いつものメンバー
翌日
朝は、筋肉痛と顔の痛みと共に目が覚めた。あー、痛い……。思ったより腫れてないけど、痛いもんは痛い……。まあ、男の勲章ってことにしよう。ちゃんと見ないと分からないし、大丈夫だ。
朝起きて、母さんと父さんに心配された。まあ、そりゃそうか。騎馬戦でぶつかったということにしておいた。父さんには嘘がバレてそうだけど、母さんはあらあらと、いかにも痛そうという目で見てくる。
「念の為、病院で見てもらおう」
「そうしましょう。何かあったら大変だもの」
「じゃあ、バイクで……」
「「車に決まってるでしょ!」だろ」
「あい……」
怒られた後で思い出す。メガネ、壊れてるんだった……。怒られ損だ。
念の為、病院にいくことに。日曜日の午前中でもやっている病院があったので、そのまま病院に。
集合時間には間に合いそうにないので、少し遅れると連絡しておいた。
特に問題はないとのことだった。色々と手当てしてもらってから病院を出た。
1週間から2週間くらいで治るようなので様子見だって。もし、治らなかったら、もう一度受診しないといけないようだ。まあ、たぶん大丈夫でしょう。
父さんに、集合場所の駅まで送ってもらった。場所はコウキ達の最寄り駅で、大型のショッピングモールがあるところだ。学校のある駅前だと、今日はどこも混み合う予定だから、ここにしたらしい。3駅くらい離れれば、意外と団体の予約も取れるそうだ。
送ってくれたお礼を言ってから出ようとすると、父さんに声をかけられた。
「アキ、今日寝る前に、父さんの仕事部屋にきなさい。分かったかい?」
「あ、うん、わかった」
「よろしい。じゃあ、楽しんでおいで」
「無理しちゃダメよ?」
「うん、ありがとう、父さん、母さん」
きっとこの後2、人でデートだろうなーなんて思いながら、手を振ってからみんなのところに向かう。
フードコートはほぼほぼ席が埋まってる。お昼頃だからね、これは仕方がない。みんなは同じ場所にいるのかな。グループに連絡すると、ヒマワリから個別で連絡がきたので、指定された場所に向かう。
辺りを見渡して探してると、ヒマワリが手を振ってくれた。
今日もボーイッシュスタイルのヒマワリ。うむ、今日も可愛いな。可愛いねって言ってみたいよくにかられる。でも、まだ恥ずかしくて言えない。考えて言おうとするとダメだな。
「あ、こっちだよーアキ! うわ、顔腫れちゃったね……大丈夫?」
「うん、見た目よりひどくないから大丈夫、ありがと。ところで、みんなは?」
「みんなは別の席。流石に6人同時は無理でさー。3組で分かれたの」
まあ、流石にそうか。というか、なんかそれってデートだよねもはや。コウキとユリはなんとなく想像つくけど、個人的にタイキとサクラの会話がすごく気になるな。
って、僕が来るまで待ってたのか。悪いことしたな。
「そっか、待たせてごめんね」
「いいよ! それよりも本当に無理してない?」
「本当に大丈夫だよ、ありがと。せっかくだし楽しもうよ」
「そう、だね! せっかくだし、2人で見てまわろ?」
「了解」
2人で食べたいものを注文していく。お弁当のお礼として、お昼ご飯は僕が奢った。ヒマワリは気持ちのいい笑顔で受け入れてくれた。
朝ごはんをたらふく食べたし、人目があるから、いつもより少なめに注文した。ヒマワリはそれを見て、また心配してたけど、目立ちたくないしねと言ったら、いつものアキだと笑ってくれた。
まあ正直、ヒマワリと並んでる時点で目立ってるんだけど、それは気にしない。それでもヒマワリの隣にいたいという気持ちが、僕のちっぽけな思いとは比べ物にならないほど勝っているからね。
2人で注文した料理を食べる。途中、ヒマワリが僕のご飯を羨ましそうに見てたので一口お裾分けした。
「ハンバーグとオムライス……なんて贅沢!」
「デミグラスソースもどうぞ〜」
「嬉しい! うちのオムライスもあげる! はい、あーん」
え……これガチ? ヒマワリ、気づくんだ……ここには人目が!
