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第五十四話・「自戒せねば」

「ちょ、リニオ! 乙女の柔肌に爪を立てたわねっ! このクソネズミ!」

(お前が乙女ならば師匠の頬を引っ張ったりするものか! 少なくともエリスならばそんなことをしないぞ! まったく、お前なんかよりもエリスが弟子ならば良かったな!)


 俺の発言がよほど頭に来たのか、単詠唱魔法でも放つぐらいに強い声が耳朶を打つ。


「アンタは私のペットっ! アンタの飼い主は私なの!」

(不躾に何を言い出すか! お前は飼い主ではない! 俺は師匠だぞ!)

「師弟だろうが関係ないわっ! アンタは私だけの餌をもらってればいいのよ!」

(ひまわりの種はお前に預けているだけだ!)


 キズナの腰につけたヒップバッグを指差す。


「相変わらず――ペットとの仲はよろしいようですね」


 エリスのために借り上げた広い部屋の中、うるわの声が明瞭に突き抜けた。線路を走る列車の、かたんことん、という規則的なリズムが、うるわの言葉の後を埋めようとする。


「まるで意思疎通は……人間のそれのようです。ペットとのやりとりにしてはいささか反応が多彩すぎではないかと」


 うるわの声に込められているのは猜疑心だ。俺はわずかに動揺して、動きを止めてしまう。それが馬鹿弟子にも伝わってしまったのか、いがみ合っていた力を瞬間的に放棄するキズナ。頬をつかんでいた指が離れ、俺はなすすべ無く空中遊泳を味わうこととなった。床に落ちていき、したたかに後頭部を打ち付ける。


『うるわ?』『怖い顔』『どうしたの?』


 首をかしげて、うるわに紙を渡すエリス。


「いえ、褒めただけですよ。お気になさらず……」


 エリスの頭を安心させるように撫でながら、俺とキズナを肩越しに睥睨してくる。地面で苦悶しながら、俺は半眼でうるわをうかがっていた。

 うるわは見くびれるような手合いではない。

 些細なことを見逃すには、洞察力に優れすぎている。


(自戒せねば)


 内心で先程の愚かな反応を悔いていた。自分がハムスターであることに高をくくっていて、単純なことを忘れていた。前提として、俺は自分が元人間であることは隠すことと決めている。キズナの存在だけでもはた迷惑だというのに、人語を解し、会話するハムスターの存在などは論外の論外だ。鴨が葱を背負うように、災厄が最悪を連れてやってくるようなもの。それはすなわち災いのるつぼだ。

 キズナとの二人旅ではあまり気をつけなくても良かったことが、四人旅になってからは注意事項のオンパレード。常に互いが視界の中にあればなおのこと。俺ともあろう者が、なんて浅慮なことを……猛省せねば。

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