八分咲き
「ねえ、君一人。この後俺ら夜桜パーティーやるけどどう? 」
どこからともなく湧いてきた大と小の浅黒コンビがヨシノ先輩に絡む。
僕は様子を見守る事しかできずとっくに着いてるベンチの前から人混みに紛れる。
しつこく迫る二人組は態度がデカく自信過剰気味。
彼女は必死に拒絶するが男たちも簡単には引き下がらない。
「おい、嘘を吐くなよ。なあいいだろ」
「しつこい! 」先輩は戦闘モードへ。
「ちっ、分かったよ。行くぞ」
大が小を促して帰っていった。
完全に視界から消えてから息を切らし戻る演技をする。
「大丈夫ですか? 先輩が遅くなっちゃって…… 」
焦って自分でも何を言っているのか理解できない。
「大丈夫だよ。ありがとう」
飲み物を受け取り桜を見つめるクールな彼女。
僕もつられて視線を送る。
ライトの光で桜はより幻想的に。
「あの桜きれいですね。本当に見とれてしまう。僕…… 」
彼女から笑顔が消える。
「デート中によそ見すると嫌われるよ君。他の女に興味があるのかって思われるからやめた方が良いよ」
何を言っているのだろうか。彼女の忠告は的を得ているようには思えない。
急に機嫌が悪くなり口数も減った。最悪だ。
僕に原因があるのか?
「ヨシノ先輩。変ですよ。僕はただ桜を見てきれいだと言っただけで……
他の女性を見て言ったわけでは…… 決してはい…… ハハハ…… 済みません」
確かに一瞬だけライトに照らされ美しく輝いた少女に心を奪われたのだ。
しかしその事に気付くとはさすが女の勘の鋭さよ。
だが直接はっきり言ってくれればいいものを面倒臭いなあもう。
一時間が経過。
「そろそろ遅いし帰ろうか」
「もう少しいいじゃないですか。ねえもう少しだけお願いします」
しつこいと思われるのは嫌だが彼女を放したくない。別れたくない。
次いつ会えるともしれない。
「仕方ないなあ。じゃあ泊まっていく」
先輩の視線は闇の中見えなくなったホテル街へ。実際はネオンで明るいのだが。
からかいたくてしょうがないらしい。僕はそんなに情けない男なのか。
「ねえ君。今日はこれで別れよう。また次の機会。今度は桜祭りが開催される土曜日にどうだい。その時に本当のデートをしようじゃないか」
疲れて眠そうだ。怪我も心配なので提案を受け入れることにした。
「それではヨシノ先輩。土曜日に先輩の言う本当のデートをしましょう。今日みたいなんじゃなくて」
今日のデートに不満があるわけじゃない。でもこう言っておけば主導権を握れる。
悪ふざけもさせない。舐められてなるものか。
「ああ、それまでにはこの左腕も良くなってるだろうしね。
それじゃまた。私はこっちだから」
彼女は僕と反対の方向に歩き始める。
彼女が誰でどこに住んでいるのか謎のまま。ミステリアスな彼女。
これがきれいでなければ何の意味も持たないのだが。
もちろんこれは僕なりの考えによるもので他意はない。
続く