第2話 魔女狩りされたい自称魔女
部屋に入った瞬間、目の前に見知らぬ女が立っていた――。
女は黒いシンプルなワンピースに尖った帽子という、「THE・魔女」といった格好をしている。
「え、ええと、部屋を間違ってませんか?」
「はっ! しまった見つかってしまったー! 大変だー!(棒」
……え、何だこのセリフの棒読みみたいな反応。
まさか本物の不審者? 空き巣?
いやでも逃げる様子もないし、なんかこっちの様子を窺ってるし……
「ここ、オレの家なんだけど」
「うん、知ってるよ」
えええええええ。
何なんだこいつ……
「不法侵入は犯罪だぞ。出ていかないなら警察を呼」
「ま、待って! ほら、よく見て! なんか思わない?」
「?」
女は自分の着ている服や帽子を指さし、アピールしてくる。
「……コスプレ?」
「ちがーうっ! ほら、黒いワンピースにとんがり帽子といったら?」
「魔女のコスプレ」
「もうっ! コスプレから離れてよっ! 魔女! 魔女なんですよ私!」
ええと。
誰か家に帰ったら頭のおかしなコスプレ女(自称魔女)がいた時の対処法を教えてください。
「……うん、分かった。じゃあこれで」
「待って待って待って! 私魔女ですよ!? このまま返していいの!?」
「いや魔女とか言われても。というか本当帰って……」
せっかくの休職中にこんなおかしな奴と関わり合いになるなんてごめんだ。
というか鍵閉めてたよな? どうやって入ったんだ?
窓、開けっぱなしにしてたかな。
「なんでよーっ! 魔女といえば魔女狩りでしょ!?」
「…………はい?」
「だから、魔女狩りしないの?」
「しません」
「ええええええ」
いや、ええええええ!って言いたいのはこっちだよ。
魔女狩りってなんだよ。
「というかオレ腹減ってるんだよ。今なら見逃してやるから帰れ」
「ごはん!?」
自称魔女は、買ってきたスーパーの袋を興味津々で見ている。
「べつにそんな変わったものは入ってないぞ。オレは魔女じゃないからな」
「あははっ! 当たり前じゃない! 男なのに魔女なわけないでしょ」
こいつ――殴っていいかな!?
「ねえ、何食べるの?」
「はあ? そんなことおまえに関係ないだろ」
「ええーっ! 教えてよーっ!」
「……鶏肉のソテーだよっ」
「ぐ……おいしそう……」
と、そこで。
ぐぅうううー
「……おまえ腹減ってんのか?」
「う、うん。もう2日何も食べてなくて」
「――ったくしょうがないな。じゃあおまえの分も作ってやるから、食ったら帰れよ!」
「い、いいの!? やったー! そういえば、ソテーって実質火あぶりだよねっ! 私にぴったりの料理じゃない!? ねえねえ!」
この女うるせえ。
早く食わせて帰らせよう。
「そうだな。じゃあ今から作るから、あっちで大人しく待ってろ」
「はーいっ!」
自称魔女を帰らせるためにも、オレは仕方なく2人分の鶏肉を焼くことにした。