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本音と仲直り

それが礼儀だと思った。


「僕の意見だけど言っても?」

「ああ、もちろん。言いたいこと言ってくれ」

「じゃあ、遠慮なく。君が過去に受けた出来事を知っても、僕は同情しないよ。君が人を傷つけたことは事実だ。君はヒマワリから敬遠されるのに、自分より劣ってるやつがヒマワリと仲良くしてることを許せなかった。自分がヒマワリ達の誰かと特別な人になりたいがために、ヒマワリに接する人たちを脅して、ヒマワリ達の交友関係を切ってきた。それは良くないことだ、それについては反省してるよね?」

「ああ、悪いと思ってる」


 僕の目を見て、彼は間髪入れずに言い切った。君、いいや、鎌犬はやっぱりいいやつだ。


「なら、謝ればいい。勝手なことをしてごめんって」

「謝って許して貰えばいいってことか?」

「違うよ」

「え?」


 はは、まあ驚くよね。話の流れ的には、許してもらえって感じだったし。

でも、僕の考えは違う。


「君が謝ったところで、君が犯した間違いが本当に許されるかどうかんて分からないし、そもそも許してもらえたとしても、それはきっと上辺だから、本当は許してない可能性の方が高い」

「なら、どうすればいいんだ」

「別に許される必要はないけど、悪いことをしたなって思うなら、謝ればいいんじゃない?」

「……すまん。何が何だか分からねぇ」

「要は、君が満足すればいいんだよ。反省して行動に移して、自分のしでかした間違いを認めてあげればいい。ああ、俺は間違ったことを謝れる人間なんだってさ。僕は自分が犯した間違いを認めることができる人って少ないと思うんだ。俺は間違ってない、あいつが悪いんだって、人のせいにすることの方が楽だからね」


 彼は僕の言葉にめちゃくちゃ驚いた反応を見せる。僕はさらに、話し続ける。


「君は変われる。いや、現に変わってるんだ。僕に謝ってくれたじゃないか。脅すより、暴力を振るった方がよっぽど悪いことで、謝りづらいことなのに、君は謝ることができた。僕が言うことを聞かなかったから、生意気な口を聞いたせいだって、僕のせいにする方が簡単なのに、君は僕に謝ってくれた。僕の話でいくと、次は君が自分を許して自分を認めてあげる番だ」

「……それで、本当にいいのか。俺は、俺を許してもやっても」

「いいんだよ。殴られた僕が言うんだから」

「う……すまん」

「あー、ごめん。説得力あるかと思ってつい」

「……いや、確かに説得力はあるんだけどな」


 お互い顔を見て、小さく笑う。

だんだん彼のことをただの悪いやつとは思えなくなった僕は、最後の確認をする。


「ねえ、本当に脅し以外してない? それ以上のことしてたら流石に庇いきれないし、軽蔑するけど」

「お前以外殴ってねぇよ。脅しは、花々に関わるなって強く言っちまったんだ。いまは、後悔してる……」

「そ、ならいいんだ。やっぱり、君はいいやつだ」

「んだよそれ、いいやつじゃねぇだろ……どう考えても」

「ふふ、やっぱりいいやつだよ。悪いやつは後悔なんてしないからさ」

「……お前はやっぱり変わってるよ」


僕はなんだか楽しくなってきた。ここまで素直な言葉を口にするのは、コウキとタイキ以外いなかったから。ここは、僕もさらにぶっちゃけてしまおう。


「さっきの話に戻るけどさ、正直言っちゃえば、君に脅された程度で、ヒマワリ達と友達になることを諦めた奴らは、その程度ってことだって思うよ。カースト上位の友達がいるってカードをもってたいだけだと思うし。君が脅したやつらだって、前の君と似たようなもんだよ。それに、君が謝っても、心の底から許してやれない器の小さな人にろくな人間はいないだろうし。まあ、それでも謝った方がいいのは事実だけどね」


 はは、驚いた顔してる。まあ、意外だろうね。僕って他人とは壁作るし。


「……お前、結構辛辣なんだな。俺にだけかと思ってたけどよ」

「そんなことないよ。僕はクラスメイトなんて、学力的に同じやつか、家から近かったから選んだやつの集まりとしか思ってないし。要は他人ってこと。僕は他人に何を思われても興味ない。僕は自分と気の合う友達との時間を大切にしたいし、できる限り一緒にいたい。他の有象無象なんて無視が1番」

