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青春の代償

 借り物競争も終わって、クラスに戻る。

タイキと僕は離れて、囲まれているヒマワリ達を眺める。


「大変なことになってるね」

「……アキラ、睨まれてるぞ。あいつが、関係してるのか」


 あー、まだやる気なんだ。懲りないね。

それにしても、よく分かったなタイキ。


「よく分かったね、タイキ」

「アキラの真似して、周りを観察する様になった。視野も広がったし、意外と役立つ」

「はは、なにそれウケる」

「ふ、口調がヒマワリのが移ってるぞ」

「あー……あはは、まいったな」

「ふ、アキラが照れるとはな。いいものが見れた」

「からかうなって」


 タイキと談笑していると、お昼前の最後の種目が始まるので、アナウンスが入った。


 男子組と女子組に分かれて、応援団とダンスの披露だ。


 ちょっと、面倒だけど、適当に合わせればいいだけなので、時間が過ぎるのを待つ。


 ささっと、男組を終わらせて、女子組、主にヒマワリ達を待つ。


 これ、クラスの前でやるから嫌だったけど、ヒマワリ達も見れるからありがたい。


 

 一生懸命で楽しそうに踊るヒマワリを見て和む。

サクラは少し遅れながら踊り、ユリは暑さのせいで不機嫌そうに踊ってる。


 それでも、完璧に踊る姿は様になるな。


 

 それぞれの演技が終わり、お昼休憩になった。

いつも通り、6人で食べようと集まる。


「じゃじゃーん、作ってきました!」

「わたしも〜」

「いちおう、私も作った」

「ええ! ありがとな!」

「ありがとう」

「うわー、凄いね、ありがとうヒマワリ、サクラ、ユリ。……にしても、凄い量だね」


 大量の料理が並べられてる。張り切って作ってくれてたんだろうな


「朝から大変だったでしょ?」

「えへへ、うちはおにぎりしか握ってないから、料理苦手で形もバラバラだし、具がどこにあるか分からない! 具はね、ツナと梅と昆布!」

「わたしは〜サンドイッチ〜。挟むだけで楽ちん美味しい〜。」

「私はおかずがメイン。ヒマワリが料理苦手なの知ってるし。まあ、唐揚げは冷凍だけど、他は作ったから」

「ありがと〜ユリ! 助かるよ!」


 どうやら、それほど大変じゃない素振りだけど、キッチンに入ってるからわかる。


 これだけの量だし、おにぎりだって熱いから冷めるまで時間かかるし、意外としっかりと握らないと形が崩れるから大変なんだ。ツナマヨだってそれなりに量がいる。梅干しもチラリと見る限り、種はとってある。すごく丁寧だな。ちゃんと海苔まで巻いてるからね、すごいよ。


 サンドイッチも量が凄いし種類で、肉と野菜もふんだんに使ってる。後、デザート系もある……お店みたいなクオリティだ。


 おかずもすごいな。……は2種類の卵焼き、ポテトサラダ、ほうれん草のおひたし、野菜炒め、生姜焼きまである。ちゃんと栄養も考慮してある。好きそうな物ばかりだ。唐揚げは冷凍って言ってたけど、これだけ作ればそうなるよ。むしろ、冷凍なんて入れなくてもいいくらいのクオリティだけど。


