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CHANGE ~県立実里丘高校男子バレーボール部の受難~  作者: 貴堂水樹
第2セット 孤独な天才

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11/38

2.

 翌週には組み合わせ抽選の結果が発表され、部員全員に伝えられた。

 くじ運は最悪だった。トーナメントの一回戦を勝ち上がると、次でさっそくシード校と当たるブロックに入ってしまった。

 それも、ただ強いだけの高校ではなかった。中学ナンバーワンセッターであった琉聖は、その高校から進学のオファーを受けていたのである。

正南せいなん学園かぁ」

 金曜の放課後、体育館。ひとり一枚配られた組み合わせ抽選の結果を示した用紙を見て、煌我が言った。

「シードってことは、前回大会で四位以内に入ったチームなんだよな?」

「二位だよ、正確に言うとね」

 伊達が眼鏡を押し上げながら答えた。

「私立正南学園高校。かつては愛知四強としてその名を轟かせていた伝統ある強豪校で、四つある名北予選会シード枠のうちの一つを長らく守り続けているチームだ。高身長の選手ばかりを集めた超攻撃型のチーム編成が特色で、ブロックでの得点率が毎回異常なほど高いんだよね」

 だが、昨年のインターハイ予選、春高予選と、どちらも名北地区予選での優勝を逃しており、彼らが名北絶対王者と呼ばれたことは過去となりつつあるという。「だったら勝てるな!」と煌我は快活な笑みを浮かべた。

「ブロックがなんだ! おれには関係ない! ブロックの上をぶち抜いて勝つ! それだけだ!」

 ひとりで盛り上がっている煌我を、もはや誰も相手にしていなかった。「実際、どう思う?」と雨宮が琉聖に尋ねた。

「仮に一回戦を勝ち上がったとして、今の俺たちが正南学園に勝てる可能性はありそうか?」

「さぁ、俺にはなんとも」

 無理だろうな、というのが正直なところだった。ブロックのいいチームと戦う場合、相手ブロッカーを翻弄する、あるいはうまく利用して点を稼ぐ高い技術が必要になってくる。だが、今の実里丘のアタッカー陣にそれだけのものを求めるのは時期尚早と言えるだろう。練習時間も、教える時間も全然足りない。

「状況を見ながら、うまく対応していくしかないでしょうね」

 それでも、琉聖は絶対に勝てないとは言わなかった。口に出したらそれが現実になってしまいそうな気がした。

「あと一週間で攻撃力を上げるのは難しいんで、レシーブでどれだけ粘れるかが肝になってくると思います。ブロックをうまくかわすのにもっとも効果的なのは速攻クイックだから、レシーブがきちんと俺のところへ返ってくる回数が多ければ多いほど、勝てる可能性は大きくなる。全員がそのことをしっかり意識して、当日は試合に臨みましょう。まぁ、まだ一回戦で勝てると決まったわけじゃないけど」

「勝てるさ!」

 煌我が吠えた。

「おれたちは負けない。正南にも勝って、決勝まで行って勝って、おれたちが優勝だ!」

 おいおいと琉聖はあきれたが、「いいねぇ」と意外にも煌我の優勝宣言に乗っかる声が上がった。雨宮だった。

「気持ちいいだろうなぁ、うちみたいな廃部寸前の弱小チームが正南に勝てたら」

「ちなみに、ぼくの集めた情報によると」

 伊達がさりげなく補足情報を流してくれる。彼は情報収集が趣味だという。

「ベンチ入りする十二名の選手のうち、三年生が八名、うちふたりがリベロ。残り四人が二年生で、ひとりはスターティングで起用されるミドルブロッカー。身長二メートル二センチの大型新人だって、去年話題になった子だよ」

「二メートル!?」

 ほとんど全員が声を揃えて驚いた。

「大二郎よりでけぇじゃん!」

 煌我が目をまんまるにしてオグを見た。「だからその呼び方はやめてってば」とオグは肩を縮こまらせた。

 やいのやいのと言い合っている部員たちの片隅で、琉聖はひとり胸をなで下ろしていた。

 正南学園のベンチ入りメンバーに、一年生はひとりもいないらしい。すなわち、あの男と試合で直接戦うことはないということだ。

 かつてのチームメイトの中で、もっとも反りの合わなかったあいつとは。

「さぁ、練習始めるぞ」

 雨宮が元気よく場を仕切った。ごく一般的な公立高校であるため、体育館は曜日ごとに決められたローテーションに従い、他の運動部と互いに譲り合って使う。私立の強豪校である正南学園と比較するまでもなく、実里丘はもともと取れる練習時間が少ないのだ。一秒たりとも無駄にできない。

 練習はいつも、エンドラインに整列して全員で挨拶してから始められる。琉聖も仲間たちに続いてエンドラインへ向かったが、その途中、なにかを思い出したようにふと足を止めた。

 仮に、二回戦の正南学園戦で勝利した場合、その日のうちにベスト8進出をかけた第三試合に臨まなくてはならなくなる。

 一日に三試合。入部から、わずか二週間。

 琉聖の胸に、不穏な暗雲が渦巻き始める。

 間に合うだろうか。

 このなまりきった鈍いからだで、三試合も戦えるのか――?

「おーい、久慈! 早くしろ」

 雨宮に急かされる。「すいません」と言って、琉聖は再び走り出した。

 お願いします! と九人の声がぴったりと揃った。

 隣の女子バスケ部の熱気と混ざり合い、体育館の温度がぐっと上がった。

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