第三十四話・「たまには真面目になったらどうだ?」
「キズナ、一つだけ忠告しておきたいことがあります」
三人部屋へ移動する道中、うるわが背中越しに告げてきた。
エリスはすでに新しく用意された部屋で待っている。旅の荷物をうるわが運ぶのに、嫌々キズナが付き合わされている格好だった。
「警告の間違いじゃないの?」
言い返すこともなく、黙々と階段を上っていく。階段を上るうるわの背中が、キズナには付き合わないと語っているようだった。
「【ハンド・オブ・ブラッド】の中でも、ジェイク・アイアンサイドという男には気をつけてください」
「そのジェイクとかいうアイアンサイドの駄犬が、性懲りもなくワンワンかみついてくるわけ?」
「ええ、そうです。ジェイクはアイアンサイド家の最後の正統後継者でありながら、【ハンド・オブ・ブラッド】の首領でもあります。くせ者揃いの【ハンド・オブ・ブラッド】をまとめている人物で、かなりの実力者です」
「どんなに実力があろうが、犬は犬。吠え面かかせて、きゃんきゃん言わせてあげるわよ」
キズナが右の拳を左の手のひらに打ち付ける。手のひらを打つ音に合わせて、うるわが後ろを振り向いた。驚いたわけではなく、落ち着いた眼差しでキズナの瞳をじっと見つめていた。
足音が止まれば、踊り場は無音。きしむ音さえ聞こえない。
「期待しています、キズナ」
それだけを言うと、うるわは折り返しの階段を上っていく。
狐に化かされたように固まったまま、キズナはうるわが階段を上るのを見送るのだった。
「何よ、あれ」
「忠告だそうだぞ」
かなり不吉な忠告ではあったが……。
いいだろう、馬鹿弟子の代わりに、俺が素直に受け取っておくことにしよう。
「ふん、いきなり真面目になるから、びっくりしたじゃない」
「お前もたまには真面目になったらどうだ?」
「いきなり御真面目になりなさるから、御びっくりしてしまいましたわ」
……もう何も言うまい。