「すげーな、全部うまそうだ!」

「不味くても、文句言うなよコウキ」

「言わねーよ! つか、絶対うまい! なあ、食べていいか!?」


 コウキが待ちきれないのか、キラキラした目でユリを見てる。

ユリもその様子がおかしかったのか、少し笑ってから答える。


「いいよ」

「よっしゃ、いただきまーす! うーん、生姜焼きうめー!!」


 隣では、サクラがタイキにあれこれ勧めている。


「タイキくーん、これとあれ、こっちも美味しいから食べて〜。あとね、これも美味しいよ〜」

「ああ、ありがとう、サクラ」

「ふふ、いえいえ〜」

「うん、うまい」

「それは、よかったよ〜」


 こっちはこっちで、甘い時間を過ごしてる気がする。


 ヒマワリは、自分の作ったおにぎりに自信がないのか、よそよそしい。


「僕も、ヒマワリの作ったおにぎり食べていい?」

「もっちろんだよ!」


 梅干しを手にとって食べる。うん、疲れた体にしみる酸っぱさと、ほのかな甘みだ。


「美味しいよ。僕、お米が好きだから嬉しい」

「そうなんだね! じゃんじゃん食べてね、いっぱいあるから!」

「うん、ありがと」

「なあなあ、おにぎりもくれよ! 生姜焼きとおにぎりって相性最高だよな!」

「あ、味噌汁もあったんだ!」

「かあー、たまんねー!」

「うまい」

「うん、本当に美味しい」


 お味噌汁も用意したなんて、すごいな、ヒマワリ。


「みんなも、サンドイッチどうぞ〜」

「お、おにぎりも食べてね!」

「おかずも必要でしょ?」


 3人が用意した料理をありがたくいただく。

ワイワイ食べて完食すると、3人とも満足そうだ。僕たちのお腹も満足。


 これは、なにかお礼をしたいな。食費も持ってもらってるし。今度、男3人でなにかお礼を考えないとな〜。


 散々お礼をした後で、僕は1人でトイレにたった。


 個室のトイレで色々と用を済ませる。


 トイレを済ませると、やっぱりまってた。鎌犬君はしつこいな。


「おい、こっちこいよ」

「はいはい」

「っち」


 今は体育祭だからいいけど、これから教室で同じ扱いされるのは迷惑だ。


 しっかりここで、話をつけようか。




 まあ、校舎裏だよね。いまなら誰もいないだろうし。


「お前さ、なんで俺に楯突くわけ?」


 おお、すぐにくるね、相当怒ってるみたいだ。

ああ、せっかくいい気分だったのに、台無しだ。


「なんで? なんで、楯突かないと思ってるの? 僕は君が言ったことを許すつもりはない。タイキに謝れよ。君にあんなこという資格はない」

「だからさ、そういうところもムカつくんだよ! お前らはみたいなやつは。俺たちみたいな青春できる特別な人間を、指咥えてじっと見てればいいんだよ!」

 

 人の話聞けよ……。ムカつくな。


「君が今そうしてるように? ああ、一応行動はしてるのかな、理想とは程遠いみたいだけど」

「お前……!」

「さっきの借り物競走でヒマワリの発言聞いてなかったの?」

「あれは、お前達が脅して」

「君さ、本当にヒマワリのことちゃんと見てないよね。 あの笑顔が脅されて出ると本気で思ってるの?

冗談はよしてくれよ。君が欲しいのはヒマワリじゃない。ヒマワリの彼氏っていうステータスが欲しいだけだろ?」

「そ、そんなこと」


 なに、キョドってんだよ。ふざけるなよ、彼女は物じゃないんだぞ?


「あるよ。君、ヒマワリがこの世で最も好きな食べ物を知ってる? こだわってる物は、色は? ヒマワリは元気で明るいだけの可愛い女の子じゃないよ。しっかりと人を見て、友達にしたい人をしっかり見極めてる。君たちの薄っぺらい友情に、彼女を巻き込むな!」

「言わせておけば、好き勝手言いやがって!」

 

 目が血走った状態で、胸ぐらを掴まれる。これは、なにされるか分かったもんじゃないな。


 でも、止めるつもりはないよ。友達を馬鹿にしておいて、はいそうですかなんて、言えるわけないだろう。


「君さ。ヒマワリの前じゃ、お調子者の振りして裏ではこうして脅してたの? 他のクラスメイトも、最初はヒマワリによく話しかけてたけど、気がつけば話しかけなくなってた。君がしたんだろ、今みたいにさ」

