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コメディ系短編小説

競寿司

作者: 有嶋俊成

  ーーとある回転寿司屋での話…なのだが…



 小荒井(こあらい)は、友人の西窪(にしくぼ)と共に回転寿司屋に訪れていた。カウンター席に小荒井と西窪が隣り合う。小荒井が寿司が流れてくる側、西窪が寿司が流れていく側にそれぞれ座っている。

「………」西窪は流れてくる寿司を鋭い目でじっと見つめている。

「………」小荒井はその西窪を表情を変えずにじっと見つめている。

「ウニだ…」西窪の目線の先にはレーンの奥から流れてきているウニ軍艦。橙色に光輝く身を乗せた軍艦が皿の上に二つ並んでいる。

 西窪の視界にウニ軍艦が入ると同時に小荒井もウニ軍艦に目をやる。

「来るぞ来るぞ来るぞ…」西窪の目がさらに鋭くなる。

 徐々にウニ軍艦が近づく。

「あっ!」

 しかし、ウニ軍艦は手前の客によって取られてしまった。

「あーっ、もう少しだったんだけどな~」西窪が悔しそうな表情を浮かべる。

「まあまあ、仕方ないね。」小荒井は静かに言った。

「いやぁ~また負けちゃったぁ~」西窪は耳に赤い鉛筆をかけた。「でも次のがまだあるからな。」西窪は再びレーンに目を向ける。

「………」じっと静かにレーンを見つめる。

「あ」小荒井の視界に稲荷寿司が入った。

 稲荷寿司は手前の客の誰にも取られることなく小荒井のもとへ近づいていく。

「あーっ!」小荒井が稲荷寿司を取ると西窪が叫んだ。「もう少しで一着、稲荷寿司だったのにー!」

「馬でやれよ!」小荒井が叫んだ。「なんださっきからずーっと寿司食わずにレーンだけ眺めやがって。」

「ここは競寿司(けいずし)の会場だからだよ!」

「もうわかったよ! なんだよ、良い回転寿司屋があるって聞いてそんでついて行ったらなんか変な競馬モドキみたいな店に連れてこられて。普通に寿司も食えるから良かったけどそれなかったら俺今頃恐怖で震えてるからな。」

「うわぁ~小荒井が稲荷取らなければ当たってたのに~」

「うるせぇよ! 俺はただ寿司が食いたいんだよ!」

「こうなったらまた賭けるしかないな。」西窪が目の前のタッチパネルを操作する。「一着・ウニ軍艦、七着・ウニ軍艦っと」

「ウニ軍艦はウニ軍艦でまとまって来るだろうが! 二番目から六番目に何を挟むんだよ。」

 小荒井が西窪にツッコんでいると、寿司皿が流れるレーンの上のベルトコンベアーが動き始め、皿の上に馬券ならぬ“寿司券”が置かれたものが流され、西窪の前に到着した。

「何にコンベアを使ってんだよ! そんでお前その耳の上の赤鉛筆外せ! さっきから付けたり外したりよぉ! 付けたり外したりしてるだけじゃねぇか! ずっとパネルで馬…寿司券買ってるだろうが!」

「雰囲気が大事なんだよ。」

「回転寿司屋にギャンブルの雰囲気もクソもねぇよ!」

 小荒井は目の前に流れてきたイクラ軍艦を取った。

「「あ~っ!」」レーンの先から声が聞こえてくる。「イクラ軍艦一着外れた~」「これでネギトロ軍艦一着確定だ!」

「このギャンブルは俺が牛耳ってるのか!」小荒井は西窪より奥に座っている競寿司の客を見て言った。

「それで良いんだよ小荒井。」西窪が言う。

「なにがだよ。」

「お前の寿司食った金が、俺たちの配当金になるんだよ。」

「何でこの回転寿司屋、摘発されねんだよ!」小荒井はレーンの方に向き直る。「おうおう、こうなったら俺がお前らの競寿司の全てを握ってやるよ。“寿司”だけにな!」

「よ~し! じゃぁ次はこの順番だ!」

 西窪やその他の競寿司客はタッチパネルを操作し寿司券を買っていく。ベルトコンベアーが慌ただしく流れる。

「お~来た来た来た。」小荒井や西窪の目線の先にはたくさんの寿司皿が流れてきている。

「よ~し、まずは二着・ウニ軍艦来い!」

「ウニ取ったー!」

「あーっ! 五着・イクラ軍艦!」

「イクラ取ったー!」

「八着・ネギトロ軍艦!」

「ネギトロ取ったー!」

「だーっ! 大ハズレだ! なんでだよ~!」

「お前が横で叫んでるからだろうが!」小荒井は口に詰まった軍艦たちを一気に飲み込んでから言った。「お前、何でレースを牛耳ってるヤツの前で気前よく予想公開してんだよ。」

「はぁ~今日は調子悪いなぁ~」西窪はため息をつきながら目の前に流れてきたオクラ軍艦を取り、食べた。

 普通に食べることもあるのね…と思いつつ、小荒井はガリを皿に添えた。

「ん? なにこれ?」小荒井がガリに何かが付いているのを見つける。「紙?」

「ああ、それハズレ寿司券。千切ってそこに捨てていくんだよ。」

「衛生法、大丈夫かよ。」

 少しの休息を取った後、西窪は再び動き出す。

「よし、今日はこれで最後にしよう。」タッチパネルを操作し、最後の寿司券を購入する。

「よーし。俺次はゆるやかにいくぞ。」小荒井は徐々に腹が満たされていた。

 レーンの先から寿司皿が流れてくる。

「来た! しらす軍艦二着来い!」

 小荒井はしらす軍艦を取った。

「だぁーっ! でもこれで納豆軍艦が三着に来た!」

 小荒井は魚介に飽きてきたので納豆軍艦を取った。

「嘘だろ! 最後九着! 鮟肝軍艦来いっ…おっ!」

 なんと最後はまさかの鮟肝軍艦ラッシュだ。

「あーっ! 鮟肝はムリ! ムリムリムリ…」鮟肝が苦手な小荒井は複数流れてきた鮟肝軍艦を取ることが出来ず、最後の最後で西窪に配当金獲得を許してしまった。

「よーし本日初配当!」西窪は腕を振り上げる。

「というかさ…」小荒井は口を開く。「何でこの回転寿司屋、軍艦しか流れてこねんだよ!」

 先程から流れてくるのは軍艦軍艦軍艦のオンパレード。今のところ軍艦以外で流れてきたのは稲荷寿司だけだ。

「俺は刺身が乗ったヤツが食いてぇんだよ!」

「小荒井」西窪が小荒井の方を向く。「これが競寿司だ。」

「何が?」小荒井の頭は《?》でいっぱいになっている。

「まあちょっとだけ配当金取れたし、少し豪華なの頼むか。」西窪がタッチパネルで寿司券の購入ではなく食べ物の注文を始める。

「本当にちょっとだけだけどな。ほんで何頼んだんだ?」

「馬肉寿司。」

「馬でやれよ…」



  ーー終わり

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