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第九十二話・「一人残らず地獄行きよ」

「推して問います。テロリストは間違いなく【ハンド・オブ・ブラッド】と名乗ったのですね?」

「しつこいわよ、うるわ。そうやってマレーナをビビらせるんじゃないわよ。これじゃどっちがテロリストか分かったもんじゃないわね」


 ため息一つに肩をすくめる仕草をプラスするキズナ。

 これは参った。移動式時限爆弾娘が何か血迷ったことを言っているぞ。


「は、はい、間違いありませんわ。彼らは最後尾に連結されている貨物室から突然現れて、乗客を人質に取ったのです」


 マレーナが、彼ら、と言ったことから、テロリストは間違いなく複数である。


「貨物室……。してやられました。あのときに少しでも気が付いていれば……。私もキズナの気にあてられていたということですか」


 うるわが平板な表情の中に悔しさをわずかににじませる。親指の爪を噛む動作が、俺にそんな想像をさせた。


「どういう意味よ」

「キズナを褒めているのです」

「そう? ふふん、ならいいけど」

(馬鹿は置いておいて……なるほど、元はこちらの注意力の欠如から、そういうことか)


 この魔法列車に乗車するとき、発車には遅延があった。

 車内のアナウンスでは、列車に積み込む荷物に多少の手間を取られているなどと流されていたが……。運行の精確さでは大陸でも屈指を誇るハイザーゼン行きの列車が、時刻表通りに出発できないことだけで驚きのニュースであるはずなのにだ。

 少しでも疑うべきであった。それどころか魔法列車に乗ってしまえばこっちのものなどと楽観視さえしてしまっていた。

 つくづく馬鹿弟子共々隙が多い今日この頃である。

 俺は嫌味も込めてキズナの足をがつがつと蹴る。しかし、重厚なエンジニアブーツを履くキズナの足にはびくともしない。それどころか目障りとばかりに拾い上げられて、胸ポケットにつっこまれてしまう。


「気になるんだけど、何で人質なんか取ってるのよ。面倒臭いことしないで片っ端から潰していけば手っ取り早いじゃない」


 相変わらず恐ろしい思考をしているな、キズナ。厚顔無恥の馬鹿弟子が。

 テロリストと言うことは、目的がある。目的がなければテロリストとは呼ばないのだ。テロリズムとは、あくまで政治目的のために暴力、あるいはその脅威に訴える傾向の事を差す。いわゆる暴力主義のことを表した言葉だ。破壊だけが目的ならば、それはテロリズムではなくただの破壊嗜好者に過ぎない。

 まさにキズナ、お前のことだぞ。


「彼ら、【ハンド・オブ・ブラッド】の要求は?」


 マレーナが握っていたキズナの手を離し、恐怖に強ばらせていた頬を動かす。


「エリス・エラルレンデ様ですわ。彼女を差し出せば、全員の命は保証する、と」

「なんかいかにもっぽい要求ね」


 いかにもなのは、馬鹿っぽいお前の発言だ。


「もしも……もしも、そうならない場合……」


 まるで金魚鉢の内側の金魚のように口を開いたり閉じたりして、口頭に上すのをためらうマレーナ。


「ためらうことはありません。言いなさい、マレーナ」


 うるわの冷静な声を受けて一つ大きく深呼吸をすると、マレーナはゴクリとつばを飲込んだ。


「乗客全ての切符は、もれなく天国への片道切符になる、と」

「悔しいけど、なんか格好良いわね、それ。でも、確実に違うのは、行き先は天国じゃないってこと。一人残らず地獄行きよ」

「どちらにせよ、到着駅としては間違いです。ハイザーゼンに着かなければ意味がありません。エリスは必ず、私の手でハイザーゼンに届けてみせますから、安心して下さい」


 エリスの頭を撫でるうるわ。エリスを安心させようという慈愛のこもった手のひらが、次にエリスの目の縁に溜まった水滴を取り除く。


「さてと」


 うるわの様子を見ていたキズナは、馬鹿にするように鼻を鳴らして首を左右に曲げる。


「キズナ様、どこへ行かれるのですか?」


 ポキポキと首の鳴る音に、マレーナがいち早く気が付いた。キズナが手を組んで大きく伸びると、ぽきぽきと身体のあちこちから音が出る。


「どうせ、遅かれ早かれここにいることはバレるんだし、こっちから出向いてあげるわよ。先方もそっちの方が楽ってもんでしょ」

「キズナ様……」


 声のトーンを下げるマレーナ。


「マレーナ、アンタは隠れてなさい、間違いなく邪魔になるから。間違って天国に行きたくないでしょ?」

「キズナ様と一緒ならば、私は天国も一向に構いませんわ」


 キズナの制服の裾をつかむマレーナ。

 まるで別れ際の恋人を彷彿とさせる愁いに満ちている。


「残念ね、私は天国には行けないわ。行くなら確実に地獄。……ただ、まだまだ行くのは先になりそうだけど」

「帰ってこなくてもいいですから、少しは役に立って下さい」

「うるわ様、そのような言い方は私のキズナ様に対して失礼ですわ!」

「このクソメイド、帰ったら覚えてなさいよ。あと、マレーナ、アンタはどさくさに紛れて変なことを言うんじゃないわよ」


 ドアの向こうに身体を滑らせ、閉め際に一言。


「それじゃ、ちょっと交渉してくるわ。丁寧に謝れば許してくれるかも知れないし」


 嘘をつけ。


急ぐとさすがに文章が雑ですね。

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