「だったら、なんだよ! 顔のいい人間には、顔のいい人間がそばにいて当然だろ!?」

「君、それ本気で言ってる? 今の君の顔、相当醜いよ」

「このやろう!!」


 顔が横を向きメガネが飛んでいた。予感はしてたから、顔を横にずらしたけど、痛いもんは痛い。僕はプロでもアマチュアの格闘家でもないから、全てを受け流すなんてことは出来なかったみたいだ。


 それでも、言いたいことは言ってやる。


「やっぱり……君は、ヒマワリの友達に、ふさわしくないね。ましてや、彼氏とは……笑わせる」

「まだいうのか!」

 

 殴られる前に、思いっきり脛を蹴り飛ばす。


「い!」


 僕が手を出してくるとは思わなかったのか、屈んでる鎌犬。屈んでる隙にスマホを操作する。そのあとで鎌犬の耳元で呟く。

 

「君さ……サッカー部だよね? 脛をスパイクで誤って蹴られることはありそうだけど、僕のこの顔はどうかな。僕たちのいざこざを見てた数学の先生にこれ見せたらどうなるかな? 優等生の僕と、いうことを聞かないお調子者の君。真面目な数学の先生は、どっちのいうことを聞くかな?」

「て、め……」


 跪いてる鎌犬の首元の服を掴み、軽く首を締める。

タイキとコウキのトレーニングに付き合ってたからね、それなりに力はあるよ。


「う!」

「まあでも、殴られたことはどうでもいいんだよ。僕も煽ったからこうなったわけだし」


 それよりも、許せないことがある。


「でもさ、それよりも1番ムカついてることがあるんだけど、わかる? わかんないよね。君たちの薄っぺらいだけの関係じゃさ。僕はさ、仲良くなる人の基準を決めてるんだよ。だから、交友関係に慎重なんだ。僕は見た目も良くないし、そんなに話も上手くないけどさ、それでも僕と仲良くしてる友達を大事にしてるんだよ。だからさ、僕が選んだ友達の悪口を言われるのが1番腹立つんだよ。……タイキのことを、悪く言ってる奴は絶対に許さない、君見たいな友達をステータスで選んでるやつは特に」

「うう」

 

 グッと、首元の服を掴んで、さらに締める。


「もう金輪際、僕たちに関わるなよ。もし、タイキの悪口や、ヒマワリに嫌がらせしたら、ただじゃおかない。分かった? ねえ、聞いてる? 陰キャを怒らせちゃいけない理由はこれだよ。……つぎ、なにするか分からないよ?」

「う……」


 頷く鎌犬を見て、手を離す。ゲホゲホいいながら、僕を睨んでくる。

まあ、懲りるわけないよね……はあ、やりたくないけど……。


「聞く、わけねぇだろ!!」


 痛みが引いたのか、鎌犬はまた僕につかみかかって、思いっきり殴ってきた。


「っ。はは、また、暴力か……」


 なんとか受け流すも、プロでもなんでもない僕はうまく受け流せないし、殴られ慣れてないから、ものすごく痛い……。


「こいつ!」


 もう一発、殴ろうとしたところで、声が聞こえてきた。


「先生、鎌犬君が、アキ殴ってる!」

「おい、カマケンなにしてる!」

「え」

「くそ!」


 僕を離して、逃げようとする鎌犬を、ヒマワリ達とは反対側の方から、スマホを持つコウキと、無言の圧力で僕を見ているタイキが出てきた。僕はようやく解放されてホッとしたのか、力が抜けて座り込む。


「カマケン……手を出したやつが悪い。証拠もあるから、諦めろ」

「コウキまで、あいつ庇うのかよ!」

「当たり前だろ、俺の大切な友達だ」

「……なん、なんだよ」


 コウキが鎌犬を押さえ込んでくれた。タイキも隣でじっと鎌犬を見てる。


「アキ、大丈夫!? うわ、血も出てる……。保健室の先生呼んでくるから、先に保健室行ってて! あと、これハンカチ!」

「う、うん」

 

