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第7話 幼いソフィアを救ったもの

 今から10年ほど前。

 当時5歳だった私は魔女として未熟で、同じ歳の子と比べても決して出来がいいとは言えなかった。むしろ――


「ソフィアはほんとダメだな」

「ソフィアが一緒だと私まで成績下がっちゃう」


 魔女は3歳になると、魔力の扱い方を習うため「魔法園」へ入園する。

 私は入園して2年経っても魔力がうまく扱えず、飛行すらやっとだった。

 飛行なんて、普通は1年もあれば習得できるのに。


 魔女の社会は実力主義で、それは子どもであっても例外ではない。

 力があれば露骨に優遇され、見込みがなければ容赦なく切り捨てられる。

 出来の悪い私は先生に見放され、親にも呆れられていた。


 ――私、どうしてこんなにだめな子なんだろ。


 溢れそうになる涙を必死にこらえていたが、自分が惨めで悲しくて、ある日私は魔法園を飛び出した。


 ……が、こんな時間に家に帰れば怒られるに決まってる。

 私は行くあてもなく歩き続けて、気づけば町の外れにある公園へとたどり着いていた。


 ――っう……ぐすっ……うぇ……


 ブランコに座ると、抑えていた涙が堰を切ったように溢れ出した。

 制服である真っ黒なローブに、ぽたぽたと丸いシミができていく。


 私だって、こんな自分嫌なのに。

 ちゃんと練習もしてるのに。

 なのにどうして――。


 リナは早く飛べていいな。

 マリルは魔力の扱い方がうまいって褒められてた。

 ロードの攻撃魔法すごかったな。


 私は一生何の役にも立てず、迷惑ばかりかけて生きていくのかな。

 そんな生き方しかできないなら、いっそ死んでしまいたい。

 私、なんで生まれてきたんだろう?


 そんなことを考えていたその時。


「どうした?」

「?」


 顔を上げると、そこには1人の男の人が立っていた。

 私より年上の大人っぽい男の人だった。

 でも、問題はそこじゃない。


「に、にん……げん……?」

「隣、いいかな?」

「え、っと、うん。でも、あのっ」

「実は、いつもの通学路を歩いてたはずが気づいたら知らないとこにいてさ。迷子なんだよ。オレもう15なんだけどな……参ったよまったく」


 男の人は、笑いながらため息をつく。

 誰かが人間界へのゲートを開きっぱなしにしていたのかもしれない。


「おまえはなんでこんなところで泣いてるの? 名前は?」

「……ソフィア」

「ソフィアか。オレは小鳥遊大翔。大翔でいいよ」

「ひ、ヒロト……」


 ヒロトは、泣きじゃくっている私の頭をそっと撫で、優しく微笑みかけてくれた。

 こんなふうに優しくしてもらうのはいつぶりだろう?

 私は閉じ込めていた感情を抑えられなくなり、ヒロトに思いをぶちまけた。


「……そっか。みんなができてることができないって辛いよな」

「うん。私、いらない子なの」

「……じゃあ、オレがおまえを必要としてやるよ」

「えっ?」


 私は思わずヒロトの方を見る。


「オレがおまえを必要としてやる。だからそんな悲しいこと言うな」

「で、でも」

「オレじゃ嫌か?」

「う、ううん! そんなことない!」

「じゃあ決まり! ……っと、もうこんな時間か。そろそろ家に帰らなきゃだよな。オレも帰り道探さなきゃ」

「……あ、ありがとう。あの、帰り道はこっち。だと思う」


 私は、感覚を頼りに人間界へのゲートが開いている場所までヒロトを案内する。


「この路地をまっすぐ行けば、元の場所に出られるから」

「まじか。ありがとう助かったよ! ……ソフィア、いいことを教えてやる。昨日の自分より一歩でも進めれば、それは勝ちだ。頑張れよ」

「! う、うん。分かったっ」


 ゲートを通過してしまったら。

 そしたらヒロトの、こちら側にいた間の記憶は消えてしまう。

 人間に魔女の世界を知られないための対策らしい。

 ヒロトの中から私が消えてしまうのは悲しいけど。でも。


――昨日の自分より一歩でも進めれば、それは勝ち。

私、がんばるねっ!


 ヒロトが元の世界へ戻ったのを確認して、私は家への道を急いだ。

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