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12/22

花冷え

翌日。さっそくデートに。


彼女の希望で桜並木を歩き、その後映画鑑賞。定番の恋愛もので盛り上がった。


タピオカとコーヒーを挟んで居酒屋へ。


彼女は何杯も注文。お酒の力もあって気持ちよくなっていった。


実際にはそれは彼女だけで僕は逆に気持ち悪くなった。


大丈夫と背中をさすってもらう。


このまま近くのホテルでお泊りが通常プラン。


だが僕を信頼している彼女を裏切ることはできない。


駅で別れる。


最初のデートにしては上出来。


その後もサークル以外で顔を合わせる仲に。


しかしやはりどうしても彼女を裏切れない。


彼女とはもちろん……



もう相棒は口もきいてくれなくなった。


決してわざとではないし悪意もない。


しかし相棒の本命に気付いてながらそれを無視した。


もちろん実際には気づく時間はほぼなかった。


だが責任がないとは言えない。


相棒の機嫌が早く直ってくれないと困る。


どうしたものか。



~嫌な予感~


僕は相変わらず桜並木でヨシノ先輩を待ち続けている。


もちろんサークルにも顔を出す。ヨシノ先輩がいつ来ても良いように。


ふっと姿を現すその時まで。


今までその役割を相棒が担ってきたが関係が悪化した為自分で確かめるしかない。


相棒とはあれ以来、口をきいていない。


こっちから話しかけても無視をする。やはり相当怒っているのだろう。


だがそんなこと知るかと言いたい。


こっちに非があるなら仕方ないがただの嫉妬。付き合っていられない。


サークルには一見二人仲良く参加しているが……



「おい、お前ら」


リーダーはそのご自慢の筋肉を見せつけるように体を揺らす。


いきなり厳つい男が迫って来たのでついつい構えてしまう。


「ようやく結論が出た」


何かと思えば他にヨシノ先輩に該当する者がいないか調べてもらっていた。


すっかり忘れていたが。その結果が分かったようだ。


不安を覚える。何か嫌な予感がする。


絶対に良くない結果。分かりきっている。


「それでどうでした? 」


皆に聞こえるように大声を出すと周りの者が寄って来た。相棒も耳を立てている。


「あの飲み会に参加した他のサークルの者にヨシノに該当する人物はいなかった」


リーダーは格好つけて調査報告書なるものを読み上げる。


「いない? いないってどういうことですか? 」


喰ってかかる。


「俺に聞くな。いないもんはいないんだよ。以上」


勝手に話を終わらせる。



「何だ。やっぱりお前は女に騙されていたんだ。はっはは…… 」


今の今まで無視を決め込んでいた相棒が嬉しそうに話しかける。


相棒の機嫌が直った。まったく現金な奴だ。情けなくてしょうがない。


「そんな…… ヨシノ先輩…… 」


「まあいいじゃないか。騙されていたと分かったんだから。一歩前進だぞ。


最近のお前を見ればわかるが会えてないんだろう? 


あっちも脈なしと踏んだんだよきっと。よかったなあ。被害が無くてよ」


「そんな…… そんなこと…… 」


「相棒! 祝杯を挙げようぜ」


どうやら相棒は僕を許してくれたようで仲直りできて良かった良かった。


万事解決? いやそんなこと…… そんなこと…… ない!



「まあ気を落とすなよな」


リーダが責任を感じたのか優しい。不気味だ。


「本当ですか? 本当に本当? 」


「本当だ。該当者はゼロ」


「どこかにミスがあって…… それでそれで…… 」


「いやそんなことは無い。何度も確認したことだ。


残念だがお前の知っているヨシノ先輩はここにはいない。


そしてサークルにもたぶん大学にも。騙されてないんだとしたらたぶん……


それは…… いや何でもない」


「騙されているはずありません。彼女は、ヨシノ先輩は必ず存在します」


「しかしなあ」


「本当にこのサークルにいないんですか? 」


「いないよ! 」


リーダーはじめ集まっていた者全員が口を揃える。


「お前が信じたい気持ちも分かるけどさ証拠が揃ってしまえばどうしようもない」


相棒の表情がさっきまでの馬鹿にしたものから真剣な表情に変わっている。


「他の可能性は無いんですか? 聞き違いとか思い違いとか勘違いとか。


何でもいいんです。お願いですから」


「そんなに興奮するな。いくらなんでも何度も聞き間違えるはずが…… 


ただ…… 」


歯切れも悪いし後味も悪い。


リーダーの言うことはもっともだ。それは僕だって理解しているつもり。


でもどうしても認めたくない。


僕が認めてしまえば本当にヨシノさんがどこかに行ってしまう。


認められない。絶体に認められない。



ヨシノさん。どこですか?


もう頭の中はぐちゃぐちゃ。


リーダーや相棒たちが親身になって励ましてくれるが何も入ってこない。


聞き間違い? いや違う。


何かの間違い? それも違う。


春の夢? それにしては長すぎる。僕はいつの間に幻覚を見るようになったのか。


考えていても混乱するだけだ。


行こう。


戻ろう。


再びあの公園に。


彼女と出会った思い出の公園に。



ヨシノ先輩!


ヨシノさーん!


どこですか。


サークルを抜け出し桜並木をさまよう。


歩いてなどいられない。


速度を上げる。


息を切らし彼女の名を叫ぶ。


ヨシノさーん!


ヨシノ先輩。


最後には全力疾走。


人の視線などもうどうでも良い。


迷惑を省みずに叫び続ける。


足がもつれて転倒。


ヨシノさーん。


結局その日、ヨシノさんは現れなかった。


翌日もその翌日も。



姿を見かけなくなって一週間。


桜はさっぱりした。


花びらはもうほとんどが散ってしまい最後の抵抗を見せている。


花見客もずいぶん減った。


来週にはこの桜並木も全て散り静けさが戻ってくるだろう。


何となく思う。そこまでが僕と彼女に残された時間。


タイムリミットは迫っている。


彼女との出会いが現実だったのかもう自分では判断がつかない。


桜が無くなればもう一生彼女とは会えない。そんな予感がする。


なぜだろう?


運命的な出会いは何の前触れもなく唐突に過ぎ去っていく。


ヨシノ先輩の言動も何か変であった。


そこにミステリアスな魅力を感じていた自分がいる。


彼女は僕を……


いやそれはない。自信をもって言える。


彼女に何かがあったんだ。


別れも告げずにいなくなる人じゃない。


存在しているなら必ず会えるはずだ。


この公園に戻ってくる。


絶対だ!


それまで待とう。


いつまでもいつまでも。


            続く

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