしれない。
仲間がいて良かったと、心から思えた。
さて、ヒマワリ達が着替えるまで待ち時間。太陽の下は暑すぎるので、パラソルの下で待つことに。
「なあ、オレだけかぁ? 待つ間に緊張してるのってよ」
「いや、俺もだ……正直、気が気じゃない」
「なんだよお前ら、俺とアキラを見習えよ! 全く動じてないぜ?」
「そうなんか、アキラ?」
「……吐きそう」
なんか、緊張しすぎて気持ち悪くなってきた……。僕、そういえば水着で遊ぶことなかったし、そもそも肌を晒して遊ぶってどうなの……。ダメだ、なんか色々と不安になってきた……。
「おい!! これのどこが大丈夫なんだよ!?」
「アキラ、気をしっかり保て」
「あれ〜、おかしいな。こんなアキラ見たことねぇから新鮮だわ!」
「おっ待たせ〜!!」
遠くからいつもの明るい声を聞くと、先程の緊張が嘘みたいに軽くなった。それに少し恥ずかしさを感じる。
でも、これはもはや病気だと、恋の病だから仕方がない。そう思えば割とすんなり受け入れることができた。
自分の単純さに呆れつつも、立ち直ることができたので、よしとする。
「よし、復活」
「え、どういう原理!?」
「はは! アキラらしいじゃん」
「う、うぬ……」
タイキはまだ気が気でないようだ。僕たちは男だタイキ。紳士の自分をぶん殴って、ありのままを受け入れてあげるのです。
19話
「ごめんね! 日焼け止め塗ってたら、遅くなっちゃった!」
「はあ、暑い……」
「海入ったら涼しいよ〜」
「海楽しみです!」
近づいてくるとわかる。みんなスタイルが良すぎる。
背の高いカエデちゃんとユリは、モデルのように目を引く姿で、これから撮影会がここで行われると言われても信じるレベル。サクラは3人比べると背が低く、女の子らしい体型で……その、なんというか、男のロマンが詰まってる。
ヒマワリは、明るくて元気で太陽の下がよく似合ってて、少し顔が赤くなってる姿がすごく可愛い。正直、友達の3人にも見せたくないくらいに目を惹かれる。男のロマンも程よくあって……ああ、自分が変態で嫌になる。男は皆変態と言うけど、僕は違うと思ってたから余計にショックだ。
4人とも、自分の名前に由来している色の水着を着ている。ヒマワリは黒とオレンジ色のビキニとミニスカート?フリル?着ているし、ユリは水着っぽいけど水着っぽくない胸には白のフリル?と長めのスカート、サクラは桜色のビキニに肩を見せるようにロングカーディガンを羽織っていてとても大人っぽい。カエデちゃんは赤からオレンジのグラデーションで、ワンピースなんだけど子供らしさがない。
……というか、今更だけど、僕たちの履いている水着の色が、どこかしらに入ってる。
え、これってそういうことなの? 僕はコウキ達を急いで見たけど、コウキは爽やかにサムズアップして満足げだし、タイキは照れて視線を外してる。この鈍感共!
イオリは、僕と視線を合わせて口パクでそういうことって感じで困惑してる。
イオリ、やはり僕は君と仲良くなれそうだよ……。
「じゃーん! かわいいでしょ?」
ヒマワリが僕の前で一周して全身を見せてくれる。この子……本当に容赦ないな。僕は叫びたい気持ちを精一杯抑えて微笑む。うまく微笑んでいるかは疑問だけど。
「うん、似合ってる。可愛いよ、ヒマワリ」
「おふ……アキラも、その、かっこいいよ。あ、あと、腹筋割れててギャップ」
「はは、一応鍛えてるから……さ」
……ぬおおお! なぜ照れる、なぜ照れるんだヒマワリ!
その上目遣いはやめてくれ、心臓が早く脈打ちすぎて爆発しそうだ!