「そうだな……俺も大切にしたい人ができるといいけどな」

「できるさ。探そうとも思えば絶対に1人はいるよ」


 これは同情じゃない、本心だ。前の鎌犬だったら、そうは思わなかったけど、今の鎌犬ならできるって思うよ。


「そうか……お前が……いや、狼太がいうならできそうだ」


 少し照れながらも鎌犬は笑った。


「じゃあ、そろそろいこっか。たぶん、サクラが待ってるだろうし」

「そうだな。なあ、最後にひとつだけ聞いていいか?」

「別に最後じゃなくていいよ。僕たちもう友達だろ、偉央利イオリ。僕のこともアキラでいいよ」

「……!いいのか?」

「僕がいいって言うんだから、いいんだよ」

「……ありがとう、アキラ」


 彼は安堵して、嬉しそうに笑った。うん、やっぱり人は笑顔が1番素敵だ。


「んで、聞きたいことって?」

「いや、何で許してくれたのかなってさ」

「ああ、それ。イオリの入れてたバンドの曲、僕もお気に入りなんだよね。だからかな」

「……アキラ、それってよ」

「うん、バンド好きに」

「「悪いやつはいない」」


 僕たちの声がハモる。僕たちは腹を抱えて笑った。

男の友情は拳から始まることもある。本音でぶつかり合える友達がいるのはいいことでしょ。


「イオリ、容姿もいいし、歌も上手いし、低音の歌声もいいし、歌手を目指したら? 結構うまくいく気がするよ」

「んだよそれ、適当に言ってるだろ?」

「言わないよ、僕はお世辞嫌いだし。さっきので分かったろ?」

「まあ、そうだけどよ」

「せっかく生まれ変わるならさ、新しいことでも始めてみなよ。楽しいよ、きっと」


 難しい顔をして考え込んで、苦笑しながら答えるイオリ。


「そうだな……。まあ、考えてみるわ。それよりもよ、今度一緒にライブいかねぇか? 友達にインディーズのバンド好きなやついなくてよ」

「おおー、いいじゃん! めちゃくちゃ楽しみだよ」

「はは、じゃあ決まりな」

「うん。僕、一回しか行ったことないし、自分の好きなバンドはまだライブ行けてないんだ」

「いったことねぇのかよ。アキラが歌ってたバンド、めちゃくちゃライブ映えすんだよ」

「うわ、なにそれ、超楽しみ」

「だろ?」


 僕たちは、結局部屋に戻っても共通の話題で語り出す。

サクラは珍しく驚いた顔をしてたけど、僕達の会話を聞いてすぐに受け入れた。


「男の子って、不思議だ〜」

「はは、腹を割って話せば大体友達だよ」

「たしかにな」

「ふふ、ヒマワリちゃんが驚きそうだね〜」

「あ、ヒマワリにはちゃんと謝ってね。あと、タイキにも。いいね、イオリ」

「ああ、しっかり頭下げるわ」

「ふふ、イオリ君もいい子だ〜」

「その、ありがとな、サクラも」

「どういたしまして〜」


 僕が名前で呼んだからか、もしくはサクラもイオリの変化に気が付いたのかは、分からないけど、名前呼びをすることになった。


 その後、部屋替えがあるまで、3人でバンドの話で盛り上がった。僕も驚いたけど、サクラってロックバンドが好きみたいだ。3人で歌うインディーズのメドレーは、正直めちゃくちゃ楽しかった。


 1度目の入れ替えで、いつメンの男とイオリが集まり、残りはクラスメイトの女子。なぜかタイキは疲れ切ってる。きっと、ヒマワリにいろいろ聞かれたんだろうなって想像できる。


