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CHANGE ~県立実里丘高校男子バレーボール部の受難~  作者: 貴堂水樹
第3セット CHANGE

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29/38

3-2.

   〇


 顧問の教諭からマッサージを受け始めた久慈琉聖の姿が目の端に映り、井波はかすかな緊張を覚えた。

 セット間のブレイク時、雨宮に怒鳴られていたのが遠くに聞こえた。てっきり「もう試合には出さん」と言われていたのかと思ったが、単純に休ませていただけだったのか。

 しかし。

 厳しい目をして、井波は実里丘コートを見やる。

「よく拾う選手がいたものだ」

 久慈の代わりに投入された唯一のベンチスターター、8番の選手に目を向ける。

 レシーブフォームのぎこちなさから、高校に入ってバレーを始めた一年生であるらしいことはわかる。だが、とにかくよく拾うレシーバーだった。

 強打を打っても拾われる。真正面でなくても飛びつかれる。味方がコート外へ弾き飛ばしたレシーブボールでさえ猛ダッシュして追いつき、あっさり返球されてしまう。

 凄まじい身体能力だ。中学時代に別のスポーツをたしなんでいたことは弁を待たないが、それにしても。

 サーブではあの8番を狙えとみんなに指示を出してしまった。采配ミスだ。8番の選手より、エースアタッカーのほうがずっとレシーブ力に乏しい。

「一杯食わされたな」

 苦笑いがこぼれ落ちる。あんな隠し球を持っていたとは、やはり侮れないチームだ。

 次のラリーは井波のサーブから始まる。エンドラインから大きく距離と取ったところで、井波はもう一度笑みをこぼした。

 わくわくしてたまらなかった。こんなにも楽しくて、こんなにも勝ちたいと強く思ったのは久しぶりだ。

 リードは一点。久慈が戻ってくる前に、もう少し差を広げておきたい。

「負けてたまるか」

 主審の笛と同時に、井波は高らかにジャンプサーブのトスを放った。


   〇


「ナイスフェイント、左京!」

 長いラリーの末、左京がフェイント攻撃を決めて実里丘に得点が入った。

 四対四。正南学園がリードを保つ展開から一転、ゲームはふりだしに戻った。

「よし」

 琉聖が一歩前に出る。いよいよ眞生との交代の時間だ。

 ベンチを振り返る。浜園、美砂都、伊達の三人が笑顔で送り出してくれる。

「いってらっしゃい!」

「いってきます」

 少し恥ずかしそうに答え、琉聖は副審に駆け寄った。

「メンバーチェンジお願いします」

 副審が笛を吹き、試合を一時中断させる。笛の音に気づいた眞生が、まっすぐ琉聖の待つサイドライン際へと駆けてきた。

「すごかったぞ、眞生」

 肩の高さで眞生と静かに手を重ねながら、琉聖は眞生の健闘を称えた。

「おまえのところへ飛んできたボール、一度も落とさなかっただろ」

「へへっ、まぁね。案外なんとかなるもんだなって思った」

「言うねぇ」

 ふたりが笑い合っている間、副審がせっせとラインアップシートの書き換えをおこなっている。交代したメンバーの背番号などを控えているのだ。メンバー交代には回数制限がある。

「ありがとう、眞生」

 琉聖は改めて礼を述べた。

「助かったよ。おまえがいてくれてよかった」

「こっちこそ。まさか今日がデビュー戦になるとは思わなかったけど、すげー楽しかった!」

 眞生の笑顔を見て、ふと、入学式の日にもらったビラを思い出した。『男子バレー部の救世主』。あの文言はまさに眞生のことだったなと琉聖は思った。

「けどさ、琉聖。腰、大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。浜園先生のゴッドハンドで治してもらった」

「へ?」

 眞生が目をまんまるにしたところで、副審が「はい、いいですよ」とふたりに交代するよう促した。

「お疲れ、眞生。あとはまかせろ」

「うん、まかせた!」

 重ねた右手をスッと離し、サイドライン上でふたりの立ち位置が入れ替わる。

 眞生がベンチへ。そして琉聖が、満を持してコートに立った。

「琉聖!」

 煌我が一番に駆け寄ってきて、互いに両手でハイタッチを交わした。

「大丈夫か?」

「おう。ごめんな、心配かけて」

 琉聖は自信を持って答えた。浜園のマッサージがよく効いて、背中に翼が生えたみたいに足が軽々と動くようになったのだ。

「無理するなよ、久慈」

 雨宮が声をかけてきた。琉聖は迷わず頭を下げる。

「迷惑かけてすいませんでした」

「もういいよ。俺のほうこそ、怒鳴って悪かった」

 笑顔でハイタッチを交わす。他のみんなとも、琉聖は次々に手を重ねた。

「はぁ、よかったー」

 煌我がホッとした顔で息をついた。

「やっと琉聖のトスでスパイクが打てるよー。雨宮さんのじゃ、なーんか調子狂うっていうか」

「佐藤てめぇぶっ飛ばすぞ!」

 雨宮が吠えた。

「なんで俺が文句を言われなきゃいけないんだ! こっちは慣れないことを必死にやってやったってのに!」

「まぁまぁ、裕隆」

 いつの間にかベンチからやってきていた伊達が仲裁に入る。

「抑えて抑えて」

「公恭!」

「さ、ぼくらも交代しよう。お疲れさま、臨時セッターさん」

 トントンと肩を叩いてねぎらわれた雨宮は、不機嫌な顔のまますごすごとベンチへ下がっていった。実里丘が、ようやく本来のチーム編成を取り戻した。

 ネット際に立ち、琉聖はフッと気持ち強めに息を吐き出す。

 大丈夫。やれる。美砂都にやってもらったテーピングで腰は固めた。問題ない。

 相手コート鋭く睨む。顧問の浜園に、この試合にバレー人生をかけると宣言してきた。

「いくぞ」

 負けられない。絶対に。琉聖は力強く言葉を紡いだ。

「反撃開始だ」

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