「たーいきくん?せっかく、可愛くなったから見てよ〜」
「その……」
「うん?」
「に、似合ってるぞ……サクラ」
「可愛い?」
「ああ」
「可愛い?」
「ぬ……か、かわいい」
「ふふ、ごうかく〜。タイキ君もかっこいいね〜。筋肉もしっかりあって、すっごくかっこいいね〜」
「ま、まいったから……よしてくれ」
あのタイキが、いつもより圧倒されている。なんてレアな状況なんだ。
最近は女の子に慣れてきたと思ったけど、やはり刺激が強かったか。
「ユリ、可愛いし綺麗だし、すげー肌綺麗だな!」
「ぬあ! コウキ! そ、それはセクハラだ!」
「んだよ、いいじゃねえか! 本当のこと言ってるだけだろ?」
「……!! これだから天然は!」
ああ、苦しんでる。ユリは僕とタイキと同じタイプだ。ユリには申し訳ないけど、落ち着く。
「イオリせーんぱい、アタシ可愛いですか?」
「おう、可愛いぞ。似合ってる」
「ぬぬぬ……女の魅力が伝わってない気がします!」
「いや、そんなことねぇよ」
「その余裕の態度、絶対に変えて見せます!」
「じゃあ、期待してるぜ」
「むきー!」
しゃーとアライグマの威嚇をするカエデちゃん。ふむ、確かに中学生相手に照れそうにないなイオリは。
あの余裕な態度を、いつか壊せることを願ってるよ、カエデちゃん。
自分を取り戻すために周りを見てたけど、ヒマワリが僕の手を軽く握ってきた。
「はは、やっぱり少し照れるね」
ねえ、無意識なの、それともわざとなの? 攻撃力がえぐいですよ……ヒマワリさん。
「そうだね。その破壊力がすごい」
「破壊力?」
「ヒマワリが、可愛すぎて直視しづらいや」
「ぬお! ……あ、ありがとう、アキ」
「どういたしまして」
ヒマワリは顔を赤くしながらも、燦々とした笑顔を見せるから、心を奪われてしまう。
ヒマワリ達も満足したのか、早速遊ぶことになった。
といっても、まずは写真撮影かららしい。こんな映えるスポットは一生に一度しかないかもしれないから、写真を撮りたいようだ。
僕らは、思う存分写真を撮った後、全力で遊んだ。
海に入って海の冷たさの洗礼を受けつつも、泳ぎ出せばどうということはなかった。それよりも、海が透き通るほど綺麗で、魚が泳いでいたり、珊瑚礁が見えたりと幻想的な海の景色に見入っていた。
途中、コウキとイオリが岩場から海にダイブしたり、タイキに投げてもらったりしていた。カエデちゃんも投げてもらって楽しそうにしている。岩場に上がったイオリとコウキはタイキを投げて遊んでいた。そこへ、サクラもやりたいとタイキにお願いしていた。
妹はできたとしても、サクラには無理だよね。それでも諦めないサクラに、覚悟を決めたタイキが、岩場まで彼女を連れ出して、お姫様抱っこで一緒に飛び込んでいた。
「きゃ〜!」
大きな水飛沫が上がる。早くから海に出て休んでいたユリがカメラマンをしていた。僕はそれを見ながら、超青春だなーと他人事のように思っていた。
コウキがユリをお姫様抱っこして、そのまま岩場まで連れ去っていく。
僕達は急いでスマホのカメラと動画をオンにして、思い出をまた一つ撮っていく。
ユリの悲鳴と、ばしゃーんと大きな水飛沫が聞こえるのは、ほぼ同時だった。、
視線を感じるので、横を見ると、ヒマワリがキラキラした目で僕を見る。
「ねえ、アキ!」
「えっと、ご所望ですか?」
首が取れそうな勢いで縦に振るので、僕はヒマワリの要望に答えた。いつもなら断ってただろうけど、惚れた弱みだなって心の中でで苦笑した。
邪な考えを捨てたかったけど、ヒマワリの肌はとても柔らかくて、やっぱり意識せずにはいられなかった。ちょっと怖いのか、ぎゅっと僕に密着してくるヒマワリに、僕の鼓動の強さと速さが聞こえてないことを祈るばかりだった。