 僕がイオリの名前を呼ぶと、2人は驚いた後に小さく笑う。イオリは、タイキに噂を信じてゴメンと謝っていた。タイキは、慣れてると言った後で、手を差し出した。


「タイキでいい。よろしくな、イオリ」

「……友達になってくれるのか」

「ああ。アキラが認めたなら、それでいい。男は拳で語り合った後、友になれる」

「はは、なんだよそれ」


 苦笑するイオリに、コウキが肩を組む。


「タイキの言う通りだ! 本気でぶつかり合えば、友達になれるんだよ!」

「武道と格闘技をやってる2人がそう言うんだから、そうなんじゃない?」

「そっか……タイキ、これからよろしくな。コウキも」

「ああ」

「おう!」


 2人はイオリと握手して、改めて友達になった。こうして交友関係が増えることは、とってもいいことだと思う。


「男達、話し合い終わった? 誰から歌う?」


 女子が声をかけてきた。どうやら、タイミングを見計らっていたらしい。お気遣いに心の中で感謝する。


「よっしゃー! 一番手は俺だーー!!」

             

 コウキがマイクを奪い取って、豪快に洋楽ロックを歌い始める。コウキはロック系が大好きで、日本と海外の王道系を幅広く聴いてる。今回は、みんなが知ってる曲に合わせる。こういうことができるから、コウキは人気なんだろうなと感じる。みんなでコウキの歌に合わせて乗る。


 僕はロックバンドが好きだから、それ以外はあまり聞かないけど、やっぱり音楽っていうのはいい。

なんていうか、みんなの心が合わさる感じが好きなんだよね。


 僕は、いままで聞いていなかったジャンルにも手を出してみようかと密かに思った。


 タイキはバラード系が得意で、彼の低音の声と相性がいい。女子達も、タイキの意外な面に驚きながらも、曲に聞き入っているのか、感動していた。


 イオリと僕は、互いの共通点のおかげで、自分の入れたい曲を入れることができた。

やっぱり、誰かが知っていると、遠慮なく歌えて楽しかった。イオリは、ライブで聞いたアレンジを入れてて、それが非常にかっこよかった。絶対、ライブに行こうと誓った。


 この部屋での楽しい時間は一瞬で過ぎた。


 最後の部屋入れ替え。


 最後はヒマワリ、ユリと被った。コウキとイオリも一緒だ。タイキはサクラと一緒になって安堵していた。


「あー、よかった……。やっぱりコウキの隣が落ち着くよ……」

「なんかあったの?」

「さっきの部屋、私とヒマワリとサクラが一緒でさ。後は男だけだったから、質問責めに、アピールとか、なんか色々面倒だったのよ」

「おかげで、さっきの部屋は、ほとんど歌えなかった……」

「そりゃ、災難だね。ここでは、思いっきり歌うといいよ」


 がっくりした状態から、ぐんと背筋を伸ばして目を輝かせるヒマワリ。


「それもそうだね! よっしゃー、歌うよー!!」

「っしゃー! 俺もまだまだ歌うぜ!」

「元気ね、あんたたち」

「はは」

「……」


 イオリが様子を伺ってる。まあ、サクラから事情は聞いてるはずだし、僕が誘導するか。


「僕喉乾いたから飲み物とってくるけど、みんなはどうする?ついでに、とってくるよ」

「あ、じゃあうちも行く!」


 イオリと目があったので頷くと、イオリも頷いた。よし、これで準備完了っと。


 ヒマワリを連れて、人数分の飲み物を取りに行く。みんな、ヒマワリに気を使ったのか、全員がお茶と答えた。コウキとユリは、遠慮なく好きな飲み物言ってたけど。


 ヒマワリは機嫌がいいのか、鼻歌を歌いながら飲み物を入れてる。


「ご機嫌だね」

「そりゃね! ようやくアキと一緒の部屋になれたし! サクラに聞いたよ、歌上手いんだってね! 楽しみ!」

「そんなことないよ。たぶん、普通くらい」

「またまた〜、動画で聴いたもん!」

「……サクラは仕事が早くて優秀だね」

「はは! そうだね!」 

「水精……ちょっといいか」


 後からイオリがやってくる。僕たちの会話が終わるまで待っていたようだ。

ヒマワリは少し驚いて、イオリと向き合う。


「えっと、どうしたの鎌犬君」

「いままでごめん。その……しつこかったろ俺。これからは距離をおくからさ、安心して欲しい」

「おお……サクラの言う通り、本当に話しやすくなってる」

「え?」


 ヒマワリは、にっこり柔らかく笑いながら、話し始める。


「鎌犬君、アキと友達になったんだよね。男の子って不思議、喧嘩したのに仲良くなるんだもん。

……うちね、鎌犬君のことちょっと苦手だったの。一方的に話しかけてくるし、なんかギラギラしてて、仲良くしづらかったけど、今はなんか丸くなった!」


 ヒマワリはやっぱり正直者だし、人を良く見てる。ししと笑う彼女を見てると、温かい気持ちになれる。


「……アキラのおかげだ。本音をぶつけてくれたからよ」

「ふふ、アキは人を変える不思議な力でもあるのか?」

 

