秘密のデートと告白
「アキー! お待たせ!」
「待ってないよ、いこうか」
「うん!」
ヒマワリは、いつものおしゃれでボーイッシュな格好だ。今日もとても可愛い。
2人でメガネを買いにいく。ヒマワリのおすすめで、オレンジと黒が混じったフレームのメガネを買うことにした。いつもは黒縁のメガネだったので、なんだか新鮮だ。
1時間位で出来るそうなので、出来上がるまで服を買いに行くことに。
服屋に行って、またしてもヒマワリに服を選んでもらう。正直、なんでもいいんだけど、適当に頷くと睨まれるので、じっと服を見ることに。
「このTシャツ色いいな!」
「はは、やっぱり黄色だね。色はサンフラワーか」
「この色嫌い? ちょっと、濃いからオレンジにも見えるんだけど、花みたいで可愛いし……」
ちょっと落ち込む彼女を見て、笑みが溢れる。
自分の好きな色が嫌いって言われたら、誰だっていやだよね。
「好きだよ、その色。せっかくだし、買っていこうかな。夏用の服も欲しかったし。それに、7分袖がいい」
「良かった! それにしても、ふふ、アキは腕見せないよね〜」
「細すぎて嫌いなんだ」
どれだけ食べても太らないといったら、怒られそうなので、絶対に言わない。
タイキとコウキと並ぶと、余計に細いのが目立つから、僕は基本長袖か、暑い時は7分くらいまでシャツを捲るんだ。
「えー、白くて綺麗なのに、見せないの勿体無いけどな〜」
「そういってくれるのは、ヒマワリだけだよ」
「そうかな〜。じゃあ、これは買いだね! あ、この柄シャツも可愛い! オレンジ色の花びらが散りばめてる!」
「それも買う」
やっぱりオレンジ色だねと言おうとしたけど、やめておいた。せっかく選んでもらうので、彼女がおすすめをする服を買おう。服を買うならと、両親からお金を恵んでもらった。バイトしてるからいいよって言っても、いいからと渡されたので、ありがたく頂戴した。
「いえーい! いいね! あ、青も似合うからそれも買おう! 空の色だよ〜」
「空の色か、いいかも」
「でしょー!」
彼女は自然の色にこだわりがありそうだ。
こうして、僕は今まで手を出したことがない服を5着くらい買った。休日しか活躍しないから、これくらいでいいと判断した。あ、もちろん普通の黒のシャツも買った。普通といっても、胸ポケットに金色の花がプリントされてるから、いつもとは違う系統だけどね。
満足げなヒマワリに、お礼がしたいといってお昼ご飯を食べることに。
平日っていうこともあって、割とレストラン街は空いていたから、洋食屋でご飯を済ませた。
食べ終わってから、メガネを受け取りに行く。今日はメガネをつけなくてもいいかと思って、そのままリュックの中にしまった。
そろそろ行こうかと声をかけると、着替えないのと言われた。せっかくなので、買った服を切ることに。ああ、だから値札切ってもらってたのかと、今更ながらに気がついた。
どれがいいか聞くと、花を見に行くので柄シャツを推された。僕はトイレに行って着替えてる。ヒマワリは満足げに頷いた。
「うん! やっぱり似合ってるかっこいいね!」
「……ありがと」
彼女のお気に召して良かったと安堵した。それと同時に、かっこいいと言われてなんだ照れくさくなった。
花畑に行く前に、プリクラを撮りたいとのことだったので、撮りに行くことに。
見慣れない格好の自分がいて、違和感はあるけど、そんなことよりも狭い機会に入ると、すごくドキドキしてしまう。
ヒマワリとの距離はかなり近くて、腕が当たっている。
照れる僕に気がつかない彼女は、いつもの満開の笑みでピースサインをしてる。
僕もヒマワリを見習って、控えめにピースサインした。
色々な格好を撮ってから、落書き時間。書くのは彼女に任せて、僕は写真を見る。僕のぎこちない笑みによって、彼女の可愛さが強調されているようだった。
太陽が照らす向日葵、そんな言葉が頭を過ぎる。
彼女を照らせるなら、それはそれでいいなと思えた。
プリクラを撮って、荷物はロッカーに入れておく。帰りに忘れないようにしないとな。
電車に揺られて30分、僕たちは花畑がある最寄りの駅についた。
駅から10分ほど歩くけど、その前に食べ物やとかお土産やとかが並んでいるので、向かってる最中も楽しい普通に楽しい。
入場券を買ってから花畑に入る。
