クラス会
いよいよ、クラスメイトと集合するために、ショッピングモールとは反対側の出口に向かう。
クラスメイトの8割くらいの人数が集合していた。どうしても用事がある人もいるので全員参加とはいかなかったみたい。
コウキが声をかけると、みんなが反応してコウキに声をかけていく。ヒマワリ達が、クラスメイトの元に向かうと、今度はヒマワリ達にクラスメイトが集まる。
おお、体育祭が盛り上がったおかげか、クラスのみんなの雰囲気がよくなっている気がした。
ヒマワリ達も、なんだかクラスにいる時よりも楽しげに見える。
そんな中でクラスの輪に入りつつも、ヒマワリ達に話しかけない人物が1人。僕を見て気まずそうにしている。まあ、体育祭の時も、結局お互い顔合わせなかったしね。
クラスの輪に入ってない僕たち。タイキが遠慮すると思ってそばにいるって言うのは建前。
きっと、タイキは僕と鎌犬の関係を気にして、あえてそばにいてくれるんだろう。サクラのおかげで、最近クラスメイトから声をかけられていることを僕は知ってるからね。
一年前の僕たちは、色々変わってきてるんだなって実感する。
タイキは、僕の近くに寄ってきて小声で話しかけてくる。
「見てるな」
「僕と同じようなことしてない?」
「ふ、長い時間共にすると、似るってよくいうだろ」
そんなふうに笑ってくれると、僕も少し嬉しくなる。
「ああ、らしいね。コウキとは似てないけど」
「コウキと俺は、タイプが真逆だから無理だ」
「はは、確かにね。似るって言っても限度があるか」
僕たちが話していると、クラス委員がお金を集め始める。
先払いなので、ここで集めてからカラオケに向かう。ぞろぞろとカラオケ会場に向かう。
僕たちは最後尾についていくと、ヒマワリとサクラが戻ってくる。コウキとユリは色々な人たちから話しかけられていて、こっちに戻ってくる気配はない。
ヒマワリはふぅと息を吐いて、僕たちに話しかける。
「いやー、やっぱりアキ達の近くが落ちつくよね!」
「そうだね〜、たくさんの人と喋るのもいいけど〜、やっぱりここが1番〜」
「そう言われると、嬉しいよねタイキ」
「ああ、そうだな」
そのまま僕たちは目的地まで喋り続けた。カラオケ前に、くじ引きで場所を決めることに。
さすがに、大部屋は取れなかったらしく、3部屋に分けるそうだ。
ヒマワリはあからさまに嫌そうな顔をする。
「えー、クジか……」
「まあまあ、そうなるって」
「それは……少し困るな」
「大丈夫だよ〜、わたしとタイキ君は一緒になるって〜」
すごい自信だな。引き寄せの法則的な?
まあ、最近タイキは怖がられてないし、僕たちから離れても大丈夫でしょ。
「はーい、じゃあアプリから阿弥陀クジするよー。番号選んでー!」
ということで、番号を選んだ結果。
僕とサクラ、タイキとヒマワリ、コウキとユリが、それぞれペアで別れた。
サクラはあれれ〜と顔を捻っている。なんだか面白い。
まあ、でも笑ってる状況じゃないんだよね〜。なにせ僕は、もっとも望んでいなかった結果になったんだから。
これは、僕が引き寄せたって感じかな……。
部屋に入る前に、トイレに行くことをサクラに伝えてから、一旦部屋から離れる。
自分で選んだこととは言え、こんなにすぐに直面するかね……。ため息を吐いていると、後ろから服を引っ張られる。
ヒマワリだった。あまりのことに、驚いてしまった。
「ヒマワリ?」
「あはは、少し心配でさ。ねえ、うち場所変わろうか?」
「いや、さすがにそれはいいよ」
ヒマワリが不安そうな目で見るから、つい頭を撫でてしまう。
そして、2人して同時に声が出る。
「え?」
「あ」
僕は何をしてるんだ! なんか、こうつい頭を撫でたくなるような位置にいたもんで……。
いや、言い訳はいいから、早く謝れ僕!
