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第二十七話・「負けるわけにはいきません!」

 うるわはキズナの迎撃を、身体をよじって交わすと、キズナの背中に自らの背中を重ねるようにしてキズナの背後に回る。

 キズナの喉が感嘆に唸った。

 相手の回転力を逆手に取った見事な身のこなし。無防備な後頭部に痛烈なひじうち、さらには身体を寄せられ脇腹へ拳をめり込まされる。

 キズナの身体から、密着する俺の身体へ鈍い音が断続的に伝播する。この音は、骨にひびでも入れられたか。仕上げとばかりに、うるわは前のめりによろけたキズナの首にがっちりと腕を極める。戦いを開始して、初めて二人の距離が密着した零距離となる。加速に加速を重ねたせめぎ合いは、ここに来て静の攻防へと変速した。


「先程の言葉を訂正しなさい、キズナ。エリスに謝罪するのです。私の理性が少しでも残っている内に、です」


 首ごと潰さんばかりのスリーパーホールド。

 背後から両掌を合わせる形で両手を組み、前腕をキズナの喉にあてて絞め上げる。敢えて細かく解説するまでもない。


「事実を訂正する……必要なんてないわ……!」


 頸動脈を制され、脳への血の流れを閉塞させる。古典的な技だが、人体の構造上、一番確実で、なおかつ脱出困難な技だ。

 さすがに万事休すか、キズナ。このままでは一分と持たずに意識は遠のき、最後は糸の切れた操り人形のようにぷっつりと崩れ落ちるだけだぞ。


「では、泥のように眠りなさい」


 この公園は、ベッドとしては心地よくはないな。


「うる……わ……認めなさい」


 うるわはキズナのおしゃべりが許せないらしい。キズナが声を振り絞ろうとする度に、うるわも力を振り絞る。無理をしているのは明らかにキズナだ。虫の鳴くような声が口から漏れ出る度に、目の焦点が少しずつ揺らいできている。

 キズナの視界には、もはや黒と白、あるいはまたたく星空しか映っていないのかも知れない。全てが漆黒に塗り潰されたとき、脳に巡るはずの血が止められ、思考能力は落ち、まもなく意識は失われるだろう。


(キズナ……いいのか? このままでは負けるぞ?)


 意識が途絶える前にささやいてやる。聞こえていたのか、キズナが霞む視界の中で俺を見る。俺が胸ポケットにいる保証なんてない。危険を感じて遠ざかっている可能性もある。だが、キズナは途切れかけの視界で、真っ暗の視界で、胸ポケットを一心に見下ろしてくる。俺がそこにいると信じ込んで、俺の動きを制する意思だけを強く込めて。


(ふむ、お前の意思は分かった。お前がそれでもいいというのならば、俺はそれでいい)


 安心しろ、キズナ。ここは俺の特等席だ。どこへも行ったりはしないさ。今は、もっと良い場所が見つかるまでの暫定としてここにいてやろう。


「弱さを……認めないで……」


 キズナの身体にさらなる力が加わる。

 キズナの中で胎動する魔力。心臓の高鳴りと歩調を合わせるように身体の隅々で魔力が蠢き始める。自身では容易に制御できない魔力がキズナに手をさしのべる。

 魔法とは別の、意識的ではない識閾下で。


「……! まだ抵抗するのですか!」


 うるわの締め上げる腕に手を置くと、引きはがす力を強めていく。完全にホールドされたうるわの腕が、キズナの力によって真っ赤にうっ血する。

 ぎりぎりと、力と力の均衡する音が耳にまとわりついて離れない。


「このような力を、どこに隠して……!」


 引きはがされていく腕にうるわは驚愕を隠しきれない。


「弱さを認めないで!」


 息を取り戻し、声を解放する。

 公園中に響き渡る気勢に、肌にぴりぴりと感じる痛み。うるわは気圧されるように一歩後ずさり、キズナから離れようとする。キズナは毛穴から漏れ出す青白い魔力を全身に纏いながら、うるわの胸ぐらをつかんで鼻先に顔を近付けた。


「強くなることは出来ないのよ!」


 耳をつんざいた。鼻と鼻がぶつかり合う超至近距離。

 うるわは負けじと裂帛の気合いをこめたストレートでキズナを貫こうとする。


「だとしても、負けられないのです! 私は負けるわけにはいきません!」


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