 覗き込むような上目遣いで僕を見るヒマワリに、僕は首を横に振る。


「そんなものないよ。イオリのいいところが出てきただけだよ」

「そっか。 イオリ、うちもイオリと仲良くしたい! アキが言うんだから、うちもイオリと友達になれると思う。だから、距離おかなくていいよ!」

「……ありがとよ、水精」

「ヒマワリでいいよ!」

「分かったよ、ヒマワリ。これからよろしく」

「うん! よろしく!」


 こうして、イオリの謝罪は終わり、僕たちは部屋に戻った。


 2時間も歌ってたのに、みんな割と元気に歌い続けてる。僕たちも、もちろん制限時間まで楽しんだ。


 ヒマワリは、流行りの曲を聴くミーハーなんだと笑っていた。でも、大半の人がそうだと思うし、僕は全然いいと思う。心に刺さる歌は、人によって違うしさ。


 ヒマワリの歌声は元気いっぱいって感じで、歌うことを楽しんでる姿が魅力的だ。

彼女の笑顔の周りにオレンジ色の小さな花が咲いている気がする。漫画とかアニメでは良く見るけど、まさか自分がこんな幻覚に襲われるとは思わなかったなぁ。


 ユリは最近流行りのアイドルの曲だ。そう言う感じをまったく出さないから、すごく意外だった。


「アイドルの曲好きなんだね。なんか結構意外。」

「ふふ、でしょうね。曲じゃなくて、アイドルも好きなの。わたしも、正直好きになるとは思ってなかったし。引いちゃう?」

「なんで、引くわけないでしょ」

「はは、アキラならそう言うと思った。コウキも同じこと言ってくれたし。でも、意外と引かれたりするのよ。人の趣味にとやかく言うやつって嫌よね。わたし、自分にないものがある人って魅力的に見えるの。だから、笑顔が輝いてるアイドルが好きなの」


 分かるな、その気持ち。僕は隣で楽しげに歌うヒマワリをついつい見てしまう。ハッとしてから、ユリに賛同する。


「なるほどね。ユリの気持ちすごく分かるよ」

「そうなの?」


 どうやら意外だったようだ。僕だって自分にはない特徴がある人達を見ると羨ましくなる。ロックバンドも、情熱を燃やして歌ってる姿がかっこよくてハマったんだ。


「そうだよ。僕がロック好きなのも、似たような理由だよ」

「確かに、アキラがロックを聴くのは予想外だったわ。意外と似てるのかもね、私たち」

「そう言ってもらえると、なんか少し嬉しい」

「そ、ならよかった」

「つぎ、アキラだよ!」

「ああ、ありがとう」


 僕が歌うと、ヒマワリはノリノリで手を振ってくれた。片手にはしっかりスマホを持っているので、本当に動画を撮っているのだと思う。物好きな人だと、心の中で苦笑する。


 ヒマワリは、僕が歌い終わると大きな拍手をくれた。おお、意外と嬉しいものだな。

距離をぐっと詰めて隣に座るヒマワリ。こういうのも意識してないんだろうなって思う。


 本当に、心臓に悪いよ。


「ねえ、今度みんなでカラオケ行こうよ! みんなで騒ぎたい!」

「いいね、やろうか」

「うん!」


 最後までカラオケを楽しんだ僕ら。結構遅くなっちゃったので、これで解散することになった。

コウキ達とは、ここで別れて、僕とヒマワリ、イオリと一緒に電車で帰った。


 最初はぎこちなかったイオリも、いまではすっかりヒマワリと仲良く喋っている。


 喧嘩した後に、仲直りするのも学生の特権だと思う。


 


イオリ、好きなんすよね

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