梅雨の花が色々と咲いてる。色とりどりの花が僕たちを迎え入れてるようで、なんだか嬉しくなる。
「うわー、綺麗!」
僕の横にいる花も、満開の姿で咲いてくれた。
「一日中はいられないけど、半日くらいなら楽しめるね」
「そうだね! あ、あそこ見て、紫陽花超咲いてる! くぁわいい!」
「可愛いというより、綺麗じゃない?」
「えー、可愛いよ! ほら、もっと近くでみよ!」
「あ、ちょっと、引っ張らなくても大丈夫だよ」
「いいから」
近くで花の香りを堪能する彼女を見て、つい写真を撮りたくなってしまう。
でも、いきなり写真を撮るのは、なんだか失礼な気がしたから、僕はスマホを出すのをやめた。
「ねえ、写真撮って! これは映えだよ映え!」
「あ、うん。いいよ」
「やったー!」
と、思ったら、彼女から依頼された。これは、僕のキャメラ技術が試される時だね。彼女のスマホを借りて、写真撮影を始める。
花を愛おしそうに見つめる花の精霊。まるで、子供を見る目で花を見つめる彼女に、なんだか胸が熱くなる。
シャッターチャンスを逃さずに、写真を次々と撮る。
レンズ越しではなくて画面越しではあるけど、ヒマワリはとても美しい姿だった。
「ふふ、いつまで撮ってるの? 一緒に撮ろ!」
「う、うん」
「ほら、近寄って!」
先程のプリクラとは比べ物にならないほど、距離が縮まる。
花とヒマワリの香りが鼻腔をくすぐり、脳内に記憶されていく気がする。
悪戯に笑う君が可愛くて、僕の心は踊り出してしまいそうになる程、浮かれている。
「もっと、見に行こう!」
「うん」
喉がすぐに乾いてしまうほど、ひたすら話をする。
お互いの好きなネット動画、本、アニメや漫画、僕には分からない化粧の話や服の話。勉強の話。テスト勉強会の話。今を大切にするヒマワリは、過去と未来の話をしない。今を本気で楽しむ彼女の笑みはとても眩しかった。
「人、少ないよね」
「最近、噂広まってるからかな?」
「あー、あの話ね。信じてる人多いんだね……。でもさ、どうしようもできないよね?」
「そうだね。まあ、逆にお得だよね。人が少ないから、僕たちで占領できるってことだし」
「確かに、お得! あ、写真撮って!」
「了解」
時間を忘れるほど楽しんで、容量を気にせず写真を撮り続け、気がつけばお日様は赤く染まり、空はオレンジに色付けされている。花を一望できる場所を確保して、飲み物とアイスを買う。
「わー、ありがと! アキに奢ってもらってばっかりで、なんだか悪いなー」
「いいんだよ。今日のデートは僕が誘ったんだし。それに、僕が普段着ない服や、メガネ、見ることのできない景色を見せてくれたお礼だよ」
「ふふ、なんか詩人みたいで素敵。 んー美味しい!」
アイスを食べる彼女につられて、僕も食べる。
甘いものはそれほど得意じゃないけど、アイスクリームは好きなんだ。
花の香りがする場所で一緒に食べるアイスは、甘くて美味しい。
アイスを食べ終わって、しばらく景色を楽しむ。ベンチで横並びに座って花畑を見る君を盗み見たことを後悔する。夕陽の光が彼女を照らして輝かせている姿を見て、目を奪われてしまったから。
「どうしたの、アキ?」
「……僕、ヒマワリが好きだよ。付き合って欲しいんだ、僕と」
そして、僕は心の間ままに大事にすべき言葉を放ってしまった。告白の言葉を。出会ってから、もう少しで3ヶ月が経つ。でも、僕たちがまだ出会ってから3ヶ月だ。長いようで短い。
僕は、全ての彼女を知ってるわけじゃない。でも、それがなんだというのか。これから知っていけばいい。恋愛とは、そういうものだって聞いたこともある。
きっと、昔の僕ならきっと言っていない。確実に両思いだと分かってから告白するはずだ。
でも、君の気持ちが、僕に向いていることなんて分からないのに口にしたのは、君のおかげだろう。
タイキに、ヒマワリみたいな言葉を使うなって言われた体育祭の日から思っていた。
僕はいい意味で、君に影響されている。
だから、今はただ、自分の心に正直でいたかったんだ。ヒマワリ……君のように。
ヒマワリは目を細めて、静かに、でも寂しそうに笑う。
その姿と、後ろに咲いている花々、夕暮れ時の薄暗い雰囲気が、いつも幼い雰囲気の彼女を大人の姿に変えていく。
「アキラは、うちの秘密知りたい?」