「ごごごご、ごめん! なんかつい!」
「い、いや。これは、これで……ううん、なんでもない! 大丈夫!」
これはこれで? うん、この件に関しては触れないでおこう。
「じゃあ、また後で。楽しんで」
「うん、アキもね!」
とりあえず、トイレには本当に行きたかったので、用を済ます。
部屋に戻ると、さっそく鎌犬が歌っていた。
うお、これ僕のお気に入りの一つに入ってるインディーズバンドの曲だ。嫌なやつだけど、曲のセンスはいいな。……何事もなかったから、友達になれたかもなんて思う。
サクラが僕に気がついて、とんとんと自分の席の隣を叩く。どうやら僕は角席のようだ。1番遠い場所に鎌犬がいる。
「もしかして、気遣ってくれた?」
「いちおうね〜、まあ、でも余計なお世話だったかな〜?」
「いや、そんなことないよ。ありがとう」
「いえいえ〜。あー、そうそう。ヒマワリちゃんからアキラ君の歌ってる動画ちょうだいって言われたから、動画撮るね〜」
「そこは、気を使って言わないで欲しかったな……」
「あらら〜、ごめんね〜」
「はは……」
順番に歌っていくので、僕たちの順番もすぐにきた。
サクラって、落ち着きのある声だけど、音の高い歌声で歌う彼女の姿は新鮮だった。それにしても、いい声だな。リピしたくなる。終わった後は拍手喝采で、みんなが彼女に夢中だ。
サクラがみんなと話してる間に、僕がハマってるインディーズの曲を入れる。知ってる曲だと乗らないとってなるけど、知らない曲なら乗れないよね?
ストレス発散に歌ってると、意外とスッキリするもんだなと実感する。ああ、このバンドは最高だ。こう、歌詞も伴奏も魂に響く。ネットでライブ映像見たけど、ライブで生きるロックバンドって感じなんだなと思った。今度ぜひ、行ってみようと思う。
歌い終わってマイクを置くと、サクラが話しかけてきた。
「アキラ君って、バンドの歌好きなんだ〜」
「って、聞いてたの? てっきり聞いてないかと思ってたのに」
「ちゃんと聞いてるよ〜。ほら〜動画もバッチリ〜」
歌に集中してて気がつかなかった。それにしても、あんなに話しかけられたのに動画撮る暇あったのかな?
「……ねえ、みんなの話聞いてた?」
「……えへへ、聞かれたくないことだったから〜、いいかなって」
「意外とはっきり言うよね、サクラって。そういうところが、好感持てるけど」
「ありがと〜。タイキ君と同じこと言ってくれるね〜。似たもの同士だね〜」
「はは、1年間一緒にいるからね。意外と似てくるもんだよ」
「そうなんだね〜」
タイキの話で盛り上がる。結局、タイキがいなくてもタイキの話題になるサクラ。
前から思ってたけど、絶対タイキのこと好きだろうな。本人が自覚してるかしてないかは、分からないけどね。あんまり触れても無粋なので、聞かれたら答えることにしよう。
飲み物ばっかり飲んでると、トイレにいく回数が増える。
トイレから出てくると、まさかの人物が目の前に座っていた。
んー、無視するかしないか……。でも、謝りたいこともあるし、先に謝るか。
「足、大丈夫? 思いっきり蹴っちゃってごめんね」
僕が先に謝ると、彼はバツが悪そうに頭を掻いている。
「……俺の方こそ、殴って悪かった。つい、カッとなっちまって」
おや、意外と素直じゃないの。不器用に謝った彼の隣に座る。
「それはもういいよ。喧嘩買った僕も悪かったし」
「……サンキュー」
「あと、友達のことも悪く言って、ごめんね。」
「いや、いいんだ。実際、薄っぺらい関係だしよ。お互い会えば、誰かの悪口ばっかりだ」
「それは……なんというか、やめた方がいいかもね」
「ああ、そうだな……」
うーん、いっそのこと聞きたいこと聞くか。
「ねえ、話は変わるけどさ、君って本当にヒマワリのこと好きなの?」
「……人としては好きだけど、恋愛の好きじゃないな。利用しようと思ってたんだろうな。お前に言われてから気がついたよ」
ここで僕がやっぱり君は最低だねと言うのは簡単だ。でも、彼がこうなってしまったのには原因があるのだろう。ちょっと悪い感じの容姿だけど、イケメンなのには変わりないし。周りからの評判はそれほど悪くないはずだ。おとなしい人たちが、陰でボソボソ言ってるのは聞いたことあるけど。
