表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/99

第五十三話・「リニオは返してもらうわよ」

「は~、やっとこの町ともおさらばってわけね。思えば、こんな町に来てからろくなことが起きなかったわ」


 驚くべきことに、この馬鹿弟子は被害者面をしている!


「……ていうか、用事はなかったはずなのに、何で私この町で下車したのかしら?」


 説明しよう。

 お腹が減って仕方がないと駄々をこねたお前が次の発車までに数分あるからと駅の売店になけなしの金を手に食べ物を買いに出たところを後ろから走ってきたキースに肩をぶつけられ食べ物をお地面に落としたが三秒ルールがどうのこうのと言いながら慌てて拾い上げようとしたところに遅れて走ってきたアルフに跡形もなく踏んづけられたことに腹を立ててホームに並ぶ客をなぎ倒しながら追跡し始めた……こんな感じではなかったか?


「ま、覚えてないってことは、きっと些細なことね」


 お前の脳構造がうらやましい。生きていく上で馬鹿とは便利だな。悩むことが少なくて。


「ねぇ、うるわ、次の目的地はどこだっけ?」


 勢い増して滑り行く景色。魔法列車の発車ベルの残滓を聞きながら、キズナは心底嫌そうにため息をついた。


「ハイザーゼンです。すでにそこでエリスの手術を手配してくれるよう頼んであります」

「さすが、そっちの手も早いじゃない、褒めてあげるわよメイド」

「ありがとうございます。そのお礼と言ってはなんですが、キズナの周りを飛んでいる目に見えない小さな虫を払って差し上げましょう。……あ、今、キズナの鼻先に留まりましたね。キズナ、いい子ですから、一ミリたりとも動かないでください。動くと怪我をしてしまいますからね。一撃で仕留めて見せます」


 矛盾だらけの優しさの中に感じられる多数の悪意。ツッコミどころがありすぎでどこからつっこんだものか迷ってしまうぞ。


『仲良くするの』

「勘違いなさっては困ります、エリス。私の行為はあくまでも善意から来ています」


 悪意のある善意ってやつだな。言い換えれば、余計なお世話というところか。


「さてと、せっかくの列車の旅だし、ちょっと車内でも探検してくるわ」


 探検……お前はガキか。


「エリスには悪いけど、リニオは返してもらうわよ」

『ばいばい、リニオ』


 エリスの人差し指と握手をしてやると、眉根を下げて憂いを漂わせるエリス。ふむ、エリスよ、今はまだ今生の別れという場面でもない。そのような悲しい顔をするほどでもないはずだ。うるわと今後のことを話しながら、ゆるりと俺の帰りを待つがいい。

エリスの表情を気にかけながらも、キズナの胸ポケットにいそいそと入り込む。


『また、かしてくださいね』


 寂しそうに手を振ってキズナの背中を見送るエリス。


「気が向いたらね」


 いつから俺は貸し借りの出来る便利な物に成り下がったのか、それが知りたいところではある。


「キズナ、言っておきますが、迷子にだけはならないようにしてください。……それと、くれぐれも他の乗客の迷惑にもならないように」

「だって、リニオ」

(だそうだ、キズナ)


 ……。


 同じタイミングで出た言葉が相殺され、俺とキズナはお互いをにらみ付ける。

いやに反抗的な目だな、馬鹿弟子。


「迷子になるなですって、リニオ」

(迷惑になるなだそうだぞ、キズナ)


 師弟でにらみ合う。


「こ……のっ、迷子になるなですって、リニオ……っ!」

(うぐ、ぐ……っ迷子になるなだそうだぞ、キズナ……っ!)


 俺の頬を両手で引き延ばすキズナの手を、爪で引っ掻いて応戦する。こういう時、ハムスター姿は役に立つ。ハムスターである俺の皮膚は、厳密に言うと体にぴったりとはくっついていないのだ。ルーズというわけではないが、引っ張られると簡単に伸びる。つまり、天敵に捕まれた場合には、この皮膚のルーズさを利用して、反転して反撃することができるという仕組みだ。

 しかし、手加減を知らないキズナの握力は頬がちぎれんばかり。

 痛いものは痛かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