「え?」
予想外の答えに、驚きつつも頷く。
彼女がいつも心の内側に隠している花を一つ、僕に差し出してきた。これを受け取らなかったら、きっと僕は後悔する。
「うち、今年で18歳なの。アキより一個上のお姉さんだよ」
「そう、なんだ」
「うん。引いた?」
「いや、特に」
「そうだよね、引くよねって、あれれ?」
「え?」
ここで、初めてただただ驚く表情になるヒマワリ。僕も、まさか驚くとは思わなかったので、互いに固まる。僕たちの今の状況を他の人が見たら、きっと阿呆に映ってるんだろうなって思ったら、つい笑ってしまう。
「え、なんで笑うの?」
「いや、2人して驚いてるからついね」
「ふふ、確かに。あー、なんか予想外に受け入れられちゃったなー」
予想外か……。僕はたとえ、君が小悪魔だったとしても、受け入れられるほど、君が好きなんだけど。
どうやら、僕はまだまだ、彼女からの信用が薄いようだと実感する。
そして、告白の答えは、決まったようなものだとも思えてしまう。
「別に驚かないよ。理由はまだ言えないかい?」
「うん……あんまり知ってほしくないというか、まだ少し怖いから」
「そっか……あのさ、ならヒマワリが理由を教えてくれるようになったら、僕と付き合って欲しいな。お互いまだ出会ってまだ3ヶ月だしさ。どうかな?」
彼女は、すこしだけ気まずそうだ。返事を遅らせたことへの罪悪感があるのだろうか。
そんなの気にしないさ。
僕は君に惚れている。
今は、それだけを知っていてくれれば、それでいいんだ。
「……いいの?」
「もちろんだよ。無理に付き合いたい訳じゃない。ちゃんとお互いが納得した上で付き合いたいから」
「わかった。ありがとう、アキ!」
ああ、やっぱり、君の笑顔はとても花やかだ。暗くなっていくのに、彼女の笑う顔だけは、はっきりと見えた。
「はは、どういたしまして、さて、帰ろうか。なんか緊張解けたら、お腹すいちゃってさ」
「うん! そうしよう! ねえ、何食べる?」
「どうしようかな。 また食べ放題でも行こうよ。あのショッピングモール3店舗くらいあるよね?」
「うん! じゃあね、今日は焼きにいく行こ!」
「いいね」
「花畑で歩いたあとの焼肉……絶対美味しいね!」
「間違いない」
僕の答えは、保留になってしまったけど、それでも良かった。
気まずいという感じはなくて、あとはヒマワリの心の問題だから。こればかりは、どうしようもない。
でも、勇気を出して良かったとは思ってる。
その場で立ち尽くして眺めるだけじゃダメだ。ちゃんと自分で行動しないとね。
最初の一歩は誰だって怖いけど、一歩踏み出せたら、あとは勝手に歩いて行けるんだから。
電車の中で、ヒマワリは眠ってしまう。たくさん歩いたから疲れたのかもしれない。
僕の肩に頭を乗せて眠る彼女を起こさないように、僕はスマホを見ながら時間を潰した。
レストラン街についた僕たちは早速焼肉店に移動。僕たちは、主に僕が大量の焼肉を食べると、ヒマワリはいい食べっぷりと褒めてくれる。それだけ、心も満たされるから不思議だ。
食べ終わり、駅で荷物を取って家に帰る僕ら。
いつも通り、2人で並んで帰るけど、いつもとは少し違う。
少しだけ距離が近くなる。パーソナルスペースに踏み込んだ距離でも、落ち着くのは、僕が本気で惚れてる証拠だろう。
ヒマワリを家まで送る。やってることは彼氏っぽいけど、残念ながら恋人未満友達以上の関係だ。
「今日は、ありがとねアキ! 色々と楽しかったし、その……告白も、すっごく嬉しかった!
その、返事はもう少し待ってくれると嬉しいな」
「かまわないよ。君の素直な言葉が聞きたいから」
「うん、ありがとう! じゃあ、おやすみ、アキ」
「うん、おやすみ、ヒマワリ」
帰り道、1人なのに、心臓の高鳴りが止むことはなかった。
大変。満足した1日であったと実感する。
大切な思い出が、またたくさん増えた。嬉しさが込み上げてくると同時に、すこしだけ恐怖も覚えるようになる。父さんの話を聞いたからだろう。
僕前とした恐怖なんかに負けないくらい、毎日を楽しく生きていこう。
人生は一度きりだ。なら、楽しまなきゃね。
1人の帰り道を、音楽を聞いて恐怖を取り除く。
最初は音楽と声に惚れた邦ロックのバンドだったけど、今はその歌詞が絶妙に心に響いた。




