第五十話・「初めまして」
金色の髪の毛は、太陽の光を反射する清流のようにきらめいており、きめの細やかな肌は触れば汚してしまいそうなほどの白さを誇っていた。華奢な体つきは深窓の佳人と形容するにふさわしく、青く澄んだ瞳の色も、つぶらでぱっちりとした目の中で一層の美しさを誇っていた。
身に纏う純白のネグリジェには、嫌らしさなど微塵にも感じさせない。三段に切り替えてギャザーを寄せ、ふんわりとしたお姫様を思わせるデザイン。ヒラヒラの袖と大きなリボン、胸部分にあるフリルが少女らしさを演出していた。
首からは髪の毛と同じ金色のケースが下げられ、胸の真ん中で異彩を放っている。
「カーティス様、彼女がエリスです。エリス・エラルレンデ、エド様の宝物でございます」
臆面もなく宝物と言ってのけるうるわ。
皮肉の一つでも言ってやるのが常ではあったが、何の疑いもなくすんなりと頭の中に入ってきてしまうほどに、少女の美しさは際だっていた。
ただ一つ残念なのは、少女故に色っぽさというのは一片にも感じられないことであった。俺が審美眼を光らせていると、少女――エリスは首から提げた金色のケースを空ける。
中に入っていた紙にさらさらと文字を書き込んでいく。
話すことの出来ないエラルレンデ家の一人娘。
エド・エラルレンデが決して酔うことの出来ない酒を次々と飲み干しながら、我が子の障害をとつとつと嘆いていたことを思い出す。
『初めまして』『エリス・エラルレンデです』
二枚。
大きなベッドから、白魚のような足を伸ばして、楽しそうに紙を差し出す少女。
「カーティス様は、これからエリスの先生としてしばらくの時間を共にしていただくわけですが、それにあたって諸注意がございます。エリスの前では言葉遣いを気にする必要はございません。私がそうしているように、エリスのことは、エリスとお呼び下さい。これは他でもないエリスのご意志なのです。先生と生徒。そのような接し方を望まれております」
メイドでありながら、うるわがエリスを呼び捨てにするのにはそういう理由があったのか。
俺はエリスから差し出された紙を左手で受け取り、右手を差し出す。
「こちらこそ、初めまして。俺の名前はリニオ・カーティス。聞いたら二度と忘れられないだろう、偉大なるリニオ先生だ。まずは俺の名前を確実に頭にたたき込むように」
『はい、リニオ先生』
「よし、いい子だ」
頭を撫でてやる。
細い髪質か手のひらに心地よい。くすぐったそうに首を縮め、片目をつぶって、えへへと照れる。
笑顔が印象的な少女であった。