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第八十八話・「弱いやつが大っ嫌いなの」

 最後の文字は泣き顔だった。

 キズナはその言葉すらもつまらなそうに足下に落とす。


「そうね、これっぽっちも分からないわね。なんせ私は強いから。弱いアンタのことなんて全く持って分からないわ」


 同情することなく、キズナはエリスの言葉を切って捨てた。それに止まらず、エリスの鼻先に自らの鼻先を突きつけて威圧する。

 脅迫するような眼差しは敵に向けるそれ似ていた。


「私はね、アンタみたいな弱いやつが大っ嫌いなの」


 言葉を書こうとするエリスの手を止めるに足る強烈な勢い。持っていたペンがエリスの太ももの上に落ちる。エリスのわずかな握力をキズナの迫力がたたき落としたのだ。

 その刹那に、部屋の空気に亀裂が走る。

 落ちたペンはエリスの太もも脳には到達せずに、風によってすくい上げられる。白いカチューシャが薄暗闇の中で白刃の弧線を描けば、遅れて追随した風が俺の体毛を揺らした。


「不幸自慢をするような奴なんか、特にね」


 風はうるわであった。

 エリスの手から落ちるペンを目にも止まらぬ速さでつかみ取ると、そのまま一回転し、キズナの首筋に突き立てようと加速した。左手に握りしめられたペンは、キズナの柔肌をわずかに入り込むに止まる。

 首を伝う一滴の血液。狙われたのは寸分も違わず頸動脈。

 これが一般人ならばを貫かれた血管から盛大に血潮を吹き出しているところだ。キズナが左手でうるわのペン先を受け止めていなければ、そこで命は尽きていただろう。

 受け止めたキズナの人差し指と中指の間からは、ペンが突き出している。ここで確かなのは、キズナが難を逃れたことと、うるわが完全にキズナを殺す気だったということ。その二つだけだ。

 

「自分は不幸です。弱いから何も出来ないんです。病気だから生きていることも辛いんです……」


 キズナが何事もなかったかのように続ける。


「そうやってめそめそぴーぴー、ずっと泣き言言ってなさいよ。病気で死ぬまで、いっそアンタを狙う敵に殺されるまでね」


 最速のスピードで凶器と化したのは何もペンだけではない。

 うるわが右手に持っていたハサミも、二度凶器へと変貌していた。

 左手のペン同様に、右手のハサミがキズナの首筋に食らいつこうとする。暗闇に走った白刃を受け止めて、キズナは口角をつり上げる。攻める側と受ける側の力のせめぎ合いが、部屋の中に耳障りな音を作り上げる。

 表情に出さないうるわの怒りが部屋の暗闇に熱を与えるようだ。


「呪うのはエリスの勝手よ。強くて羨ましい、病気が無くて羨ましい、言葉が話せて羨ましい、どうぞどうぞいくらでも呪えばいいし、呪わせてあげる。でも、一番始めに呪うものがあるんじゃないの? 他人をねたんだり、呪ったりする前に、自分の弱さを呪いなさいよ。何も出来ないで、ただただ病気に蝕まれていくだけの弱くて無力な自分を呪いなさいよ。それを棚に上げて他人を呪おうなんざ、十年早いって言うの。泣きわめけば助けてもらえるなんて、ちゃんちゃらお笑いね。今の世の中、子供でも知ってるわ、そんなこと」


更新が遅れて申し訳ありません。映画『涼宮ハルヒの消失』なんて観に行ってる場合じゃないですね。頑張って更新します、はい。評価、感想は、もれなく作者の栄養になります。

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