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CHANGE ~県立実里丘高校男子バレーボール部の受難~  作者: 貴堂水樹
第3セット CHANGE

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31/38

4-2.

 十一対八。サーブが雨宮に回る。

 安定して入るのが雨宮のサーブのいいところだが、イマイチ攻めきれない中途半端さがこういう競った試合では特に惜しい。

 あっさりサーブレシーブを上げられ、井波がライト側から強烈なスパイクを放ってきた。

 コースを読んで待ち構えていた琉聖だったが、オグのブロックをかすめたためスパイクコースが変わり、雨宮との間に落ちて失点となった。

 十一対九。二点差がついているものの、どうにもうまく逃げきれない。

 モヤモヤしながらサーブレシーブの位置についた時、副審が笛を吹いた。

「メンバーチェンジ!」

 声を上げた副審の隣に、正南学園の控えメンバーが立っていた。副審の示した番号は『2』。交代相手はこれからサーブに下がる最長身の二年生ミドルだ。

「リリーフサーバーか」

 琉聖がぽつりと漏らした。他のメンバーも、相手チームの選手交代を真剣な目で見つめている。

 リリーフサーバー。

 サーブに不安のあるスターティングメンバーに代わり、チャンスメイクのためにサーバーとしてワンポイント投入される控え選手のことだ。正南学園はこれまで二度リリーフサーバーを投入してきているが、今回投入されるのはまだ一度もコートに立っていない背番号9の選手だった。切れ長なふたえの瞳ははっきりと大きく、鼻筋がスッキリと通っている。身長も一九〇センチ近くあり、外国人の血が混ざっていることは火を見るよりも明らかだった。

 投入された9番の選手が、エンドラインから大きく距離を取る。彼もまたジャンプサーブの使い手のようだ。

 リズミカルにボールをフロアに打ちつけながら、楽しげな微笑みを浮かべて実里丘コートを睨んでくる。パシンパシンとボールを叩いているのは左手だ。正南学園が左利きの選手を投入するのはこれがはじめてだった。

 コート内の緊張感が一秒ごとに増幅する。たっぷりと間を取ったのち、主審が笛を吹いた。

 リリーフサーバーの選手が、右手で高らかにボールを放り、ダイナミックな助走で床を蹴った。豪快に振り抜かれた左腕が大きな風切り音を鳴らす。ダァンッ、と次の瞬間には打ち込まれたボールが実里丘コートで跳ねていた。

 右京の陰からネット際まで飛び出した琉聖は、ボールの落下点を振り返って息をのむ。

 打ち出しから落下まで一秒も経っていない。ほんの一瞬のできごとだった。

「速ぇ……!」

 煌我がつぶやく。誰もが同じ感想をいだき、ボールの落ちた煌我と伊達の間を唖然として見つめていた。

 球速がとんでもなく速かった。今のサーブは、エースアタッカーである井波や名越の出す速度をわずかに上回っているようにさえ感じた。もちろん、実里丘で最速の煌我のサーブよりもずっと速い。

 監督の采配が的中し、サービスエースの決まった正南学園サイドはお祭り騒ぎだ。十一対十。じわりじわりと点差が詰まってくる。

 二本目のサーブは逆サイド、右京と左京の間を縫うように打ち込まれた。

「ほぁっ!」

 目で追うのも一苦労な剛速球に左京が果敢に手を出すが、速すぎてからだをボールの下に入れ込むことは叶わない。ボールは左京の左腕をかすめ、サーブの勢いそのままにコートの外へと弾き出された。

 十一対十一。ついに同点に追いつかれ、琉聖はたまらずタイムアウトを要求した。

「粘るぞ」

 ベンチに下がるなり、琉聖は力強く言葉を紡いだ。

「俺のところにうまく返そうなんてことは考えなくていい。とにかくボールに触って、できるだけコートの中に残してくれ。あとは俺が……」

「なんとかする、って言いたいのか」

 琉聖の声を遮り、雨宮が口を挟んで琉聖を睨んだ。

「おまえはいつもそれだな、久慈。そういうところが俺は気に入らないんだ」

「は?」

 琉聖が睨み返す。「考えてみろ」と雨宮は言った。

「確かにおまえはこのチームの誰よりもうまいかもしれない。けどな、おまえひとりにできることなんてたかが知れてる。おまえだけじゃない。みんな一緒だ。ひとりの力でできることはほんの少し。その少しをかき集めて、大きな力に変える。そうやって、全員で力を合わせて戦うのがチームスポーツってもんだろ」

 頭を殴られたような気持ちになった。雨宮が言う「ひとりでやるつもりなら」という言葉の意味が、今になってようやくちゃんと理解できた。

 なんでもかんでもひとりで解決しようとするなら、チームを組む意味がない。仲間たちと支え合って道を切り開いていく必要があるからこそ、チームを組んで戦うのだ。

 雨宮は困ったように笑って言った。

「もう少し俺たちを頼ることを覚えろ、久慈。このチームにいる限り、おまえはひとりじゃないんだから」

 琉聖はわずかに顔を下げ、小さく「はい」とこたえた。この試合中、どれだけたくさんのことを学んだだろう。今の自分はバレーを始めたばかりの初心者、いや、それ以下だ。

「そういうことなら、おれを頼れ、琉聖!」

 煌我が琉聖の背中を叩いた。

「これからはエースであるおれだけにトスを振ってくれ。おれが全部決め」

「「却下」」

 琉聖と雨宮の声が揃う。「なんで!」と煌我が叫んだところでタイムアウトが終了した。

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