というか、人目どうこうじゃなくて、普通に照れる!
なぜハテナマークを頭に浮かべてるの、ヒマワリ……。
「ん、どったの? 早く食べてなよ!」
ええーい、ままよ!!
「い、いただきます……うん、うまい」
「でしょー! ここのオムライスは絶品だよ! うーん、ハンバーグとオムライス美味しい!」
「はは、それは良かったよ……」
神様、この可愛い鈍感っ子にお花をあげてください。
でも、少しだけ悲しい気持ちになる。
……僕はなぜ傷ついているんだ。彼女は善意でしてくれたんだから、傷ついちゃダメだ……。男として意識されてないかもなんて、思っちゃダメだ……。
その後、ヒマワリの要望でデザートを食べにいくことにした。クレープを食べながら連絡を待っていると、どうやらフードコートから離れて、ゲーセンにいるようだ。
「ゲーセンに向かったみたいだよ」
「ん、じゃあ食べ終わったらいこう! ねえ、アキのもちょうだい!」
「……はい、どうぞ」
「うん、ピザクレープも美味しいね! 甘いとしょっぱいで無限に食べれそう!」
「あんまり甘すぎなければ僕も好きだよ、その組み合わせ」
「え、アキもやるんだ! どれとどれ食べるの!?」
「え、カカオ72%とコンソメポテチ」
「えー!! それって苦いとしょっぱいじゃん! ウケる!!」
「美味しいんだけどな」
くすくす笑う彼女は、口元にクリームをつけてる。なんだか、どうでもよくなった僕に悪魔が囁いてる。
さあ、やるんだ。あれは、チャンスだ。
心が思うままに、僕は手を伸ばす。
「!?」
「うん、甘いものもたまにはいいね……どしたの?」
「お、え、いや……な、なんでもない!」
「そっか。 確かに甘いとしょっぱいは合う」
「で、でしょー!」
ヒマワリは真っ赤な顔をして、目がキョロキョロ動いている。
軽く仕返ししたつもりだったけど、なんだか悪いことをした気分になってしまう……。
ごめん、ヒマワリ……でも、つい意地悪したくなっちゃうんだ。
男子小学生のような考え方にうんざりしつつも、彼女の照れた顔を拝めたことに感謝する僕であった。
みんなと合流すると、やはり顔のことを尋ねられた。鎌犬が僕を殴った事実を伝えていることだろう。
なぜそうなったかの経緯を話してはいなかったので、みんなに流れを説明する。
ユリ達は黙り込み、後ろには阿修羅の姿が見える。僕は喧嘩をした鎌犬よりも、ユリ達のほうが怖いと感じてしまったよ。
怒るユリ達に、売り言葉に買い言葉だったの、最終的にはどっちも悪かったことを説明する。確かに喧嘩を吹っかけてきたのは、向こうだけど、それに乗った僕も悪い。
「うし、とりあえず今日のカラオケでスッキリさせようぜ! 部屋は三つくらいに分かれるだろうけど、一緒にいれば楽しめるだろ?」
「確かに、コウキのいう通りだ。せっかくだし、今日は楽しもうよ」
納得はしてなかったけど、張本人の僕がお互い様と言っているので、みんなはこれ以上何も言おうとはしなかった。みんなのこういうところが、好きなんだよね。この流れなら鎌犬の悪口三昧だけど、言葉を飲み込んでくれた。それに、コウキがいい感じに流れを変えてくれたおかげだろう。
「そうだね! あ、うちプリ撮りたい! この前、撮り忘れちゃったし!」
「おお、いいね! 俺やったことないから楽しみだ!」
「へー、意外。あんたとってそうなのに」
「ふふ、タイキ君の目が大きくなるのみてみた〜い」
「う、うむ」
「男子諸君も可愛くなっちゃうかもね!!」
「はは、それは楽しみだね」