海の水を浴びているにも関わらず、彼女は相変わらずお日様の香りと花の匂いがした。
幸せと拷問が入り混じる時間を終わらせるべく、僕は彼女と共に海へと飛び込んだ。
海の中に深く沈む感覚よりも、抱きついてくるヒマワリの柔らかい肌の感触と体温を直で感じたせいか、脳内ホルモンのセロトニン、オキシトシン、ドーパミンがドバドバと溢れ出ている気がした。過剰に出る幸せホルモンのせいで、体がおかしくなって、このまま海に沈んでいくのではないかとヒヤヒヤした。
つけていたゴーグルも意味がなかったのか取れている。目がめちゃくちゃ痛いし、視界が歪んでいる。でも、海面から差し込んでくる太陽の光が目印になってるから上がることができる。きっと、ヒマワリのゴーグルも意味なかったと思って彼女を見ると、ふいに目が合う。
「……」
「……」
おかしい、海水の中なんだから、ヒマワリの姿も歪んでるはずなのに……。
海面から差し込む太陽の光に照らされている彼女は、ヒマワリの精霊から、水の精霊へと姿を変えていた。
オレンジ色の髪が反射してとても神秘的で、美しいヒマワリ模様の瞳が僕を見つめてくる。何秒、何十秒経ったのだろうか。
分からないけど、すごく長い時間、見つめあってた気がする。心を通わせてるような、不思議な時間。
僕は、君が本気で好きだと、心の奥底から彼女の心を目掛けて叫ぶ。意味がないと分かっていても、自分の心と感情に従った。
満足した僕は冷静になった。なんだかまずいと思って、彼女を抱き寄せて上がろうとする。
すると、ヒマワリの両手が、上を向いていた僕の顔に優しく触れて、ヒマワリの方に顔が向く。
近距離で見るヒマワリの顔は、とても綺麗で、精霊のように美しく儚げだ。
さらに近づいてくるヒマワリに対して、僕は動くことができない。
気づいた時には、僕と彼女の柔らかな唇が重なり、目を閉じていた。
数秒間のはずなのに、時間が止まってるほど長く感じた。
離れた時に目を開ければ、ヒマワリは僕を見つめている。
海の中なのに、ヒマワリは泣いているように思えた。
僕はもう一度、彼女を抱き寄せて海面に上がる。
久しぶりに空気を吸った気がした。
隣を見ると、彼女はいつものヒマワリの花のような笑顔で僕を見つめている。
「ああ、すごかったね!」
「う、うん。そうだね」
「ドキドキしちゃったよ!」
「僕もだよ」
「じゃあ、戻ろう! カエデちゃん達、待ってるっぽいし!」
「あ、あのさ!」
『ヒミツ』
彼女は口パクで僕に伝える。前回の時も、同じだった。
海にいる彼女は姿を変えて、水の精霊の輝きを放ち、僕の視線を釘付けにして去っていく。
さっきのことが水の泡のように綺麗さっぱり弾けて消えてたみたいに、彼女は清々しい顔をして、砂浜へと戻っていく。
「……海の味、だったのかな」
1人取り残された僕と言葉は、熱く切なかった。
初めてヒマワリが一つ上の同級生じゃなくて、一つ上の大人の女性だと感じた瞬間だった。
日差しの熱さと海の冷たさが、交互にやってくる。
はたして、日差しの熱で体が熱くなってるのか、それとも彼女の行動に胸が熱くなってるのか、はたまた両方なのか、正直判断がつかない。
ただ、今僕がすべきことは海に深く潜って、頭と体を冷やすことだと思い込むことにした。
そうでないと、頭がおかしくなりそうだったから。
お昼ご飯を食べて、また海で遊んだ。
でも、僕はそれどころではなくて、なぜ彼女があんなにも大胆な行動をとったのか分からなかった。
タイキ達にも心配されたけど、体調が悪いわけじゃない。
だから、考えることをやめた。せっかく遊びにきたのだから楽しまないと損だと思ったから。
時間を忘れて僕たちは海を満喫した。
以上、熱い展開でした。
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