 顔面蒼白のヒマワリが走り去っていく。なんで、ここに……。ヒマワリと先生とタイキは、僕の計画に入ってないんだけどな。先生も近寄ってきて、僕に優しく声をかけてきた。


「狼太は、保健室行って怪我を見てもらいなさい。お前達もカマケンこっちに渡して付き添ってやれ」

「先生、あんまり大事にしないでください。喧嘩買った僕も悪いんで」

「はぁ……とりあえず、話聞いてからな。たく、狼太も男なんだな。あんま無茶するな」

「すみません」

「うし、とりあえず、今日はいいから休み明けに俺のところに来て事情を説明しろよ?」

「はい」

「よし! おい、カマケン! お前は生徒指導室だ!」


 生徒指導室に連れてかれる鎌犬。僕たちの横を通るも、自分がしでかしたことに気がついたのか、顔が真っ青だ。まあ、少し反省して欲しい。脛蹴ったことは、心で謝っておいた。


 コウキとタイキが近寄ってきた。とりあえず、足に力が入らないので、タイキに支えてもらう。


「いて」

 

 コウキが軽く僕の頭を叩く。く、一応怪我人なんですけど……僕。


「おい、アキラ。お前、戦えないんだから無茶すんなよ」

「いやー、コウキが証拠撮ったら出てきてくれると思ってさ。結構ギリギリだった?」

「あのな……校舎裏いくつあると思ってんだよ……1番遠いところかと思ったら、意外とすぐ近くだったんだよ」

「あー、あはは、確かに。ごめんごめん」


 謝っておくと、今度はタイキが話しかけてくる


「アキラ」

「……タイキ、そのー」

「俺のために、お前が傷つくな。自分を傷つけるやり方は止めろ。自分を犠牲にしてやるな」

「……ごめん」

「でも、嬉しかったぞ、お前の言葉」


 タイキは少し照れている。最近、サクラのおかげで表情が出てくるようになったなと、1人で感動している。けど、それよりも。


「タイキ……もう少し早く出てきてくれると助かったんだけど」

「すまんな、アキラの言葉が胸にくるものがあってな」

「いや、いいけどさ。元々タイキに聞かせるつもりはなかったし。にしても、よく分かったね」


 トントンと、目の下を叩くタイキ。


「言ったろ、視野が広がったってよ。血相変えて出て行ったコウキを見た。それによ、鎌犬もいなかった」

「なるほどね……話しすぎたってわけか。んで、ヒマワリはなんでいたの?」

 

 うわ、今の悪役っぽい。やってることは悪役に近いのかな、わかんないけど。


 僕の疑問に、コウキが答えてくれた。


「たぶんだけど、アキラがトイレに行ったあと、少ししてからヒマワリもトイレに行ったんじゃね?それで、たまたま見かけたとか」

「あー、聞かれてたもんなーあの時。見られたら、ヒマワリなら追うよね」

「まあ、いいじゃん。結果的にだけど、カマケンの心も折れただろうし、もうやってこないんじゃね?……たぶん」

「絶対がいいな……」


 もう、痛いのは懲り懲りだよ……。


「俺がいるから、平気だろ」

「はは、確かに。心強いよ」

「おう」


 タイキが少し微笑んで返事をした。


 あー、顔が痛い。まさか、2度も殴られるとは思わなかった……。頬と口だからまだマシだと思うことにしよう。


 ……それに、自分が友達のことであんなに怒るなんて思わなかったな。

なんか、青春学園ドラマみたいだけど、こんなことなら、大人しく軽口で済ませるべきだった?でも、ちょっかい出され、ヒマワリ達との時間取られるのも嫌だし……これで正解だったのかな。


 青春を謳歌するのも大変だなー。


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