コウキの流れに乗ってくれたのはヒマワリだ。おそらく、この件に関して1番気になるはずなのに、こうしてみんなを笑顔にしてくれる彼女は、やっぱり素敵な人だ。
プリクラを撮る前に、一旦ヒマワリ達がトイレに向かった。ついでに、僕たちも向かう。
待っている間、コウキがニヤニヤした顔で僕たちを見てきた。
「なに、コウキ?」
「いやー、大胆だと思ってよ! あんなところで2人ともアーンしてもらってるなんてさ!」
「グフ!」
「グ……」
2人とも……? ガッと、お互い同時に顔を見る。
「先攻は!?」
「サクラだ……」
「友よ!」
「あはは! 仲良いな!」
僕たちは互いに握手を交わした。 まあ、僕は反撃したけど、タイキは流されるままだったろうな。
コウキのところはどうだったのかな? 興味があるので聞いてみた。
「コウキ達は、なにかそういうイベントあった?……いや、でもコウキは自分で起こすタイプか」
「お、正解! 美味しそうって言ってたからな!」
「ああ……ユリが顔真っ赤にしてるのが、想像できるよ」
「うむ」
「よく分かったな!」
ヒマワリとコウキってタイプが似てるもんな……。悪戯心とかじゃなくて、善意だから断りづらいんだよね、きっと。
なんか、そう考えると、僕ってクズなのでは? ……考えたら負けだよね。気にしないことにしよう。
あーん事件のことは、忘れたくても忘れられそうにないので、いい思い出として心の奥の片隅に隠しておこう。
ヒマワリ達が戻ってきてから、一緒にプリクラを撮りに行く。
女子とカップルの聖域って感じがして、近寄れないんだよね。男だけでいく勇者も中にはいるらしいけど、もはや尊敬すらする。
お馴染みの機械があるらしいので、それはおまかせする。
プリクラ代は男の僕たちが払うことに。お弁当のお礼と伝えると、快く受け入れてくれた。6人で写真を撮ったり、男と女で別れたり、カップルみたいに2人組で撮ったりと、結構な時間をプリクラに使った。
ヒマワリの隣は、居心地のいい感じだったけど、2人と並ぶとすごく緊張した。
にしても、高嶺の花々とツーショットのプリクラとは、なんだか凄く贅沢だ。……でも、この目はどうなんだろうか。大きすぎて、ちょっと怖いんだけど。
「あはは! タイキの目おっきい!!」
「これは……見るに耐えないな」
「え〜、とってもかわいいよ〜」
「僕なんて、デカ目と腫れた頬で、ただの怪我人みたいだよ……」
「ぶ! おもろいこと言うなよ!」
「っ! 笑って、ふ、いいのか、迷うわね」
「……ユリ、思う存分笑ってくれた方が助かるよ」
僕の発言の後で、みんなが笑いだす。これもまた、僕の大切な思い出の一つになる。
怪我をして嫌な気持ちになったけど、支えてくれる、一緒にいてくれる大切な友達がいてくれるだけで、こんなにも満たされるんだなと、改めて思った。
クラスメイトとの集合時間になるまで、ショッピングモールをうろついた。
夕方頃、小腹が空いたので、まてしたもフードコートでお世話になることに。
夕方の中途半端な時間だったから、ちらほらと空席が見える。奥の席が、4人席と4人席が空いていたので、ありがたく3人ずつで座ることに。席が隣なので、くっつける必要もない。
夕食にしては早すぎるので。みんなでハンバーガーや大量のフライドポテト、たこ焼きを頼んで席に着く。もちろん、男達が奢った。さすがに奢ってもらいすぎと言われたけど、僕たちの気がすまないと押し切りお金を受け取らなかった。
みんなでわいわい雑談しながら、集合時間まで時間を潰した。