もう殴り合った関係だし、正直に話すか。
「そう。まあ、このまま成長しなくて良かったんじゃない? 容姿だけで生きていったら、相当痛い人間になってたろうし」
「確かにな。なら、俺が変わろうとしてんのもお前のおかげってことだ。その、ありがとうよ」
うん、やっぱり根はいい人なんだろうな。せっかくなので、このまま突っ込んでみる。いやなら、拒否するだろうし。
「ねえ、気になったんだけどさ、顔はいいんだし、みんなからはチヤホヤされてるよね。 結構可愛い子からも声かかってそうだし、ヒマワリにこだわる必要なかったんじゃない?」
彼は無言のまま下を向く。一度深く呼吸してから、静かに語り出した。
「……正直に言えば、高嶺の花々なら誰でも良かった。水精が1番落としやすそうだから、接してただけだ。誰にでも愛想がいいし、顔も良かったから、いけると思ったんだ。」
「なるほどね〜」
「最低なやつだって思わないのか?」
「え、思ってるけど?」
「……だよな」
ため息を吐いて、さらに姿勢が低くなる。完全に反省してる感じだな。反省してる中で自己嫌悪に襲われてそう。まあ、反省してるなら、やっぱり悪い人ではないんだろう。
「君ってさ、自分の行いを反省できるし、根はいいやつだって話してて分かったよ。だからこそ、気になるんだけど、なんでそんなに捻くれちゃったの?」
「……両親に見放されたんだ」
あー、親が原因のタイプか。それは根深いやつだ。彼は、そこから自分の心の声を漏らしていく。
「俺には兄ちゃんと姉がいるんだけど、2人とも俺なんかよりもよっぽど優秀でさ。両親から兄ちゃんと姉ちゃんは優秀なのに、あんただけ、おまえだけ何でこうなったって、遠回しに言われ続けてたんだ。」
「うわ……きついね、それは」
「ああ、かなりきつかったよ」
両親は子供にとって唯一の味方のはずだ。自分たちで子供に恵まれるために行為をしてるはずだ。中には、できちゃっただけの人もいるだろうけど。彼の両親の場合は、子供が3人もいるなら、子供が欲しいから産んだはずなのにね。なぜ傷つける行動をとったのか不思議だ。
「中学3年までは頑張ってたんだ。偏差値の高い高校にさえ受かれば、両親も俺を認めてくれるってよ。前期の試験に落ちて後がないって時に、聞いちまったんだよ。あいつには無理だろって会話をさ。……本当に最悪だった。何もかもどうでも良くなって、この高校に入ったんだ。部活も続けるつもりはなかったけど、中学が同じやつに誘われて、何となく入っただけなんだ。」
だから顔がそんなに腫れなかったのかなんて、どうでもいいことで現実逃避したくなるほど、結構重い話だった。
逃げ出したくなった僕に対して、彼は容赦無く言葉を放つ。
「適当に練習してるだけなのに、一年でスタメンを貰えるほど運動神経は良かったし、容姿も良かったから、周りが勝手に俺の評価を上げてきて、気がついたら周りの人間からチヤホヤされてた。だから、努力するやつのことを馬鹿にし始めた。スクールカーストで底辺のやつのことも、馴染めない可哀想なやつだって見下してた。気分が良かったよ……適当に生きてるだけで、周りからチヤホヤされてよ。空いた穴が埋まっていったんだ。……でもよ、なんかそれだけじゃ虚しくてさ。だから、高校で有名なあの3人の誰かと付き合いって思ったんかな。そうすれば、きっともっと満たされるってさ。なのに、あの3人は、俺を拒んだ。今思えば当たり前だけどな」
なるほどね……。愛情に飢えていた彼は、周りからの評価に支えられてたって感じなのかな?
まあ、だからって、それを優しく擁護してあげることはしないけどさ。
「そうだね。だから、ヒマワリも君と仲良くならなかったんじゃないかな。言ったろ。あの子、ただ明るくて可愛い子じゃなくて、人を良く見てるって。バレたんだよ、きっと」
「そうだろうな……俺は、これからどうすればいいんだろうな。」
独り言のような、自分に言い聞かせるような問いかけに、僕はなんて言えば正解なんだろうかと一瞬考えた。
彼の心に寄り添う言葉なのか、ただ優しく彼を肯定する言葉なのか。
どれも違う気がした。それは上辺であって、僕の本音じゃない。
本音には本音で返す。
それが、礼儀だと思った。




