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第三十六話・「一緒にお風呂!」

 目の前で繰り広げられる、従者と主人の押し問答。


『リニオと!』『一緒にお風呂!』

「エ、エリス、私は、あなたのためを思って」

『私のためを思うなら』『リニオとお風呂!』『リニオは可愛いし』『頭もいいし』『優しいし』


 エリス、俺はキズナなどではなくお前を弟子にしたいぞ。

 嬉しい文字の連なりが傷付いた俺を癒してくれる。

 言葉とは不思議なものだな。口に出して言ってしまえばその場限りだが、こうして文字にしておくことで、いつまでも形として残しておける。喜びの証として、いつでも触れることができる。人の記憶は曖昧だ。だが、エリスよ、お前の言葉は確かにここに息づいている。

 曖昧な人の記憶に頼ることなく、な。


『リニオは』『これからも』『一緒に眠ったり』『遊んだり』『お風呂に入ってくれるもん!』


 さりげなく未来形を入れるしたたかさは気にはなるが、おおむね良好な関係を築けそうだ。


『うるわみたいに』『小言も言わないし!』『意地悪もしないし!』『子供扱いしないし!』『お料理にピーマン出さないし!』


 なおもエリスの攻勢は続く。

 うるわにぶつけられる一枚一枚にはそれほど深刻なことが書いてあるわけではないのだが、うるわ自身はキズナと殴り合ったとき以上のダメージを負っているようだった。

 たとえるならば、体中にナイフが刺さっていくような痛切さだろうか。


『リニオを悪く言ううるわなんて』

「エ、エリス……」

『大っ嫌い!』

「――ッ!」


 決定的な一言。

 息をのむうるわ。

 まるで心臓に剣先が突き刺さったかのように胸を押さえると、がっくりとくずおれる。背負うのは絶望の帳。しまいには四つんばいになってぶつぶつと念仏のようなものを唱えだした。


「……大っ嫌いと言われてしまった……大っ嫌い……大っ嫌い、エリスは私が大っ嫌い……もう、私には存在していく価値はありません……私の価値はエリスのお世話をすること……エリスのおそばにいること……世界はエリスであり、そのエリスに大っ嫌いと言われた私は……世界から大っ嫌われていることになる……世界から大っ嫌われた私にこの世に居場所などあるのでしょうか……いや、ありはしないのです……」


 暗黒のオーラを口から放出している。


『でもね』


 絶望の重しを背負っているうるわの目の前に、そっとエリスが紙を差し出した。


『最後はなんだかんだ言って』『私を尊重してくれる』『うるわが……』

『私は大好き!』

「ネズミと一緒にお風呂に入りましょう、エリス」


 いいのかそれでっ!


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