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第四十九話・「はい、リニオ先生」

 点々としたランプに照らされた長い廊下を歩いていく。

 職務のため席を離れることになったエラルレンデに代わり、メイドのうるわが案内を命じられた。

 会話はない。ただ後ろについていくだけだった。

 前を淡々と歩いていくメイドを見れば、一本線の通った真っ直ぐな背中が印象深く、歩き方一つをとっても優雅と言うよりは、隙のないものであった。

 顔の筋肉は固まっているかのように動きなく、メイドの接客にしては愛想もない。エラルレンデがどういう意図を持ってこのメイドを側に置いているのかは、一見しては計りかねるが、音一つ立てないその足取りから、何となく身の回りの世話のためでないことは明らかだった。


「こちらです、カーティス様」


 突き当たりのドアの前で立ち止まったうるわが、ゆっくりとドアを開ける。

 言われるままに中に入る。見渡した部屋は華美な装飾の施された広大なもので、床にはシルク製のカーペットが敷かれており、つややかさといい、繊細さといいい極上のものであることは明らかだった。

 このタイプの絨毯は、踏めば踏むほど糸が固くしまり、色合いも深まり美しさが増すと言われている。華美さと耐久性、芸術性と実用性を兼ね備えたものであるため、庶民が踏みしめることはまずないだろう。


「エリス、カーティス様がいらっしゃいました」


 天蓋付の大きなベッドに横たわる人影。うるわの声に反応する動きはない。死んでいるわけではないのが、かすかに聞こえてくる呼吸音で判別できた。とすると、死んだように眠っているだけか……。

 それにしても、エラルレンデ家の一人娘を呼び捨てとは、メイドの教育が行き届いていないのではないのだろうか。


「エリス、起きてください、エリス」


 身体を揺すられてエリスと呼ばれた女が身体を起す。天蓋からたれる薄い布から透けるシルエットは小さい。眠りの余韻をくすぶらせながら、目をごしごしとこすっているのがかすかに判別できた。

 正直なところ、あの勇猛のエラルレンデの娘と言われて、尻込みするところがあった。エラルレンデの巨体から推測するに、娘はエラルレンデを二回りぐらい小さくしたようなものと考えていた。

 蛙の子は蛙。古人も恐ろしいことを言うものだ。


「カーティス様がいらっしゃっています。このままお話しなさるおつもりですか? エラルレンデ家の一人娘としてこの姿はよそ様にお見せできません。まずは、万歳してください。はい、ばんざーいです。ばんざーい」


 小さなシルエットが高々と手をあげる。メイドの言うことに唯々諾々としたがう様は、どこか情けない。身の回りの世話を従者にさせるという意味では、至極当たり前のお嬢様なのかも知れないが。


「よろしいです。手を下げて下さい。次は顔です。よほど深い眠りにつかれていたのですね、よだれが口元から垂れて首にまで達しています。拭って差し上げますので、顔をこちらに差しだして下さい」


 小さなシルエットがうるわに顔を突き出した。


「親鳥に餌をねだるひな鳥のポーズです、ぴよぴよです。ぴよぴよー」


 感情のない声でぴよぴよと繰り返すメイドというのは、まるで現実感がない。


「そうです、そのままですよ、エリス。しばしの間我慢です」


 うるわの手がごしごしと上下に動いている。


「これで大丈夫です。……それではカーティス様、こちらへおいで下さい」


 天蓋から流れ落ちる布をくぐると、そこには小さく可憐な少女がいた。

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